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甘き革命、名はプリン!

―甘いものが、ない。

 

もちろん、まったく無いわけではない。

貴族の邸宅なのだから、焼き菓子や果物のコンポートくらいはある。だが、どれも甘さ控えめで、気品を大事にしすぎているというか……なんというか……

 

「……足りませんわ、幸福感が……!」

 

お紅茶とともに供されたリンゴの砂糖煮を前に、私は思わず額を押さえた。

甘いけれど、優雅すぎて物足りない。癒されるどころか、お上品にすぎて心が満たされないのだ。

 

(わたくしが求めているのは、“なめらかで、とろけるような、濃厚かつ優しい甘さ”……)

 

そこで私の脳裏に、かすかな記憶が浮かび上がった。

 

「……プリン……!」

 

そう、前世――立花香澄として過ごしていたとき、仕事帰りにコンビニで買っていた、とろっとろのあのプリン。

あれこそ至高の癒し! 甘くて優しくて、疲れがすべて溶けていく夢のような一品!

 

「作れますわ! きっとわたくしにも、あの優しさをこの世界に広めることが!」

 

決意した私は、すぐに厨房へと向かった。

 

 

「え……プリン、でございますか?」

 

厨房のメイド長が、目を丸くしている。そりゃそうだろう。

 

「ええ。卵、牛乳、お砂糖。それと、器と……うまくいけば焦がし砂糖も使って、二層にするのですわ」

 

「お嬢様、まるで錬金術のようなお話ですが……」

 

「ふふ、ご安心なさい。魔法ではありません。これは“愛と根性”で作るものですのよ!」

 

(とか言いつつ、わたくしも分量はうろ覚えですけれど!)

 

まずは材料をざっと確認。幸いこの世界にも卵と牛乳はあるし、砂糖も上質なものがたっぷりある。問題は、焼き加減と焦がし砂糖カラメルだ。

 

「カラメルは……鍋を焦がして怒られませんように……!」

 

焦げマシュマロ事件を思い出しつつ、そろりそろりと砂糖を火にかける。

メイドたちは一歩引いたところで見守っているが、私は真剣そのもの。

 

「カラメル化……焦がしすぎず、でも香ばしく……いまですわ!」

 

タイミングを見計らって火から下ろすと、ふわっと漂う香ばしい香り。

なんとか、現代プリンの“底の味”を再現できた気がする。

 

次は卵液。卵と牛乳と砂糖を混ぜて、漉して、カラメルの上からそっと注ぐ。

 

「……あとは、蒸すか、焼くか、ですけれど……。うふふ、ここは温かいお湯を張って、焼きすぎないようにゆっくりと……!」

 

まるで魔法陣を組むように、私はオーブン前で腕を組む。

祈るような気持ちで、焼き時間を待つこと十数分――。

 

「……できましたわ」

 

湯気の立ちのぼる器をそっと取り出し、スプーンの背で表面を押してみる。

ぷるぷる、ふるんっ――。

 

「っ……理想的ですわ……!」

 

私は歓喜のあまり、思わず両手を握りしめた。

これはもう、プリンというより芸術。小さな幸せの結晶!

 

「味の確認を――」

 

とスプーンを手にしたそのとき、背後から足音が響いた。

 

「リリー、聞いたぞ。厨房で“何か”作っていると」

 

「香ばしい匂いがすると思ったら、あなたでしたのね」

 

なんと、そこには父様と母様、そして兄上まで。家族全員集合の大参観。

 

「わたくし……何も悪いことはしておりませんわよ?」

 

とりあえず、先に言い訳しておく。予防線は大事ですわ。

 

「いや、責めてなどおらん。むしろ――これは何だ?」

 

父が興味深そうに覗き込む。

 

「プリン、と申しますの。前世――いえ、違いますわ、わたくしの“夢の中”で知っていたお菓子ですの」

 

母様が感嘆の声を上げる。

 

「まあ……なんて艶やかで可愛らしい見た目かしら」

 

「……とりあえず、食べてみてもよろしいか?」

 

「ええ。どうぞ、皆様。心を込めて、お作りしましたの」

 

緊張しながら、家族にプリンをひとつずつ手渡す。

静かな空気のなか、最初にスプーンを口に運んだのは――兄、ユリウスだった。

 

「……」

 

表情ひとつ変えず、じっと味わったあと。

 

「――うまい。……これが甘味の、完成形か」

 

「! お、お兄様、もしかして、それは……!」

 

「褒めている。明確に」

 

「うれしゅうございますわ~~~!!」

 

次いで父様、母様も一口ずつ。

 

「……これはすごいぞ、リリー! まさか、料理の才まで持っていたとは!」

 

「お菓子作りは、魔法ですわね……! なんて優しい甘さ!」

 

家族みんなが笑顔でプリンを食べている。

こんなに心があたたかくなる景色があるなんて――。

 

「リリー、今度はこれをお茶会で出してみてはどうだ? きっと話題になるぞ」

 

「お父様、それは……わたくしのプリンが、社交界に進出するということですの!?」

 

「間違いなく“甘味革命”だな」

 

みんなで笑い合う午後の厨房。

私は、そっと胸に手を当てた。

 

――大丈夫。わたくし、この世界でも、きっと幸せになれますわ。

 

とろける甘さと、優しい笑顔に包まれて――

本日の“お嬢様プリン革命”、ここに大成功ですわ!


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