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突然の訪問者、金の瞳の王子

それは、午後の陽がまどろむように差し込むひとときだった。

リリーとカティは、ふたり並んでティーカップを傾けながら、次はどの焼き菓子をいただこうかと、こそこそと相談していた。

さっきまで緊張で固まっていたカティも、今ではふわっと笑みを浮かべ、まるで本当に“友達”として過ごしているようだった。

(このまま、誰にも邪魔されずに今日が終わればいいのに……)

そう思った、ほんの数秒後だった。

温室の入り口の重厚な扉が、重々しく開かれる音がした。


「──第一王子、アリステリオン・グレイフォックス殿下、おなーりーッ!!」


その声が響いた瞬間、会場の空気が一変した。

温室の扉が開かれ、まばゆい日差しの中から、ゆったりと優雅な足取りで現れたのは、誰もが知る第一王子。

淡い金の髪、琥珀色の瞳、そしてどこかあどけなさの残る笑み――その姿に、出席していた子どもたちの視線が一斉に集まった。


「……また、来たんですのね……」


リリーは小さくため息をついた。心の中は、ざわざわと落ち着かない。

前回、自分が主催した“子供だけのお茶会”に、突然訪れたこの王子。

彼はなぜかリリーの手作りのプリンに強い興味を示し、最後には「また話したい」と言い残して帰っていった――

(……まさか、ほんとうにまた来るなんて)

王子の視線がすぐさまリリーに向き、にこっと笑った。

その笑みに、会場のあちこちで「わあ……」という吐息のような声が漏れる。


「やあ、リリサンドラ嬢。君を見つけるのに、少し苦労したよ」


「ごきげんよう、殿下。まさか、またお目にかかれるとは思いませんでしたわ」


にこやかに挨拶しながらも、リリーの表情には警戒が滲む。

だが、相手はその空気を読む気などまるでない様子で、屈託なく笑ってみせた。


「前のお茶会のプリン、まだ忘れられないんだ。あれ、本当においしかった。……今日は、どんなお菓子を持ってきてるのかな?」


「……まあ、殿下。わたくし、毎回お菓子をお披露目しているわけではありませんのよ?」


「でも、今日も何か持ってる顔をしてる」


まるで“君の動きは全部お見通しだよ”とでも言いたげな、柔らかい声。

けれどその無邪気さの裏に、何か含みのようなものを感じて――

(……ああもう。これだからこの王子は油断なりませんわ!)

あの時と同じ。彼の笑顔は飾り気なく見えて、どこか相手を試すような“手ごたえ”を探っている。

それは子供の純粋さとも、大人の計算高さとも違う、王子という立場を当たり前に受け入れた者だけが持つ、独特の感性。


「さて……今日は、どんな“甘い秘密”を見せてくれるのかな?」


その問いかけに、リリーはほんの少しだけ目を細めた。

まるで獲物をからかう猫のような言い回し。けれど、王子にとってこれはただの好奇心に過ぎないのだろう。


「……どうかしら? もし、お時間が許されるのであれば、ご一緒に……」


「もちろん。今日はそのつもりで来たんだ」


──まるで、それが当然だというように。

リリーは心の中で、静かに叫んだ。

(いや、まさかこんなに堂々と来るとは思いませんでしたわ!!)

そのとき――


「殿下、こちらにどうぞ」


使用人が控えめにティーテーブルのひとつを示す。リリーもまた、ほんの少しだけスカートを持ち上げて一礼した。

胸の奥でざわめく焦燥と、ほんの少しの興味。

王子という“物語の鍵”とどう向き合うべきか、まだリリーには判断がつかない。

だが、次の瞬間。王子の目がふと、リリーの手元にある包みに向けられた。


「あれ……その包み、もしかして……?」



リリーは一瞬ぎくりとしながらも、すぐに優雅な笑みで返した。


「ふふ、それはまた、後ほどのお楽しみですわよ、殿下」


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