37.
「リリー、こっちの方もう終わりだけどそっちはどお?」
「うん。こっちももう終わり〜ミルは?ミルー?」
「ふんふんふーん、ふんふんっ」
意外だった、ミルが真面目に掃除するて。
しかも鼻歌歌いながらで楽しそうだし。
マイペースで幼いイメージのミルだったから。
「なんか意外。ミルって掃除好きだったの?」
「んー?掃除っていうかぁ。ここの空気が好きぃ。だってこの床のキズとか見てよ!どんだけ強く踏み込んだらこんなになるのっ、あはは」
なるほど。
ミルは剣をするためのこの場が好きなんだ。
「なんかいーね。私ミルのそういうところ好きだな」
つい頬が緩む。
自分と同じでここまで剣を愛している人がいるなんて。
気づいたらしゃがみ込んで床を磨いているミルの頭を撫でていた。
後ろでキャシーがずるいと言ってるのが聞こえた。
「偉いじゃん」
「ん?えへへっ。なんかよくわかんないけど気持ちいいぃ」
「楽しそうだね」
ついビクッと肩が跳ねた。
それは大きな声ではなかったが、あまりにも凛としていて圧のある声だった。
声の主は入り口にいた…王子だ。
いつもの作り笑顔さえしていない。
「楽しいよぉ。ねぇ、リリーちゃん」
「へ?まぁ、うん。ミルのように剣のこと考えながら掃除できるのって素敵だし楽しそう」
「えー、楽しいって言ってよぉ。楽しそうってなんか人ごとで寂しいよ」
「あーはいはい楽しいです」
なにこれ、ミルと話していたら自分まで幼くなったみたい。
「うふ、ふふふふっ」
楽しいな、こういうの。
「リリーちゃんの笑顔かわいいね、僕好きだな」
「気が合うね、私もだよ」
こわっ。
いつのまに私の手握ってたの。
「リリーもいつまで彼の頭撫でてるの?彼の髪の毛が乱れるからやめてあげな。」
ついふわふわで離せなくなってたわ、ごめん。
男性は確かにせっかくセットしたヘアー乱されるの嫌だよね。
「えぇ、僕いやじゃなかったのに」
「ところでリリー。この後特に何もないよね?一緒に帰ろうと教室まで行ったのにいないから探したよ」
「ご、ごめんなさい?」
ミルのことすっごい無視してるし、一緒に帰る約束なんてきっとしてないよね。
「さ、行こうか。もう終わったよね」
いや、あの?
腕掴んで歩きだしてるけど…
私だって予定あるんだからね。
掃除終わったら、このままここで剣の練習しようと思ってたのに。
毎日騎士になるためだけに努力してきて、入学試験にも合格して騎士科にも入ったのにさ。
なのになんでいつもいつも自分勝手なんだろうこの王子は。
邪魔しないでよ。
あーダメだ、イライラしてきた。
気がつけばポツリと声に出していた。
「離して」
「だめだ、俺怒ってんだからな。いつからあいつと敬称呼び合う仲なわけ?聞いてないんだけど」
「離してってば」
勢いよく私は王子の手を振り払った。
淑女でありながら声を荒げてしまった。
「なっ」
「怒る?それはこっちのセリフよ。意味わからない、怒ってるのはこっちのだっての。あの後剣の稽古をするつもりだったのに。全て台無しよ…帰る」
そう言って私は1人で自分の馬車に乗った。
やっちゃったぁぁぁぁぁ。
ついイライラしてたからって王子相手に怒鳴るなんてやっていいことじゃなかった。
でも邪魔する王子も悪くない?
いやいや、冷静に説明すればよかったような気も…。
どうしよう、私のせいで家族に迷惑かけるのだけは避けたい。
明日謝ろう、もうスライディング土下座きめよう。
馬車に乗ってすぐ後悔の波に溺れるリリアナ。
そんなことを知らずにまた王子も1人、馬車の中で色々考え込んでいた。
やっちまった。
全ては俺の嫉妬から出た行動で彼女にあたった。
何やってんだろ、俺。
でもあいつだって、俺以外の奴にあんな気の抜けた笑顔を見せて。
あげくに頭まで撫でるなんてなんだよ。
俺なんか名前すら呼んでもらったことないのに、あいつはいとも簡単に呼んでもらって。
むかつく。
俺だって…いや違うな。
まずは明日ちゃんと謝ろう。
焦るな…今までだってゆっくり確実にやってきた。
絶対に手に入れてやる。




