お茶会の余韻と兄との再会
あの日のお茶会から、もう数日が過ぎていた。
私は何度もあの庭園の風景を思い返していた。そよぐ風に揺れるティーカップ、淡く光るシルバーのスプーン、そして――突然現れた第一王子アリステリオン・グレイフォックスの姿。
心の奥で小さな嵐が巻き起こる。
「王子様に出会ってしまった」――まるで頭の中に警報が鳴り響くようだった。
乙女ゲームのうっすらとした記憶がちらつき、あの“運命の出会い”が一体何を意味するのか、私の心はソワソワと落ち着かなかった。
でも、平然と振る舞わねばならない。わたくし、リリサンドラ・ヴァレンティーナはそういうお役目を負っているのだから。
そんな折、現れたのは私の兄、ユリウス。
彼はいつもの厳しい顔を少し和らげていたが、眉間に寄った皺は隠せない様子。
「リリー、聞いたぞ。王子様があのお茶会に来たらしいな」
思わず、私は「ええ、まさかこんな形でご登場なさるとは……」と苦笑い。
ユリウスはため息混じりに続けた。
「……お前のことを思うと、正直、心配でな」
兄の言葉は、いつもより柔らかく、どこか妹を気遣う響きがあった。
「そ、それはわかっておりますわ。でも、わたくし、動揺はしたものの何とか平静を保ちましたの」
「そうか……よし、ならばこれからはもっと気をつけろよ。お前にはまだまだ守るべきことが多いのだからな」
兄はそう言いながら、私の肩を軽く叩いた。
「それで、最近どうだ? お茶会は楽しかったか?」
私は恥ずかしそうに視線を逸らしつつ答えた。
「あの……王子様が突然現れてしまいまして、計画はほとんど台無しでございましたわ」
「はは、さすがにそれは予想外だったな」
ユリウスは苦笑いを浮かべつつも、私の言葉にどこか嬉しそうだった。
「まあ、頑張っているようだし、偉いぞリリー」
その言葉に、胸の奥にぽっと暖かい灯がともるのを感じた。
兄との距離が少しずつ縮まっている気配に、私は心の中で密かにほっとしたのだった。
「これからはもっと堂々と、自分らしく歩んでみせますわ!」
そう心に誓いながら、私はちょっと得意げに微笑んだ。




