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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第六章~記憶の迷子編~

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第71話 次はないからな?(お互いに)

「これは、わからせないといけないかなぁ……」


 ソファーの端に追いやられ、かろうじて腕をついて体重の支えにしながら仰け反る望を、妃菜はソファーに片膝を乗せて半立ちになった状態で見下ろしている。


 白い頬は淡く色づき、尖らせた唇は開くまでもなく不服を訴え掛けるよう。半開きにされた淡紅色の瞳はじぃ、と望を咎めるように見つめており、決して逃がさない。


 ゴクリ、と望は喉を鳴らす。

 風呂上がりで血の巡りが良くなっているところにこの緊張感が悪さして、額や背中が少し汗ばんでくる。


 取り敢えず今しなければいけないことは目の前の少女を落ち着かせることだと即座に判断した望は、ぎこちなくも半ば無理矢理に笑みを作る。


「わ、悪い。何か気に障るようなことがあったらちゃんと聞くから、な? だから、取り敢えず落ち着こう……?」

「私は落ち着いてるよ、大丈夫。落ち着いたうえで、多分望くんには言葉だけで言っても伝わらないんだろうなぁって思うの」

「グッバイ俺の信用……」

「わかったら大人しくしなさい」

「そうしなかった場合どうなる……?」

「変身して物理的に大人しくさせる」

「死ぬって」


 住居を軽々と飛び越え、硬い地面や壁などを軽々と砕いてみせる超常的な身体能力を誇る魔法少女の拘束に、一体どこの一般人が抵抗出来るというのだろうか。


 蟻が象の足に踏まれて無事だったなら一縷の望みはあるかもしれないが、一縷しかない望みに身体の安全をオールインするほど、望はギャンブラーではない。


「ふふ、死にたくなければ大人しくしろ」

「いくら可愛く言っても、絶対魔法少女の口から出してはいけない台詞だろ、それ」


 曖昧に笑って困ったような目を向ける望の視線の先で、妃菜は悪戯っぽく笑うだけ。


「望くんが悪いんだよ? 私がちょっと独占欲強めなの、知ってるのに……」

「そ、それは知らなかったなぁ……てっきりめっちゃ強いのかと……」

「じゃあなおさらだよ。それとも、わざとやってる……?」


 スッ、と細められた妃菜の目。

 望は慌ててブンブンと首を横に振った。


「ま、まさか……! 成り行きでしょうがなくというかっ、見ず知らずの相手ならまだしも今回は妃菜の妹だったワケでっ……! 別に気にしないだろうなって思ったというか……!」

「ふぅん、なるほどねぇ……」


 妃菜は片膝を望の脚の間に立てたまま、仰け反りすぎてほぼ仰向け状態になっている望に被さるように諸手を両脇について体重の支えにする。


「ちょちょちょっと近くありませんかね?」

「うん、だから?」

「すみません何でもありません」


 口答えしても無意味だと悟り、望は自身が持ちうる全リソースを、理性という名の本能の蓋の重さと耐久値に振ることにした。


「あのね、私にとって由菜すっごく大切な存在でいっちばん可愛い妹なの。だから、望くんが私の妹に優しくしてくれるのは嬉しいし、それで仲良くなるのも別に良いんだけど……それとこれとは話が別……!」

「うっ……」


 ぐいっ、と妃菜が顔を近付けてくる。

 ごく至近距離から淡紅色の瞳が、望の顔を赤く映す。


 甘く良い香りが鼻腔をくすぐり、薄手の寝間着越しに妃菜の身体の柔らかさが上半身の触れ合った箇所からありありと伝わってくる。


 互いの体温を交換し、呼吸のペースが重なる。


「理屈では良くても感情では良くないよ。望くんは私だけのモノじゃないけど、少なくとも私だけの御使い――パートナーでしょ? その辺り、もうちょっと考えてくれないと……」


 妃菜は静かに望の耳に口元を近付けて、息たっぷりに囁く。


「(闇堕ちしちゃうよ……?)」

「~~っ!?」


 破壊力抜群の魔法少女によるリアルASMRを受けて、カァと囁かれた望の耳が真っ赤に茹で上がる。身構えるようにギュッと目蓋を固く閉じて、肩も竦めてしまっていた。


 そんな望の様子を見て、妃菜は小悪魔のように微笑む。


「ふふっ、可愛い」

「誰でもこうなるだろっ……!?」

「望くん、いっつも余裕たっぷりって感じだから……ちょっと新鮮で、もっとからかいたくなるね……?」

「別に余裕を感じてたことなんてないんだが……」


 理性を固く持っておかなければ同棲生活を送るうえで妃菜を安心させられないだろうと思って、表に動揺を出さないよう心掛けているだけで、実際はいつだって全力で余裕なんて微塵もない。


「えぇ、ホントかなぁ……?」

「くぅっ……!」

「ふふ」


 望の肩に顔を擦り寄らせる妃菜。

 それは犬猫がマーキングをするかのように、自身の香りを望に擦り込む勢い。


 望は悶えて歯を食い縛る。


「あぁ、大人しくしてって言ったのに……」


 妃菜はピタリと望に身体を寄せて、耳を望の胸に当てて口角を持ち上げる。


「ここは随分とうるさいよ?」

「そりゃ生きてるからな……!?」

「ちょっと生き急ぎな気もするけど」

「誰のせいだと……」


 望が暗に犯人を示しても、妃菜はくつくつと可笑しそうに身体を震わせるだけ。


「ん~、望くんあったかい」

「というか熱いんですけど……」

「それは望くんが興奮してるから……?」

「っ、そういうことじゃなくて……!」


 もちろんそういうところもあるけど! と心の中で叫びながら、そんなことは口には出来ない。


「もう春。俺湯上り。熱い」

「冷房つける?」

「離れてくれるだけで解決するんだが……」

「そんな選択肢は存在しないよ?」

「許してくれぇ……」

「ふふ、だぁーめ……ふわぁ……」


 へにゃりとした笑みで否定した妃菜だったが、可愛らしく開いた口から眠たげな音が聞こえる。


「うぅん……」


 鼻で唸り、目元を擦る。もちろん手は使えないので、望の胸に顔を埋めてスリスリ。


「……ひ、妃菜さん?」

「んー?」

「眠いのでは?」

「そんなこと、ふわぁ……ないよ?」

「説得力!?」


 望がツッコミを入れるが、妃菜はもうそれが聞こえているのかいないのか。望の胸に完全に頭を預けて、重たくした目蓋を落としそうになっては持ち上げ、落としそうになっては持ち上げ、落とし…………


「ちょ、ちょちょちょ!」

「望くん……は……」

「寝るな寝るなこの状態で寝るな!?」

「……渡さないよぉ……」

「っ、はいはい! それより危機感ってもんを――」


 慌てる望の注意がその耳に届く前に、妃菜の意識は睡魔に囚われてしまった。望にもたれ掛かった妃菜の身体から、すぅ……と力が抜けていくのがわかる。


 香澄達と遊んで疲れていたこともあるのだろう。


 完全に寝落ちしてしまっていた。


「……はぁ」


 望はため息を吐きながら、首の力を抜いて熱くなった顔をぐてんと重力に垂らした。


「無防備にもほどがあるだろ……」


 自分のことをそれだけ信用して安心してくれるのは嬉しいが、それはそれとして男の胸で眠って何事もなく朝を迎えられると思っている意識は問題だ。


(今度注意するのは俺の番かなぁ……)


 望はそう決めてから、妃菜を横抱きに抱えて部屋に運び、ベッドに寝かせてから静かに自室へと帰っていった。


 一男子として色々と辛い夜を過ごし、寝不足になったのはまた別の話――――

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