第51話 ここまで違和感なくスルーしてたぁ……!?
「あ、加護と言えばさ」
それは同じ日の夜のこと。
今日は少し魔法少女の加護についての話題で盛り上がったこともあって、望はふと思い出したように口を開いた。
「妃菜って魔法少女に変身してもそこまで見た目変わらないだろ? でも、初めて魔法少女姿を見たとき、変身解かれるまで妃菜だってわからなかったんだよな」
まだ鮮明に思い出せる二月下旬。
恐らく今後忘れることのないだろうあの日の夜。
家事代行サービスとしてこの家に派遣された日の帰り道、自然発生していたシャドウに襲われていたところに駆けつけてくれた魔法少女が妃菜であることを認識出来たのは、半壊したアパートの部屋の中、変身を目の前で解かれたときだった。
「それも加護だったりするのか?」
「うん、そうだよ」
風呂上がりにキッチンでお茶をコクコクと飲んでいた妃菜は、コップを置いてから答える。
「魔法少女って何かと注目されるでしょ? 正体が色んな人に知られたら普通に生活することもままならなくなるし、何より悪の組織にバレたら集中的に狙われるかもしれない。だから、変身した姿を見ても正体が認識出来ないようになってるの」
望が座っていたソファーの隣に妃菜も腰を下ろした。
湯上りの妃菜の身体からボディーソープやシャンプーの良い香りが漂ってきて望の鼻腔に悪戯をするが、望は少しざわつく胸の内に見て見ぬフリをする。
「どういう原理で……って言ってもマジカルだもんな。何でもアリか」
少しドキッとしながら妃菜のTシャツの裾が捲れ上がったときのことを思い出してみても、やはりそこに原理なんてなかった。ただ、それ以上見えないように裾が捲れなかったという現状が起こっただけ。
もしかするとファンタジー的には確かな原理原則があるのかもしれないが、科学文明の世界で育った望がいくら考えても、その理論には辿り着けそうにない。
「あとは……似たようなのだと、コレとかかな?」
妃菜はそう言って自分の髪を持ち上げてみせた。望は首を傾げる。
「えっと、コレとは?」
「ふふ、私の髪ってどう思う?」
「言ってる意味がよくわからないけど……」
望は妃菜が持ち上げた髪を見つめる。
もう見慣れた髪だ。
新雪のように純白で艶があり、手を伸ばして触れるとサラサラでふわっと軽い。加えて、今は少し湯上りゆえに熱を蓄えている。
「……綺麗だと思う」
「も、もぉう、望くんはそういうことサラッと言う……」
半目を作った妃菜の頬に赤みが差す。
「う、嬉しいけど、そういうことじゃなくてね? 私、日本人でしょ? なのに白髪。おまけに目も赤いし。でも、違和感ないよね?」
「……あっ、あぁ! 確かに!?」
驚きのあまりつい声を大きくしてしまう望。
純粋なビックリと、新たな発見に対する喜びが半々という感情だった。
「ほら、こうやって私がわざわざ指摘しないと違和感に気付けない。これも加護の一つなんだ」
「ほぇ~、なるほどなぁ……」
口元を手で覆って驚きの余韻に浸る望を見て、妃菜はクスッと笑みを溢した。
「必ずじゃないらしいんだけどね、魔法少女適性があるほど魔力量が多いと外見に特徴が現れることは珍しくないんだって。私の場合はこの白髪と赤い瞳」
「これだけ特徴的なのに気付けないとはなぁ……あ、でももうこの加護の存在を知ったから、これからは周りにいるかもしれない特徴的な髪色の人とかに気付けたりするのかな? 『あの人髪青っ!?』みたいな」
同じ学校に妃菜という魔法少女がいたように、意外と身近なところに他の魔法少女もいるのかもしれないと、望は少しワクワクしていた。
しかし、妃菜は可笑しそうに笑いながら首を横に振る。
「ううん。周りにいる黒髪や茶髪の人と同じ印象しか持たない――持てないと思うよ。青い髪だと見ることは出来るけど、そこに違和感は感じられないみたいな」
「そっかぁ」
望は天井に顔を上げた。
(もし髪色とかで魔法少女かどうか判断出来たら、あの信号機魔法少女三人に会ったときに一言お礼くらい言いたかったけどなぁ……)
悪の組織の幹部アラゾニアとの戦いでは、特にあの三人の魔法少女のサポートが役に立った。アラゾニアに隙を作り、妃菜の大技に繋げられたのは彼女達のお陰。
(あぁでも、魔法少女かどうかわかったところで、多分それがどの魔法少女なのか認識出来ないのか……)
そうなると、やはり日々の生活の中でたまたま見掛けてお礼を言う機会が訪れるという可能性は、あまりないのかもしれない。
(ま、妃菜と同じこの辺りを守る魔法少女だし、また会うこともあるだろ)
そのときにでも改めてお礼を言えばいいか、と望はいつ来るかわからない再会したときの予定を立てておくのだった――――
◇◆◇
噂をすれば影が差すとはよく言ったものだ。
休日明けの月曜日、望はそのことわざを作った人物に心の中で賛辞を送った。
「あっ……あぁあああ! 白い魔法少女さんの人間の御使いさん!」
ビシッ、とこちらに人差し指を向けてくる幼女の姿があった――――




