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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第六章~記憶の迷子編~

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第63話 良いリアクションをされるとついからかいたくなるよね

「げっ……」

「……げ?」


 目が合った瞬間、灰色髪の少女がそれはもう鬱陶しそうに表情を歪めて声を漏らしてきた。初対面のはずなのに。


 そんなにジロジロと見ていたつもりはないが、知らない男子に見られることをよく思わない女子もいるだろう。望も一瞬それが原因かと思ったが、少女の反応からしてそういうことでもない雰囲気だった。


 まるで、もう何度か望に苦手意識を持つ出来事があったような…………


「ど、どうしてこんなところで……いえ、この街の住人なのでこうなる可能性もあるのはわかりますが……」


 何やら一人ブツブツと呟いている少女。


「え、えぇっと……」


 望は見知らぬ少女に敬遠されて多少精神的ダメージを負いながら、戸惑いがちに笑って尋ねた。


「悪い、どっかで会ったことあるっけ……?」

「…………」


 少女は眉間にシワを寄せたまま望を半ば睨むように見つめる。しばらくその状態で沈黙が続いたが、やがて少女が大きなため息を吐いて言った。


「はぁ……いえ、初対面でしょう。すみません。ただ少し驚いてしまっただけですから、気にしないでください」

「そっか。なら良いんだけど……」


 本人の口から初対面だと聞かされても、何故か胸の奥のモヤモヤが晴れない感覚がする。


(会ったことないよなぁ。そうだよなぁ……でも、なぁんか見覚えがあるような気がするんだよなぁ……)


 望は改めて少女の姿を見てみる。

 灰色の髪。気だるげながらも整った顔立ち。全体的に黒を基調としたコーデ。それらピースが記憶のどこかにありそうで見付からない。


「うぅん、本当に初めまして……だよな?」

「そう言ってるじゃないですか」

「だよな。わかってる、わかってるんだけど……どこかで会ったことある気がしなくもないというか、見覚えがあるというか……」


 歯切れ悪く言う望に、少女は一歩後退って自分の身体を腕で抱く。


「な、何ですか、ナンパですか?」

「んなワケないだろ」

「私、そんなに幼くないですけど……」

「よし、取り合ず俺がロリコンである前提で話を進めるのをやめような?」


 警戒心を露わにする少女を前に、望は困ったように後ろ頭を掻く。


「ま、もしかしたらどっかですれ違ったときにでも見掛けたことあるだけかもしれないし……別にいいか……」


 直接面と向かって話したことがある相手であれば、多少なりとも記憶に残っているだろう。いくら考えても思い出せないということは、そこまでの関りがなかったということ。


 思い出せそうで思い出せない、という気持ち悪さがなくなったワケではないが、望は一旦記憶を掘り探していくのをやめた。


「えっと、ここには写真撮りに来たのか?」

「え?」

「さっき、桜の写真撮ってただろ?」

「み、見てたんですか……いやらしい……」

「そんな目で見てねぇよ。シャッター音が聞こえたから振り返っただけだっての」


 少女はその言葉の真偽を疑うようなジト目を向けてきていたが、「まぁいいです」と肩を竦めてスマホを差し出すように見せてきた。

 その画面には先程撮ったと思われる桜の木が映っている。


 桜色はもうまばらにしかなく、七割方が新緑に溢れていた。それはそれで良さがあると思うので別に構わないが、写真の一角が肌色にぼやけているのは気になった。思いっきりレンズに指が被っている。


「おぉ、下手くそぉ……」

「う、うるさいですねっ……!?」


 望が素直すぎる感想を呟くと、少女はバッとスマホを抱え込んで赤くなった顔を向けてきた。


「ふ、普段写真とか撮らないから仕方ないじゃないですかっ……!」

「それにしたって指は被らんだろ……あと全然被写体にピント合ってないし……」


 望だって写真の趣味を持っているわけではないし、まさか映え写真をSNSで頻繁に投稿してたりするようなキャラでもないが、それでもここまで酷く撮ることはしない。


「ちょっと貸してみそ?」

「よ、弱っちいクセに調子に乗らないでください……!」


 弱っちいかどうかは今関係ないだろ、と心の中でツッコミを入れながら、望は「いいから」と手を差し出す。

 少女はしばらく望の顔と伸ばされた手を交互に見やってから、恐る恐るスマホをその手に預ける。


「お、お手並み拝見といきましょうか」

「ご教示願いましょうか、と台詞間違ってない?」

「間違ってませんっ!」


 望は可笑しそうに口角を持ち上げながら、少女から受け取ったスマホを横向きに構えて手近な桜に近付いた。


「最近のスマホ優秀だから、手ブレとかピントとか勝手に処理してくれるけどさ」


 望がひょいひょいと手招きすると、少女はしかめっ面で隣にやってきて一緒に画面を覗き込んだ。


「とはいえ、何を撮りたいかを決めるのは撮影者だから、例えばこの桜の枝先に残った花を撮るとしたら、こうやって寄ってタップしてあげると……」

「あ、ピントがそこに……」

「あと、こうやって背景をぼかしてくれる機能もあって……ほら、ちょっと雰囲気出るだろ?」


 やりますね……と、少女がどこから目線からか感嘆する。


「やってみ?」

「は、はい……」


 少女は望からスマホを返してもらい、今見せてもらった通りの手順をなぞる。そして、パシャリ。


「……フッ、どんなもんですか」

「おぉ~、良さげじゃん。指も被ってないし」

「う、うるさいですよ……!」


 ドヤ顔だった少女は、望に醜態を掘り返されて恥ずかしそうに目を細めて睨んだ。望は笑いながら「悪い悪い」と平謝り。


「はぁ、ペースを崩されますね……」

「ごめんて」

「心にも思ってない謝罪は不要です」

「おっと、バレたか」

「それは隠す気があった人の台詞ですよ」

「てへぺろ」

「……その腹立たしい顔面を切り刻んで差し上げましょうか?」

「物騒すぎるだろ、お前」


 一体どんな環境に身を置いていたら私生活でそんな台詞が出てくるのか。温度を失った目で見つめてきていた少女から望は半歩分距離を取りながらぎこちなく話題を切り替えた。


「て、てか、アレだな。もうちょい早く来てたら満開の桜並木が見られたんだけどな」


 ちょうど先週辺りが見頃だったはずだ。

 望が昔両親と住んでいたときは、それくらいの時期になるとこの辺りの住人だけでなく、わざわざ遠くから足を運んで桜を見に来る人もいたものだ。


 今年は例の大きな戦いがあった影響でなくなったのかもしれないが、花見の時期には河川敷に屋台が並んで小さなお祭りのような雰囲気になっていた。


「そうですか、満開……」


 少女は堤防を見渡して感慨深そうに呟く。


「これほどの並木道で桜が咲き誇るとなれば、圧巻でしょうね……」


 目に映る景色が桜色で埋め尽くされている様子を想像しているのか、少女は静かに視線を投げていた。


(……満開の桜、見てみたいのかな?)


 望は少女の横顔を見て察し、数秒頭を捻ると一つ花見スポットを思い出した。


「ちなみに、多分まだ満開の桜があるって言ったら……どうする?」

「えっ、見てみたっ――」


 望の問い掛けに、少女はパッと花咲かせた表情で振り返るが、すぐにコホンと咳払いして気持ちを落ち着かせた。


「……見ても、いいかもしれませんね? 時間に余裕ありますし」


 澄まし顔を作る少女の反応に、望は「あー」ととぼけるような間延びした声を出しながら、どこへともなく顔を背けた。


「こっから結構歩くし、そこまでじゃなかったら別にぃ……」


 チラッ、と横目に少女を盗み見てみる。


「~~っ!?」


 顔を真っ赤にして、恥ずかしさと恨めしさが同居したような目で睨んできていた。


 満開の桜は見てみたいが、それを素直に望に言うのはプライドが許さない。そんな葛藤が激しく衝突している様子。


 意地悪く望が黙って見守っていると、少女はギリッと屈辱を噛み締めてから口を開いた。


「っ、み……」

「み?」

「見て……みたい、ですっ……!」

「お~、そっかそっか。なら行こう、見なきゃ損だ」


 満足げな笑顔を浮かべる望。

 少女はチッ、と鋭く舌打ちして熱を帯びた顔を背けた。


「こんな弱っちい男に辱められるなんてっ……!」

「なるほど、これがくっ(ころ)か」

「んあぁあああもうっ! ワケのわからないこと言ってないでさっさと案内しなさいっ!」


 ビシッ、と強く人差し指を差されて、望は「へいへい」と返事をしてとぼとぼ歩いていく。少女はそんな背中を恨みがましく睨んでから、二、三メートルほど距離を保ってあとをついていった。


 傍から見れば二人が同行者なのか、それともたまたま進行方向が同じだけの他人なのか微妙に判断しづらいもどかしい距離感。


「なんでそんな離れてんの?」

「別に何でもいいでしょう」

「はぁん、アレだ。知り合いに見られて学校で話題にされるのが恥ずかしいヤツだ」

「うるっさいですね、これっぽっちも掠ってませんからっ! というか私、学校とか行ってませんし!」

「ほぇ~、そっか。何と言うか……悪い、デリケートな話題に触れちまったな。しゃあない、俺で良ければ相談に乗るぜっ!」


 デリケートな話題とはいえ腫れ物に触るようされるのは相手にとっても不本意だろう。


 望があえておどけた口調を使いながらグッと立てた親指で自分を指すと、少女はキレ良くツッコミを返す。


「『ぜっ』じゃないですよ『ぜっ』じゃ! 貴方が想像してるような複雑な事情もないですし、相談するにしても何で貴方なんですかっ!?」

「確かに。それはそう」

「いいから黙って歩いてください! 貴方は喋ってないと死ぬ病気にでも掛かってるんですか!?」

「いやぁ、普段はどちらかというと静かな方だと思う。根っからのインドア派だし」

「ぜひ私の前でもそうしてください……!」

「遠慮するなって。俺からのサービスだ」

「遠慮も建前もなく本心ですし、それはサービスじゃなくてセールスの押し売りですっ!」


 と、結局変わらずこんな調子で。

 傍から見た人が、二人を他人だと思うことは一度もなかったのだった――――

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