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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第五章~信号機魔法少女編~

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第59話 何と言うか、毎晩コツコツご苦労様でーす!

「……由菜」


 動く人体模型――正確には動かされていた人体模型とわかったワケだが――の後ろから姿を見せた黒銀の仮面の魔法少女(アフィスティア)に、望の隣で妃菜が名前を溢す。


 はぁ、とアフィスティアは短く嘆息。


「貴女も凝りませんね。何度も人違いだとお伝えしたはずですが」


 呆れた口調で妃菜に言ったあと、顔の前に手を持ち上げて少し不愉快そうな声色に変えた。望は黒銀の仮面の下から睨まれたのを感じる。


「あと、それ。やめてもらえます? 眩しいので」

「あっ、悪い……」


 望は咄嗟に謝りながら、正面に向けていたスマホのライトを下げた。


(って、一応敵なのになんか謝ってしまった……)


 むしろ敵なのだから困ることをする方が正解なのではないか。視界を奪うためにもスマホのライトは向けたままの方が良いのではなかろうか。


 そう思ったときには既にスマホは下に向けてしまっていたので、ここからもう一度嫌がらせみたいに持ち上げるのは流石に良心が痛む。


「あ、ああああの人っ……悪の組織の幹部ですよぉ……!」


 望の後ろで怯え声を上げる優子だったが、流石は魔法少女。その手にはいつの間にか弓が握られており臨戦態勢を取っている。


 同じように亜莉沙がハンドガンの銃口を望の脇からアフィスティアに向けて歯噛みする。


「あの馬鹿みたいに強い奴じゃないの……!」

「お兄さんっ、下がってください……!」


 望の前に一歩踏み出した美玖が両拳を握って構えを取る。


 そんな信号機魔法少女らの様子を見たアフィスティアが、スッと掌を持ち上げてみせた。


「安心してください。今回私に交戦の意思はありませんので。まぁ……」


 ブワッ、とアフィスティアの全身から覇気やプレッシャーとも呼べる魔力の圧が放たれる。


「お望みであれば、ここで儚い魔法少女生命に終止符を打たせていただくのもやぶさかではありませんが」

「「「……っ!」」」


 美玖、亜莉沙、優子の額に冷汗が浮かぶ。

 ピリピリと肌を刺すようなプレッシャーだけでも感じる格の違い。まして三人は河川敷で妃菜とアフィスティアの戦いを見ているがゆえに、一層明らかに実力差を自覚している。


 睨み合いが続く中、望は強張る美玖の肩をポンと叩いた。


「お、お兄さん……?」

「んま、向こうにその気がないならここは穏便にいこう」


 望が安心させるように笑うと、美玖は数秒葛藤を見せたが「……ですね」と納得して拳を下ろす。それを見た亜莉沙と優子も、互いに顔を見合わせてから構えを解く。


 望はそれを見てから頷いて、アフィスティアに顔を戻した。


「それで、悪の組織の幹部ともあろう大物がこんなところでコソコソ何やってんだ?」

「いつだって我々の目的は一つですよ。黒魔力の収集、それだけです」


 確かに以前河川敷でもアラゾニアは魔法少女から魔力を回収するというようなことを言っていた。


「なるほど? 黒魔力は負の感情から発生するもの。動く人体模型で学校の生徒の恐怖感情を募らせていたってところか」

「ご名答」


 アフィスティアが三度小さく拍手をする。


「先の戦いでそちら側が消耗しているように、こちらもまた万全ではありません。無駄に戦わずに黒魔力を収集する手段として、実に理に適っているでしょう? 都市伝説や七不思議、怪奇現象、噂などに感情を左右されやすい年頃の若者が集う学校を黒魔力の養殖場にするのは」


 美玖や亜莉沙がムッと不服そうに顔を歪めたが、二人が感情的に何かを言う前に「確かにな」と望が頷く。


「それで毎晩せこせこ人体模型動かしたり、他の学校でも似たようなことしたりしてんのか……なんつうか、お疲れ様です……」

「イラっとするので哀れまないでください」


 アフィスティアが仮面の下で目を細めた、ような気がした。


「でも、集めてどうすんだよ?」

「……貴方には関係のない話です」

「関係ないことはないだろ。俺だってお前らに迷惑掛けられてる一人だ。せめてアンタらの活動目的くらいは知りたいね」


 望が飄々とした態度で肩を竦めると、アフィスティアは「はぁ~!」と今度は苛立ちを過分に含んだため息を吐く。


「五月蠅い口ですね。黙らせますよ?」

「え、なに俺。お前にキスされんの?」

「は……はぁっ……!?」


 語り口に抑揚の少ないアフィスティアが意外にも声を裏返らせた。


「ば、馬鹿なんですかっ!? 馬鹿ですよね、ええ馬鹿ですっ!」


 流石に望も冗談で言っただけなのだが、想像していた以上にアフィスティアが動揺している。背中から「何言ってんの、おにーさん……」と亜莉沙の呆れと軽蔑が入り混じったような呟きも聞こえてくる。


「の、望くん……!」

「い、いやいや冗談だって」


 隣で妃菜がジト目を作っているので、望は慌てて弁明を開始する。


「少女漫画的な展開であるんだって! Sっ気の強いヒーローが『うるせぇ口だな』って言ってヒロインの口をキスして塞ぐヤツ!」

「そ、それはわかるけどぉ……!」

「あ、わかるんだ」


 時折サブカルへの造詣の深さを見せる妃菜。

 望としては話が合って嬉しいばかりだ。


「でも今そう言う雰囲気じゃなかったよね……!? というかそれ以前に私、自分の妹が望くんとキスしてるところなんて見たくないよ色んな意味で!」

「誰が貴女の妹ですかっ! あとしませんから! あぁ、もう……!」


 妃菜の切実な叫びに必死にツッコミを入れるアフィスティアは、仮面の上から額を手で押さえる。


「貴方達と相対しているとどうもペースを崩されますね。虚言癖魔法少女と……ロリコン御使い……」

「ねぇ、何で俺そんなにロリコン疑惑があるんですかね?」


 妃菜がこちらにクルリと顔を向けて。

 アフィスティアがジッと見つめてきて。

 望とその周りに立っている美玖、亜莉沙、優子を同じ画角に入れる。


 数秒間の沈黙に耐えかねて、望が降参するように諸手を挙げた。


「状況証拠は揃ってるようだ……」

「幼女じゃないって言ってるんでしょうがっ!?」


 望は脇腹を亜莉沙にハンドガンで突かれて「ぐえっ」と間抜けな声を漏らす。


「はぁ、まったく。付き合ってられません」


 アフィスティアが渡り廊下の窓の鍵をカチャッと外して、窓を開けた。流れ込む夜風がその灰色の長髪をたなびかせる。


「バレた以上この方法はもう使えませんね。ここ数日間でそれなりに黒魔力も収集させていただことですし、私は戻らせていただきます」


 窓枠に手を掛けるアフィスティアを妃菜が咄嗟に呼び止める。


「戻るってどこに……!?」

「もちろん組織へ、ですが」

「どこにあるの!? どこに行けばまた由菜に会えるのっ!?」


 アフィスティアが肩越しに振り返って呆れた声を出した。


「敵に本拠地を教えるワケないでしょう……」

「それはっ……そうかも、だけど……」

「あと再三言っていますが、私は貴女の妹ではありません。別人です。私は貴女が誰か知らない。この間河川敷でまみえたときが初対面です。いい加減理解してください。別人の名で呼ばれるのは非常に不愉快です」


 でもっ、と一歩踏み出して食い下がろうとする妃菜の腕を、望が掴んで引き止める。


「妃菜、これ以上は」

「でも望くんっ、由菜が……!」


 妃菜の気持ちを理解したうえで、望は静かに首を横に振る。


 もし妃菜がアフィスティアの気分を逆撫でして戦闘に発展するようなことがあれば、妃菜が万全な状態ならともかく、今の戦力では美玖達を加えたところで敗北は必至。それほどまでにアフィスティアは強い。強かった。


「俺達は敵同士だ。争っている以上また会う機会は絶対来る。状況はともかくとしてな。準備を万全に整えておいて、そのときに連れ戻せばいい」

「……っ!」


 手を伸ばせば届く距離。

 妃菜は葛藤の中、力の籠った瞳でアフィスティアを見つめて……瞼を閉じた。


「……そう、だね……」

「賢明です」


 アフィスティアは妃菜から視線を外すと窓の外の景色へ顔の向きを戻す。望がその背中に一声掛けた。


「またな」


 ピクリ、とアフィスティアの動きが止まる。


「……特に貴方とはもう顔を合わせたくないんですが」

「なんか俺だけちょっと当たりキツくね?」

「自覚はあるんですが、貴方を見ているととてもイラっとするんです。キツく当たられている自覚があるならもう話し掛けてこないでください」

「流石に傷付くって……」

「知ったことではありません。では、さようなら」

「ああ、またな」

「……チッ、さようならっ!」


 アフィスティアはキレッキレの舌打ちをかましてから、窓枠に掛けた手を支えに両膝を折り畳んでジャンプし、外へ飛び出していった。


 夜闇に紛れるその後ろ姿は、すぐに目で追えなくなってしまった――――

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