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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第六章~記憶の迷子編~

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第72話 さては誰か噂してんなぁ……?

 五月初め。

 ゴールデンウィークがもう目の前で両腕を広げて待っており、更にその一週間後には中間テストが腕を組んで仁王立ちしている今日。


 学校から帰ってきたあと、妃菜は家事をする望を家に残して、一人で魔法少女協会に足を運んできていた。


 特に精密な検査があるなどというワケではなく、単純に自分の担当官であるテュカとの近況報告や相談の機会である――――



「最近は妃菜ちゃんの体調も魔力も安定しているようで、テュカは安心なのですよぉ~」


 小さな箱庭のような空間で木製のテーブルを挟んでいる妃菜とテュカ。


 妃菜はそれはもう心の底から安堵しているようなゆるゆるの表情を見せるテュカに、多少の申し訳なさから眉を下げて曖昧に笑った。


「あはは、ご心配をお掛けしました……」

「本当ですよぉ~、もぉ~」


 でも、とテュカはニコッと可愛らしく笑って言う。


「それもこれも望ちゃんの影響なんですかねぇ~?」

「そ、そうなのっ……!」


 テーブルに上体を乗り出す勢いで食い気味に肯定する妃菜。テュカはアホ毛をピンと直立させながら目を丸くしてしまった。


「の、望くんってね、凄いんだよっ!? 朝起きてご飯作ってくれたら、朝に弱い私を起こしてくれるでしょ? 不器用な私の代わりに髪梳いて結ってくれたり制服のネクタイ結んでくれたりするし、お弁当はいつだって美味しいし、勉強もわかんないところいつでも教えてくれるんだ~! あとあと、疲れたときとか落ち込んでるときはいつも傍にいてくれるし、嫌がらずに甘えさせてくれるし……!」


 妃菜の口調はどんどん捲し立てるように早くなり、テュカが少し慌てたように両手をブンブン振って制止する。


「す、すとっぷ、ストップでぇす! 望ちゃんの良さはすごぉく充分伝わりましたぁ~!」


 幼げな顔に困った笑みが浮かぶ。


「御使いさんというよりは、もうお世話係……なんならお母さんですねぇ……」


 少なくとも他の御使い持ちの魔法少女らとはまったく異なる生活状況の一端を垣間見た気がしたテュカ。妖精特有の尖った耳をシュンと下向きに垂らしながら、曖昧に笑って尋ねる。


「ち、ちなみにですがぁ、ここは望ちゃんに直してほしいなぁ~とか、改善点? のようなものがあれば、参考までに聞かせていただけますかぁ~?」

「うぅん、望くんは今でもう充分すぎるくらいだからなぁ……」


 それをサラッと言ってしまうんですねぇ、とテュカは内心で気恥ずかしさ半分呆れ半分。


「あ、でもちょっとだけ……」

「何ですぅ?」


 テュカが尋ねると、妃菜はテーブルに乗り出し気味だった身体を引いて居住まいを正し、顔の横に垂れる白い髪の毛を一房指に巻き取った。


「その、望くんは優しいけど……それは別に私だけにじゃなくて、皆にだからさ……? 無自覚に人たらしなところがあるというか……」


 ふむふむ、とテュカ。

 妃菜はモジモジ。


「それが望くんの良いところではあるんだけど、えっと……知らないうちにどこかで誰かと仲良くなってるというか、虜にしているというか……」

「えぇっとぉ、それは単に望ちゃんが良い人間という話なんじゃぁ……?」


 テュカ的には御使いとしての望の成長に繋がる何かの答えを期待していたのだが、内容がまさかの私生活関連だったうえに、これといって悪いことでもなさそうなもので、少し困惑の色を浮かべてしまう。


 しかし、妃菜はテュカが想像する以上にはその部分が引っ掛かっている様子で――――


「そーゆーことじゃないのぉ~!」


 妃菜の不満を蓄えた瞳が半開きにされ、頬はぷくぅと膨らむ。


「別に、望くんを束縛して交友関係を管理したりはしないけどさぁ~」

「ま、魔法少女として、まずその発想が出てきてること自体どうなんでしょうかぁ……」


 そんなテュカの消え入るような呟きが聞こえているのかいないのか。妃菜は続ける。


「でも、他の魔法少女とまであんなに仲良くならなくてもいいじゃん……? 私というものがありながらさぁ……そう、私というものがあるのにだよっ……!?」

「は、はぁ」

「こんなに可愛い女の子がすぐ傍にいるっていうのに、ちょっと目を離したら望くんはすーぐ他の女の子と仲良くなってぇ……!」


 妃菜は拗ねたように唇を尖らせると、どこへともなく視線をやって言葉を並べた。


「望くんって私に魅力感じてないのかなぁ、うぅん……でも、甘えたらちょっと恥ずかしそうにしたりドキドキしたりはしてたし……って、それは誰だってなっちゃうよね。別に私が特別ってワケじゃないし……やっぱり私、全然タイプじゃない……? もっとちっちゃくて愛嬌のある感じじゃないとダメなのかなぁ……?」


 ぼそぼそと呟きながら悩まし気に表情をコロコロと変えていく妃菜を呆然と見つめて、テュカはその黄色い瞳をパチクリと数回瞬かせたあとに小首を傾げて尋ねた。


「えっとぉ、妃菜ちゃんは望ちゃんが好きなんですぅ?」

「……へっ?」


 唐突なテュカの質問が虚を突いたのだろう。

 妃菜は一瞬身体を硬直させたあとに、テュカの方へ真っ赤にした顔を向けた。


「ち、ちがっ……違うよ……!?」

「えぇ~? でも、そうとしか聞こえなかったと言いますかぁ~」


 慌てて否定する妃菜を見て、テュカは少しからかうようにニヤリと笑う。ぴょんと立ったアホ毛が緩くハート形を作った。


「好きなんですねぇ~?」

「そ、そういうんじゃなくて、だよっ……! ほら、そういうのあるでしょ!? なんか、すっごく仲の良い友達が自分以外と仲良くしてたらモヤモヤ~みたいな!」

「ん~、それとはまた違うモヤモヤなんじゃないですかねぇ~?」


 テュカが指摘を重ねる度に、妃菜の顔の赤みが増していく。白髪の合間から覗く耳の先端がもう溶け落ちそうな色になっていた。


「もぉうっ、そんなんじゃないってばっ……!」

「えへへぇ~?」


 ぷいっ、とそっぽを向いてしまった妃菜。

 テュカは持ち上がる口角を押さえられないまま思った。


(妃菜ちゃんの白魔力が溜まるも黒魔力が溜まるも望ちゃん次第って感じですかねぇ~?)


 責任重大ですね、望ちゃん? と。

 テュカが心の中でそんなことを思ったと同時、望はキッチンでくしゃみをしていたのだった――――

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