お茶会と王子と、私の優雅な交友計画
「ふふ……今日は完璧ですわ!」
鏡の前で優雅に微笑む私、リリサンドラ・ヴァレンティーナ。髪には薔薇の飾り、ドレスは爽やかな水色のシフォン。どこからどう見ても、社交界デビュー前の公爵令嬢らしい愛らしさと品を兼ね備えた一日限定“完璧仕様”である。
目的はひとつ。――お茶会。
まだ本格的な社交界には出ていないが、同年代の子女たちで小さな交流会が開かれるのだ。貴族の世界では、人脈は武器。今のうちから友人を作っておくに越したことはない。
「今日は皆様に、わたくしのお手製プリンをふるまって――その甘美なる味に共感し合い、未来の親交を育むのですわ!」
リリアナ嬢やカロリーヌ嬢、あの侯爵家の姉妹とも、きっと仲良くなれるはず。にこやかに微笑み合いながらティーカップを傾けて、お菓子を交換し合って、時には秘密のおしゃべりもして――そんな夢のようなひとときを、私は想像していた。
ええ、完璧な計画。
……だったのですけれど。
と、ところが。
お茶会が始まって、まもなく――事態は崩壊した。
「ア、アリステリオン殿下!? な、なぜこちらに……!」
「殿下が……このような幼きお集まりに……!」
会場がざわめき、貴族の子女たちが一斉に立ち上がる。
そう。突然、第一王子アリステリオン・グレイフォックス殿下が、大した護衛も連れずに、軽やかに庭園のお茶会に現れたのである。
「ごきげんよう、皆。今日は良い天気だと思っていたら、甘い香りに誘われてしまってね」
(甘い香り……それ、わたくしのプリンですわね!?)
その優雅な笑みに、女の子たちはぽぉっと頬を染めて見つめている。中には口を押さえて感激している子までいる。
が。
(……ちょっと、待ってくださいませ)
わたくしは今日、“プリン外交”をもって、友人をつくるつもりだったのですわ!
それがどうして、王子のサプライズ登場で全部吹き飛んでおりますの!?
しかも――
「リリサンドラ嬢、よければ隣に座っても?」
「えっ……は、はい。光栄ですわ……」
(内心まったく光栄ではありませんけれども!?)
そんな私の複雑な心境も知らず、アリステリオン殿下は優雅に微笑み、さらりと座る。そして、話しかけてくる相手は――
「このお菓子、君が作ったのかい?」
「ええ、わたくしのオリジナルですの。『ぷ・り・ん』と申しますわ」
「ふむ。名前までかわいらしい。味も……優しい甘さだ」
「……恐縮ですわ」
(それ、“おいしい”で済ませられませんこと?)
周囲の子女たちが固唾をのんでこちらを見つめている。嫉妬の視線? いや、それより“なんであのリリサンドラ嬢ばっかり話しかけられてるの!?”といった不満がヒシヒシと伝わってくる。
(ああ、わたくしの友達作戦が……ッ)
王子の存在感が強すぎて、周囲の空気は完全に“謁見の間”と化していた。誰も話しかけてこないし、プリンも無言で食べるばかり。これでは、社交どころか“独演会”ですわ。
だが、私は怒れない。なぜなら――
(第一王子に対して「ちょっと空気をお読みになって」と言えるわけがございません!)
笑顔のまま、内心ではぷりぷりと怒り狂っていた。
そして、とどめの一言。
「また君に、何か甘いものを作ってもらいたいな。次も楽しみにしているよ、リリサンドラ嬢」
(……いえ、わたくし、“お菓子係”ではありませんわよ!?)
王子はにこやかに席を立ち、まるで風のように去っていった。
後に残されたのは、うっとりと見送る子女たちと、放心状態の私。
こうして。
わたくしの“お友達を作るための完璧なるお茶会作戦”は、王子の登場により、華麗に――
粉砕されたのでしたわ。




