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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第五章~信号機魔法少女編~

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第58話 魔法少女は力加減が難しいようで……

 もうすぐ夜中の十時が見えてきた。

 夜闇に没した校舎内は暗く静かで、闇に馴染んだ目をもってしても長く続く廊下の向こう側はよく見えない。


 ポツリ、と一つ闇に浮かび上がるようにして灯る警報機の小さな赤い光が、一層不気味さを増している。


 頼りになるのは望が手に持つスマホのライトだが、それでも足元とその少し先をおぼろげに照らし出すだけ。


 一年A組の教室を窓から覗き、動く人体模型がやってきていないことを確認すると、校舎内に入るときに見た一年B組の教室を通り過ぎて、慎重かつゆっくりとした足取りでC組、D組……と教室の中を順に確認していく。


「E組にもないな。よっし、じゃあ次は三階に上がって二年生の教室を……」


 B組とC組の間にある階段まで引き返そうと思って望が振り返ろうとするが、左右に妃菜と美玖、背後に亜莉沙と優子がピッタリとくっついているせいで身動きが取りづらい。


「お、お前らちょっとくっつきすぎ。動きにくい」


 ほぼ取り囲むような形で立っている魔法少女四人とのスペースを確保しようと、望が少し身体を揺する。それに後ろから亜莉沙が潜め声ながらに憤慨を表してきた。


「ちょ、ちょっと! 幼気な女の子を守ってあげようっていう気概はないのかしら、おにーさん!」

「この間は自分のこと立派なレディーって言ってただろうが」


 望が幼女呼ばわりしたら怒られたのでよく覚えている。立派なレディーを名乗るのであれば、これしきのことでおどおどせず悠然としていてもらいたいものだ。


「れ、レディーをエスコートするのが紳士の役目でしょ!?」

「果たして四人ものレディーを同時に相手にするのが紳士のやることなのかどうか……」


 困惑する望の左腕にしがみついていた美玖が捨てられた子犬のような目を向けてくる。


「ご、ごめんなさいお兄さん……お邪魔、でしたか……?」


 今にもくぅん、と寂しげな鳴き声が聞こえてきそうなその庇護欲そそる姿に、望は思わず「そんなことは……」と言ってしまう。


「す、すすす捨てないでくださいぃ……! お願いですから置いてかないでぇ……」


 望のシャツにシワを残しそうな力の入れ具合でしっかり両手で掴んでいる優子が、後ろから今にも掻き消えそうなか細い悲鳴を上げる。


「流石に捨てないし置いてかないって」


 とはいえ、同じく望の背中からシャツを掴んでいる亜莉沙はまだ遠慮があって少しゆとりがあるが、優子は両手で掴んでいることもあって結構引っ張ってくる。


 間違いなくこの中で一番ビビっていた。


「えっと、妃菜は強いしもうちょい距離取ってても……って、ちょぉ!?」


 曖昧な笑みを浮かべながら望が顔を向けると、妃菜は反対に腕を絡めて引きつけるようにしながらグッと密着してきた。


 変身していつもより長く伸びて緩くカールの掛かった白髪から甘い香りが漂ってくる。加えて、纏う装束の肩口やデコルテが露出しているせいで、望の腕に押し当って胸元に谷間が寄ったのがチラリと見えてしまう。


 少なくとも信号機魔法少女達には持ち得ない暴力だった。


「望くんは私の御使いなんだから……誰よりも私の近くにいてくれなきゃヤダよ……?」

「っ、とはいえ限度というものがあると思います……!」


 バクバクと心臓がやかましく唸る。

 夜の学校のスリルから来るものとは全く種類の違う動悸。


 下手に振り払おうとしても四人は離れまいともっとくっついてくるだけ。下手すれば魔法少女的な力加減を誤って、骨の二、三本はポキッと逝かれるかもしてない。


(夜の学校より動く人体模型より、よっぽどそっちのが恐ろしいわ……!)


 そうなるくらいだったら、まだ動きにくさと何かこう柔らかいものが理性を削ってくるのを犠牲にした方がマシか。そう判断して、望は諦めたようにため息を一つ。


「……はぁ、しゃあない。離れなくていいから、せめてちょっとゆとりを持たせてくれ。流石に動けん」


 望の言葉に、四人は少しだけ握ったり掴んだりする力を緩めた。動きにくいことに変わりはないが、動けないということはない。


「んじゃ、次は三階な~」


 望達は階段を上った――――



◇◆◇



「どこにもいなかった、よね……?」


 三年生の教室が並ぶ校舎四階。

 E組の前で妃菜が戸惑いがちに呟いた。


「み、見落とした、とかぁ……?」

「それはないわ。A組からE組まで一個一個見て回ったんだもの」


 不安げに声を震わせる優子に、亜莉沙がキッパリと言い切った。望も亜莉沙と同意見で頷く。


「ああ。流石に人体模型みたいな目立つものを見逃してるとは思えない。人体模型がどんな動き方をするのかは知らんが、俺達が通り過ぎた教室に瞬間移動したとかじゃない限り、まだ理科室にあるはずだ」


 ここまでの苦労を考えれば、最初に理科室を見ておけば良かったかなと一瞬思った望だったが、それは結果論でしかないとすぐに割り切った。


「んじゃ、理科室に行こう。張り込んでれば人体模型が動くところを見られるかもしれない」


 そうすれば動く秘密が見付かる可能性もある。


「えっと、理科室は向こう側の校舎の二階ですから、一度降りて渡り廊下を通っていきましょう」

「了解」


 美玖の道案内に従って、望は登ってきた階段を下りて再び一年生の教室が並ぶ二階に戻る。そして、階段の正面にある渡り廊下を通ろうと足を踏み入れた。


 そのとき…………


 カツ、カツ、カツ……と、正面から硬い足音が響いて聞こえてくる。


「っ、ストップ……!」

「ちょ、何よ……!?」


 望が渡り廊下に踏み入ったところで急に立ち止まるので、コツンと背中に顔をぶつけてしまった亜莉沙が不満げな声を漏らす。


「しっ。静かに」


 状況がよくわかっていないのは亜莉沙だけではない。美玖と優子もよくわからなそうにしていたが、口を閉じてからすぐにその足音に気付く。


「望くん」

「あぁ……」


 望が足元に向けていたスマホを持ち上げてライトで正面を照らす。そこまで遠くまで光は届かないが、それでもぼんやりと何かがそこにあるのがわかった。


 カツッ、と硬い足音が止まる。


 望が眉間にシワを寄せながら恐る恐る一歩、二歩……とライトを近付けると、薄らと人影が浮かび上がり――――


「おいおい、嘘だろ……」


 皮膚があるのは縦半身。

 もう片方は皮一枚剥がれて臓器という臓器が表に晒された人型の人形。


「じ、人体模型っ……!」


 望が淡く照らし出されたソレの名称を口にした途端、妃菜が右腕、美玖が左腕、亜莉沙と優子が背中をギュッと抱き締めて――――


「望くぅんっ……!!」

「で、出た出た出ましたぁぁあああ!!」

「キモいキモいキモいぃいいい!!」

「いやぁぁあああ!! あっち行ってくださいぃいいい!!」


「痛たたたたぁ……!! 痛い痛いっ、折れるってぇ……!!」


 魔法少女達の悲鳴と共に望の骨が軋む。

 望は痛みに悶えて声を上げる。


 人体模型はそんな望達を魂のない目でジッと見つめながら――――


「眩しいしうるさいですね……」


 そう呟いた。


「喋ったぁあああ!?」

「いやっ! もういやぁあああっ!!」

「すみませんすみませんすみません!」


 美玖、亜莉沙、優子が更に悲鳴を上げる。

 本当にその足で動く上に言葉も発したのだから無理もない。


 しかし、望は掴まれて抱きつかれて締められる痛みに耐えながら、人体模型の声で逆に冷静になった。


(な、何か……人体模型の声が、気だるげでちょっと可愛い女子みたいだったんだが……)


 あまりにビジュアルとのギャップが激しくて、驚くに驚けなかった。


(それに、どこかで聞いたような……)


 望が目を細めて見ると、人体模型の背後にもう一つ人影があった。


「お、お前ら落ち着け! やっぱ人体模型が動いてたんじゃない。動かしてる奴がいたんだよ」


 望の声に信号機魔法少女三人が少し冷静さを取り戻す。望の身体を掴む力を緩めて、恐る恐るといった具合に前を見た。


 この中で、妃菜は誰よりも早くその声の正体に気付いていたようで、望の腕を掴むことも忘れて呆然と人体模型の後ろを見つめていた。


「ま、そろそろ見付かる頃かなとは思っていましたが……」


 よりにもよって貴方達とは、と嘆息混じりに言いながら、人体模型がその場に置かれた。そして、人体模型を運んでいた犯人が後ろからカツッと靴底を鳴らして姿を現す。


 望が向けるスマホのライトを艶やかに反射する黒銀の仮面。暗がりに溶け込むような黒と紫を基調としたドレス。以前見た特徴的な得物こそその手にないが、見紛うことはない。


 妃菜がその名を口から溢した。


「……由菜」

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