第13話:廃墟の歌姫
『地響き』が、廃墟の底から這い上がってくる。
……ビルの残骸を薙ぎ倒し現れたのは
『マザー』が地上制圧用に設計した巨大重機兵『ベヒモス』だった。
かつて、旧人類が『掘削機』として使用していた物に
『戦車』と呼ばれる兵器の『砲塔』を継ぎ接ぎしたようなその怪物は
森と化した街を無慈悲に踏み躙っていた。
「分かるでしょう? ……『マザー』は
この街が『秩序』に従わないからという理由だけで焼き払う。
彼らにとって、私たちは『計算を乱すノイズ』でしかないのよ」
緑の紋様を持つ少女――彼女の名は『サヤ』と言う。
彼女が崩れたビルの屋上で、静かに祈るように目を閉じながら
酷く冷静に、そして悲しげにそう言った直後
彼女の頭上で揺れる触角は淡く『虹色』に発光した。
「1301……あなたの力を貸して。
あなたの耳は、まだ自分だけの音しか聞いていない。
それではダメ……もっと深く、この街の『血管』に触れて」
『サヤ』が僕の手を取り、ビルの壁面を覆う巨大な蔦へと押し当てた。
その、瞬間――
「――ッ!?」
脳が爆発するかのような情報量……それは、音というよりも
『脈動』のようだった。
……地下数百メートルにまで張り巡らされた
根が持つ『ネットワーク』……数千本の植物が交わす『電気信号』
街全体が、一つの巨大な『脳』のように思考し
最悪の状況の中……何故か『歌っている』
僕の『超感覚』は
『ネットワーク』が齎す歌と共鳴を開始した――
(……聞こえる。
このビルが、此方に倒れたがっている。
あの一本を断ち切れば『ドミノ』のように
『ベヒモスを押し潰せるぞ』……と!)
僕は『超感覚』を最大まで引き上げた。
鉄骨の『疲労度』『風の流れ』『重力の掛かる方向』
それら全てが、輝く光の糸となって僕の『視界』を埋め尽くす――
「リア! カイン! ……右の蔦を引いて! 街の呼吸に合わせて!」
僕の叫びに、リアとカインが呼応した。
二人もまた、僕を通じこの巨大な生命体の『歌』を感じ取っていた。
バリッ……バリバリバリバリバリッ!!!
『カイン』が、超人的な筋力で主要な支柱を固定していた蔦を断ち切る。
それと同時に『リア』は『声』を放った。
……それは物理的な破壊力を持つ高周波の『歌』となり
ビルの亀裂を瞬時に走らせた、そして――
「今だ……倒せェェェッ!!」
――僕が蔦の『ネットワーク』へと
直接、強制的な『切断命令』を送り込んだ、直後。
巨大なビルは、まるで生き物のように身を翻し
一心不乱に突き進んできた『ベヒモス』の真上へと崩落した。
ズゥゥゥゥゥンッ!!!
……爆煙と土埃が舞い上がり
鉄の怪物は瓦礫の山に埋もれ、二度と動かなくなった。
静寂が戻った廃墟に『サヤ』の安らかな歌声だけが響く――
「『力を貸して』とは言ったけど……信じられない。
私たちが何年もかけて守ってきたこの街を
あんなに鮮やかに操るなんて……」
『サヤ』は驚愕の表情で僕を見つめていた。
僕は、彼女の称賛を理解するため自分の手を見つめた。
理解は出来なかった……だけど
これは『マザーが与えた力』じゃない。
暗闇を『否定』し、音のない世界を『拒み』
この世界の鼓動に耳を澄ませたからこそ得られた『対話』の力だ。
「……きっと、サヤの教え方が上手いんだ。
『ジン』……次の目的地を教えてくれ」
僕は、墜落した飛行艇の前で
呆然としていた『ジン』に向かってそう言った。
「も、目的地ったって……」
「『ジン』……『マザー』は、僕たちだけじゃ無く
この世界で生きようとする全ての命を狙っている。
それは、恒久的平和を訴える存在として……あまりに破綻した行動だ。
やっぱり『マザー』は壊れているんだ。
なら、僕たちがやるべきことは一つの筈……」
僕たちは、もはや『迷子』ではない。
旧人類の遺産を奪い合い、管理し合うのではなく
この大地と共生するため、歩き出さなければ成らない――




