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家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~  作者: 水瓶シロン
第四章~新学期開始編~

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第41話 「終わり良ければすべて良し」は実にマジカルな言葉です

 大量のシャドウ出現。悪の組織の幹部――七罪冠(ヘプタハマルティア)の【傲慢(アラゾニア)】襲撃。続けて同じく幹部の【強欲(アフィスティア)】襲来。


 激闘の三連戦の末、アフィスティアは立ち去り、安心した望は魔力補助の無理が祟って気絶。

 妃菜もその手をアフィスティアに届かせること叶わず、空間の裂け目が閉じてしまうのを確認してから意識を沈めた。


 二人はすぐに駆け付けた魔法少女らによって救助、魔法少女協会に運ばれて治療を受け、翌日に帰宅を許されることになった――――



「うぅむ……やっぱ身体重いなぁ……」


 これが魔力欠乏の影響か。

 他人よりちょっと魔力が多いだけの人間が、無理をして三度も魔法少女の魔力補助をしたのだから無理もない。


 今まで自然発生するシャドウを討伐するにあたっては、基本的に妃菜は魔力補助なく自前の魔力だけで充分戦えていたし、多勢を相手にするときでも一回魔力補助すれば粗方殲滅することが出来ていた。


 なので、一度の戦闘で二回の魔力補助をする負荷すら経験したことがないままに、流れで限界の三回も補助をしてしまった。


(あのときテュカに連絡し終わるまで意識が保てたのは運が良かったな……いやまぁ、八割気合だったが……)


 妃菜がアフィスティアと戦闘を開始するにあたって、望はすぐにスマホで再びテュカに連絡し、各地で戦闘が終結して手の空いた魔法少女をすぐに向かわせるよう頼んでいたのだ。


 勝敗は最初から見えていた戦い。

 もちろん勝利出来るならそれが一番だが、あの一戦、望としては妃菜に勝ってほしい戦いではなく、今出来ることをやり尽くしてほしい戦いだった。


 そして、傍から見れば危険極まりない無謀とも言える決断をさせたことへのフォローはしなくてはいけない。


 いくらアフィスティアが強者といえども、更に多くの魔法少女が増援に来れば流石に撤退してくれるだろうと予測した望。


 結果的にギリギリの到着にはなったが、案の定大勢の魔法少女を前にして分が悪いと判断したアフィスティアは、空間の裂け目に姿を消していった。


(……まぁ、妃菜は何としてでも引き止めたかっただろうけどな)


 望はしばらく妃菜の部屋の扉の前で顔を俯かせて佇んでいたが、自分まで暗い顔を見せてどうすると息を吐き、表情を緩めてから扉を叩いた。


 コンコンコン。


「……入っていいよ」


 扉の向こう側から聞こえてきたか細い声を聞いて、望は静かにドアノブを捻った。


 部屋に入ると、ベッドを背にして床に座った妃菜が抱えた膝に顔を埋めている姿があった。


 大丈夫? なんて安易に聞けない。

 大丈夫じゃないことは見て明らかで、そもそも見るまでもなく大丈夫なワケないことを、望は誰よりも知っているから。


 望は後ろ手に扉を閉めると、蹲る妃菜の隣にそっと腰を下ろした。


「夜、何食べたい?」


 並んで座り、正面の壁を見つめながら尋ねる。


「何でも作るよ、好きなもの」

「……望くんのご飯は何でも好きだよ」

「わぁ~、嬉しいけど主婦が言われて困る返し第一位」


 何食べたい? 何でもいいよ。

 献立を決めかねているから聞いているのに、帰ってくる返事は何のヒントにもなりやしない。世間の主婦は困っている。


 普通なら主婦のストレスの一因になるそんなやり取りをネタにして、望は小さく笑ってみせる。


 少しでも妃菜の心の曇り空に陽が差せばいいなと思って。


「私が辛いとき、望くんはいつも傍にいてくれる……凄く優しい……」

「誰だってそうするって」

「そうかな……」

「そうだ」

「でも、私の隣にいるのはいつも望くんだよ……」


 そりゃ妃菜の御使いだからな――と、望はそう答えようとして口を開けたが、寸前のところで言葉が喉でつっかえる。心が言葉を引き留めた。


(多分、俺が御使いじゃなくても、妃菜の傍にいたいって思うんだろうな……)


 なら、妃菜の隣にいる理由は御使いだからではない。しかし、そうなるとわからなくなる。理屈では説明がつけられない。


「なんでだろうなぁ」

「……ふふ、変なの」


 妃菜が膝に埋めていた顔を持ち上げて、コテンと隣に座る望の左肩へ頭を預けた。


 細められた目元は赤く腫れており、ようやく少し緩んだ頬にも目尻から緩やかな弧を描く跡が一筋。


「……連れ戻せなかった」

「…………」


 ポツリ、と零れる妃菜の呟きに、望は縁側から雨音を聞くように静かに耳を傾ける。


「引き止められなかった……手が届かなかった、敵わなかった……」


 言葉尻に向かって声が震える。

 膝を抱える手に力が籠り、右手で左袖、左手で右袖に深くシワを刻む。


「由菜だった……間違いなく由菜だったのにっ……! ずっとずっと探して、ようやく見付けたのにぃっ……!」


 アフィスティアと名乗ったあの悪の組織の幹部の魔法少女は頑なに否定していたが、望もその目で見た。


 由菜と呼ばれて激しく動揺する姿を。


 本当に妃菜の妹である由菜と何の関わりを持っていないなら、あんなふうに取り乱したりはしない。


「私のワガママで望くんにまで無理させたっ……! なのにっ、なのにぃ……全然勝てなかった、手も足も出なかった、私っ……何にも出来なかったよぉっ……!!」


 嗚咽と共に、涙袋一杯に溜まったものが溢れ出る。新しい涙の痕を顔に描いて望の左肩を湿らせた。


「うっ、ごめっ……ごめんなさいっ……! ごめんなさいっ、ごめんなさいぃっ……!」

「何で謝ることがあるんだよ、バカ」


 触れ合った身体の震えを感じながら、望は右手を伸ばして妃菜の頭を撫でる。


「だっ、だって……!」

「どうあれ妃菜の妹は生きていた」


 望は少しおどけた口調を使いながら、温かい声色で語り掛ける。


「無事って言い切るには、ちょっと記憶とか人格とか問題はありそうだが……少なくとも、消耗してたとはいえ妃菜をぶっ倒せるくらいには元気そうだったぞ」

「うっ、うぅっ……」

「この間まで妹がどこでどうなってるのかすらわかんなかったんだ。そう考えれば、居所と無事が確認出来たのは大きな一歩じゃないか?」


 絹のように滑らかでいて羊毛のように柔らかい白い髪を指の間に通しながら、何度も何度も妃菜の頭を撫で続ける。


 痙攣するように詰まった呼吸をしていた妃菜も、次第に落ち着きを取り戻していく。


「一つだけ確認していいか、妃菜?」


 望がそう問い掛けると、妃菜は鼻声で「うん」と答える。


「あそこで戦うのを選んだこと、後悔してるか?」


 大人しく撤退するつもりだったアフィスティアをわざわざ引き止めて、被害をさらに増やし、三度目の魔力補助で望に負荷を掛け、大勢の魔法少女を遠くから動かした。


 それだけのコストがあっての戦い。


 それでも妃菜は――――


「……ううん、してないよ」


 ハッキリと、そう答えた。

 望はそれが聞きたくて、思わずニヤッと口角を吊り上げてしまった。


「なら、良し」

「良くは、ないと思うけど……」

「うんにゃ、良いね。戦うことによって幹部がどれだけ強いのかという情報を入手した。充分コストに見合ってるだろ」

「そ、そうかなぁ……?」

「そうなの」


 わしゃわしゃ、と望が最後に無造作に頭を撫でると、髪が乱れて妃菜が「やぁ……!」と細い悲鳴を上げたのだった――――

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