甘い秘密、ふたたび
午後の光が温室に差し込む中、ティーテーブルの上には淡い色合いのクロスと、丁寧に並べられた茶器。そして、リリーがこっそり持ち込んでいた、見慣れぬ形の包み。
王子アリステリオンの視線は、まっすぐその包みに向けられていた。
「……それ、本当に気になるんだよね」
「殿下、視線が熱すぎますわ。そんなにじっと見つめられては、包みの中も落ち着きませんことよ」
くすっと笑いながら、リリーは包みを開けた。 中から現れたのは、ふんわりとした黄色い焼き菓子。日本で言うところの“カステラ”だった。
「今日は、こちらをお持ちしましたの。カステラ、といいますのよ」
「カステラ……?」
「卵と砂糖、小麦粉……それだけの、実にシンプルな素材で作られたお菓子ですわ。でも、口に入れればふんわりとほどけて、しっとりと甘みが広がるのです」
王子は興味深げにそれを見つめ、一切れを手に取った。
「……柔らかい」
「さあ、召し上がって」
ぱく、と王子が口にしたその瞬間。
「……うん。これは……すごい」
目を見開く王子に、リリーはちょっとだけ得意げに微笑む。
「口の中で溶けるようだ。しかも、甘いのに重くない」
「そうでしょう? だから言いましたのに、あのプリンだけが特別ではありませんと」
「なるほど……リリサンドラ嬢、君は甘いもので世界を救えるかもしれないね」
「ええ、せいぜい王宮のお茶の時間くらいなら、革命を起こせますわ」
ふたりのやりとりに、周囲の子どもたちや見守っていたメイドたちが、くすくすと笑い声を上げた。
その空気に、リリーはようやく肩の力を抜く。 (ふう……とりあえず、今回は問題なく切り抜けられた、かしら)
「それにしても……次はどんなお菓子が出てくるのか、ますます楽しみになってきたな」
「……まあ、殿下ったら」
にっこりと笑いながら、リリーは心の中でそっと嘆息した。
(また一歩、深く関わってしまったような……でも、逃げるわけにはいきませんわ)
「それでは、次の“秘密”も、楽しみにしているよ」
金の瞳がいたずらっぽく細められる。 それはまるで、遊び心に満ちた獅子の子が、新たな遊び相手を見つけたときのよう。
リリーは紅茶をひと口飲みながら、きりっと笑った。
(ふふ、いいでしょう。ならば次はもっと驚かせて差し上げますわ)




