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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第六章~記憶の迷子編~

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第70話 わからせはするものであって、されるものじゃなぁい!

 書店を出てアフィスティアと別れたあと、望は隣接するスーパーで夕食に使う食材を買ってから帰宅。


 ほどなくして香澄を含むクラスメイトの女子達と遊びに出掛けていた妃菜も帰ってきて、妃菜が入浴している間に望が夕食を作り、二人でダイニングテーブルを囲って食べたあと、望も遅れてお風呂に入って今日一日のやることをすべて完了させた。


 望は寝間着の襟元をパタパタさせて湯で熱くなった身体を冷ましながら、リビングソファーのやや左寄りに座っていた妃菜の右隣へいつものように腰を下ろす。


 すると、待っていたとばかりに妃菜が「ねね」と自分のスマホ画面を傾けて見せてくる。


「これ、今日みんなで食べてきたスイーツ。可愛いでしょ~」


 画面に映っているのは、大きな白い丸皿に載せられたイチゴタルトと桜色のマカロン。食材も色も、春テーマにしたものだった。


 こうして楽しげに見たものを共有してくる妃菜の方が可愛いと素直に望は思ってしまったが、スイーツと人物を比較するのも変な話。


 望は柔らかく笑ってから頷いた。


「おぉ、いいな。可愛い」

「ね~」

「楽しかったか?」

「うん。その分疲れたけどね、あはは」

「ま、遊ぶのにも体力使うしなぁ~」


 だから望もインドア派なワケで――というのはさておき、妃菜はそれに加えて周囲に求められる美少女像を無意識のうちに演じてしまう。他人よりさらに疲れやすいのはそのせいだ。


「うん、そうなの」

「おっと?」


 望の言葉に頷いて、妃菜がコテンと頭を望の左肩に預ける。ふわっ、と仄かな甘い香りを感じる。


「だから、ちょっとエネルギーチャージ」

「俺はガソリンスタンドか何かかな?」

「ふふ、私の力の源はガソリンじゃないよぉ」

「魔力だろ? 知ってるって」

「んー、そうだけどぉ……そうじゃないかなぁ……」


 妃菜は望の肩に預けていた頭を滑らせながら上体も倒し、望の膝を枕として敷く。


 ドキドキ、と望の心臓が騒ぎ出す。

 一言断ってもらえれば心の準備が出来るが、こう急に来られると流石に動揺してしまう。


 望は気恥ずかしさから細めた目で、自分の膝の上で寝る妃菜の顔を見下ろした。


「ちょ、おい……」

「ダメ?」

「っ、ダメじゃないけど、ちゃんと言ってからやってくれ……流石にビックリするからな、俺も」

「じゃあ、膝枕してもらってます」

「それは事後報告!」

「ふふっ」


 ったく……、と望は満足そうに目を細める妃菜の頭に優しく触れながら、小さくため息を溢す。


 そのまましばらく特に何を喋るでもなく、ただ静かな時間が過ぎていく。頃合いを見て、望は閉じていた口を動かした。


「そういえば、さ」

「ん?」

「今日、俺もちょっと散歩してて」


 望はどういう感情で伝えれば良いのかわからないまま言った。


「そしたら、たまたま会ったんだよ。妃菜の妹……というか、悪の組織の幹部に」

「えっ!?」

「ういっ――たぁ……!」

「あっ、ご、ごめんっ……!?」


 バッ、と勢いよく起き上がった妃菜の額が、それを見下ろしていた望の鼻先にぶつかった。身体的な反応として涙を滲ませながらソファーの背もたれに大きくもたれ掛かる望に、妃菜が慌てて謝る。


 涙が出る割に痛みは一瞬でそこまで強いものでもなかったので、望は手をひらひらさせながら「大丈夫、大丈夫」と妃菜を安心させる。


「それより、そう。会ったんだよ」

「っ、由菜っ……だよねっ!?」

「ああ」


 由菜としての自覚を持たない彼女をその名で呼ぶことが正しいのかどうかはさておき、望は小さく首を縦に振る。


「だ、大丈夫だった……!? 由菜は望くんを狩りに来たの!? い、いや、でも望くん、無事……だよね? 何ともないよね……本当に何ともないっ!?」

「ひ、妃菜、落ち着いて……!」

「でもっ……!」

「大丈夫。見ての通り俺は無事だから」


 本当は妹である由菜のことが一番心配なはずなのに、それでも真っ先に望の無事を確認する妃菜。


 その優しさに望はつい頬を緩めてしまいながら、異常がないことをアピールするように軽く両腕を広げてみせる。


 妃菜は見て確かめるだけでなく、ペタペタと望の胸元や腹、脇を触診した。


「くすぐったいんだが」

「う、うん、何ともなさそう……」


 よかったぁ、と安堵の息を吐く妃菜。


「あっちもプライベートだったというか、何か悪さするために来たわけじゃなかったっぽいから、そこは安心してもらって大丈夫だぞ」

「もぉう、それは結果論ってやつなんだからね?」

「返す言葉もございません」


 咎めるようにぷくっ、と頬を膨らませて見つめてくる妃菜に、望は眉尻を下げながら笑う。


「それで、由菜は……どうだった……?」

「まぁ、相変わらずな感じだな。残念ながら、妃菜の妹としての認識はないみたいだった」


 そっか、と妃菜は力なく笑って目を伏せる。


「でも、自分は何者なんだろうって色々悩んでるらしくて。もしかしたらそれが由菜としての自覚を取り戻す手掛かりになるかもしれない。そういう意味では、小さいかもしれないけど一歩前進してるのは確かだぞ」

「そ、そうなんだ……って、え!? あの由菜が、今の状態の由菜が望くんにそんな悩みを話したのっ!?」


 望の言葉を呑み込む若干のタイムラグを経てから、妃菜が前のめりになって望に確認する。対する望は距離を保つようにやや身体を仰け反らせた。


「ちょ、ちょっとだけ、だけどな!?」

「ちょっとだけぇ……?」


 訝しむような半目を向けてくる妃菜に、望はコクコクと繰り返し頷く。


「な、なんか河川敷で写真撮っててさ。あまりに下手だったからちょっと撮り方教えて、どうせならもっと桜の綺麗なところがいいよなと思って案内して、それから本も買いたいらしかったからそれに付き合って……って、そんな感じでちょっと仲良くなった? と思うから? 多分それで……」


 本人に仲良くなれたかと聞いても「なってませんっ!」と否定されるのは間違いないので、望はその辺りは曖昧にしておく。


 そして、本当は神社で自然発生したシャドウに襲われてアフィスティアに助けてもらうということもあったが、必要以上に妃菜を心配させたくないので、その事実は伏せておくことにした。


 嘘はついていない。

 一部事実を伏せただけで、しっかり今日あった出来事をありのまま伝えた、のだが…………


「んむぅ……」

「ひ、妃菜さん……?」


 じぃ~、と。

 妃菜が疑わしげでいて不満げでいて……とにかく望に何か言ってやりたいことがある気持ちを沸々と発生させていそうな目を向けてくる。


 戸惑う望の視線の先で、音もなく立ち上がる妃菜。


 望は何となく圧を感じてソファーに座る位置を拳一個分右にずらす。その分妃菜が一歩。さらに移動して、でもやはり妃菜が距離を詰めてきて。


 ソファーの端に望を追い詰めた妃菜は、片膝をソファーに立てて仰け反る望を見下ろした。


「これは、わからせないといけないかなぁ……」

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