第52話 どうも、ロリッ子に拉致られた男子高校生です
俊也や香澄を含めた四人グループでの付き合いを始めてから、望も少しずつ学園でも妃菜と接しやすくなってきていた。
四人でいるときはもちろん、時々妃菜と二人で喋っているくらいではあらぬ噂を囁かれることもなく、ただ男子からの羨ま恨めしい視線を一身に受けるだけで済んでいた。
とはいえ、流石に登下校を常に一緒にしているとなるとまた話が変わってくるので、その辺りは上手く調節している。
登校の際、家を出るタイミングは同時でも、電車に乗ってから学校に着くまでは一定の距離感を保って一緒に歩いているように見えなくする。
下校の際は、俊也や香澄らと校門まで一緒に帰ることがあればそのまま自然な流れで帰路を共に出来るが、それ以外の状況で二人だけで一緒に教室を出て帰ったりはしない。
あらゆる状況に対して事細かに取り決めているわけではないが、少なくとも望と妃菜の間に友達以上の関係性がある――ひいては同棲しているなどとは間違っても知られないように細心の注意を払っている。
そして、月曜日。
今日は放課後に妃菜が他のクラスメイトらと談笑していたので、望は校門まで俊也と共に行き、そこから短く別れを言って別々の方向の帰路に就いた。
ちなみに、香澄は流石学年成績不動の一位ということもあって、どうやら生徒会に入ったらしい。放課後はその活動があって誰より早く教室を出ようとして――転んでいた。
「あのどんくささはもう運動神経がどうとかの次元じゃないよなぁ……」
駅に向かう道中で、そう独り言を呟いて小さく思い出し笑いしていたところ――――
「あっ……あぁあああ!」
望の進行方向と反対から歩いてきて今まさにすれ違おうとしていた幼女が、突然こちらを見上げて立ち止まり、ビシッと人差し指を向けて声を上げてきた。
「白い魔法少女さんの人間の御使いさん!」
「んなっ……!?」
魔法少女? 御使い? と往来の人達が不思議そうに、訝しそうにチラチラと目を向けてくる。
桃色ボブカットの髪に水色の瞳。
小柄で童顔なせいで、まだランドセルを背負っていてもあまり違和感を覚えないくらいには幼く見えるが、着ている制服は街中で見掛けたこともある公立の中学校のもの。
だが、それがわかったところで残念ながら望には中学生の知り合いなどいないし、顔を合わせて早々正体を見抜かれていることに半分恐怖にも似た焦りを感じずにはいられない。
(だ、誰か知らんが周りの目もある……今はとにかく、逃げるっ!!)
ダッ! と望は身を翻して来た道を引き返すように駆け出した。
背中越しに「あっ、待ってくださーい!」と幼女の声が聞こえるが――――
(待てと言われて待つ奴がいるかっ!)
そんな悪役染みた台詞を心の中で返しながら、望は道行く人々の間を縫うように駆けて、恐らく追い掛けてきているであろう幼女を撒くために脇道へ入る。
「はぁ、はぁ……あの幼女は――」
「――もう、どうして逃げるんですか~?」
「うわぁっ!?」
特筆して足が速い自覚はない望だが、それでも男子高校生の走るスピードに対して特に息を切らした様子もなく追い付いてきたらしい。
振り返るとすぐ傍に桃色の髪が見えたので、不覚にも間抜けな声を上げてしまった。
「な、なんだお前、悪の組織か……!? っ、妃菜を倒すよりはその御使いである俺を狙った方が手っ取り早く妃菜の弱体化が出来るってことか。くっ、だからと言ってこんな幼女の刺客を差し向けてくるなんてっ……俺はロリコンじゃないぞ!」
戦う術を持たない望には対抗手段がない。
人間として殴る蹴るくらいのことは可能かもしれないが、それを見越してのことか相手は幼女。とても許されものじゃない絵面になってしまうので、可能不可能はともかくとして出来るワケがない。
流石は悪の組織。
人間の道徳感情を人質に取った高等な戦略だ。
しかし、望が悔しそうに後退りするのを見た幼女が、慌てた様子で両手をブンブンと振った。
「ち、違います違います、悪の組織じゃないです! 私、この前河川敷で一緒に戦ったときお兄さんにお世話になった魔法少女です!」
「……え?」
望がポカンとしていると、幼女は自分の胸に手を当ててニコッと笑う。
「お久し振りです、お兄さん! 私は櫻井美玖。西野方中学二年の、魔法少女です!」
だ、か、ら――と幼女もとい美玖は、頬を膨らませた顔をズイッと望に近付けて言った。
「幼女じゃないんですからね?」
◇◆◇
「……幼女に拉致られた」
「誰が幼女よっ!?」
駅前のカラオケボックスの一室。
このワケがわからない状況の中、唯一確かに理解出来ている情報をポツリと呟いた望に、金髪ミディアムの髪をハーフツインに結った翠緑の瞳を持つ少女が、テーブルを挟んだ対面からツッコミを入れてきた。
「良いこと、おにーさん? 学校は違うけど、私も美玖と同じ中学二年生。幼女じゃない。立派なレディーよ」
橘亜莉沙――今さっき各人自己紹介を終えたところなので、もちろん望も理解している。
河川敷で一緒に戦った信号機カラーの魔法少女三人の内の一人だった、黄色魔法少女である。
「いやいや、仮に幼女でないにしてもレディーでもないだろ。ちっちゃいし」
半目になった望が冷静に指摘すると、アリサはカァと顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がった。
「ち、ちっちゃくないし発展途上だしっ!? 私達の年齢ではこれくらいが普通って言うかまだまだこれからが本番って言うか――ほら美玖だって私と似たようなもんじゃない!」
何故か自分の姿を見下ろしたあとに、ビシッと望の隣に座っていた美玖を――正確にはその胸元を指差す亜莉沙。そして、その指をすぐに自分の隣に座っていたもう一人の少女に向けた。
「優子が外れ値なのよ!」
「え、えぇっ……私が平均くらいだよぉ……」
草色の髪を三つ編みのおさげにした、美玖と同じ制服を着ている少女――柳沢優子が、戸惑うように丸眼鏡の奥で栗色の瞳を泳がせる。
信号機カラー三人の内の緑色魔法少女である優子の言う通り、別に優子の発育が著しいということはない。
端から会話を聞いている望からすれば、さっきから自分が指摘したことと違う部位の大きさについて、どんぐりの背比べをしている風にしか見えない。
そんな状況を見兼ねた桃色魔法少女の美玖が、少し慌てながら制止を促す。
「あ、愛理沙ちゃん……! 多分お兄さんは身長のことを言っただけで、別に胸のことを指摘したわけじゃないと思うよ……!?」
「……そ、そうなの?」
美玖の言うことが本当かどうか確認するように怪訝な視線を向けてくる亜莉沙に、望は肩を竦めながら答えた。
「常識的に考えて、男子高校生がほぼ初対面の中学生相手に胸の大きさの話をしたりするわけないだろ。どんなロリコン変質者だ」
「な、なによ。それならそうとさっさと言いなさいよ、紛らわしい!」
「紛れる要素あったかなぁ……」
この数分のやり取りだけでももう割と体力を使ったので、望は大きく背もたれに寄り掛かる。
改めて個室の中を見渡せば、中学二年生の女子が二人と、一つ下の女子が一人。そこに場違い極まりない高校二年生男子の望。
正直、世間的にあまり見られたくない状況であった。
「それで……何で俺ここに連れてこられたんだ? 場違い感が半端じゃないんだけど……」
元々三人で集まる予定だったであろうこの場に望を連れてきたのは美玖だ。望と同じ疑問を亜莉沙と優子も持っているようで、皆の視線が美玖に向いた。
美玖はコホンと咳払いを挟んで、望の方を見る。
そして――――
「実は私達の調査に、お兄さんにも協力してほしいと思ってるんです!」




