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『魔法適性ゼロのインテリ眼鏡(元・市役所職員)、異世界ギルドの労働環境を改善して最強の「兄貴」になる。』  作者: げりっぱ


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第4話:異世界ハローワークにおける無料の労働相談と、新たなる舎弟の誕生

第4話:異世界ハローワークにおける無料の労働相談と、新たなる舎弟の誕生


グーテン街の冒険者ギルド。

その重厚な木扉が再び開かれた時、喧騒に包まれていた室内は、水を打ったように静まり返った。

ギルド内のすべての視線が、入り口に立つ二人の男に注がれる。

一人は、この街でも有数の巨体と腕っぷしを誇る狂犬、大剣使いのガルド。彼はなぜか顔面を蒼白に引きつらせ、両手に「パンパンに膨れ上がった麻袋」をいくつも抱えて、ガクガクと膝を震わせていた。

そしてもう一人は――市役所環境部の作業着に身を包み、インテリジェンスを感じさせる眼鏡をスッと押し上げる、中肉中背の男。俺、本名『アニキ』である。


「お、おい……帰ってきたぞ。あの『毒沼のヘドロ・スライム駆除』から……」

「出発してから、まだたったの2時間だぞ!? ガルドの奴、致死性の瘴気に当てられて顔が真っ青じゃねえか……」

「だが、あのアニキって男を見ろ。あの『サギョウギ』とかいう見慣れねえ服……泥一つ、汚れ一つついてねえぞ。あの地獄の毒沼に腰まで浸かって、シミ一つ残ってねえっていうのか……!?」


周囲の冒険者たちが、ヒソヒソと震える声で囁き合っている。

当然だ。俺が持つ女神のチートスキル『病気にかからない身体』は、あらゆるバッドステータスを弾く。先ほどの作業中には俺自身も気づいていなかったが、このスキルには『着用している衣服にまで恩恵が及ぶ』という素晴らしい隠し仕様(バリア機能)があったのだ。

致死性の瘴気だろうが、ヘドロの汚れだろうが、俺の健康を害する恐れのある不衛生な異物は、衣服の表面で自動的に弾き飛ばされる。結果として、俺の着ている作業着は、過酷な現場を終えた後でもクリーニングに出した直後のようにパリッと清潔に保たれていたのである。環境部職員としては、これ以上ない最高の福利厚生だ。


俺は冒険者たちの畏怖の視線を心地よく受け止めながら、一直線に受付カウンターへと向かった。

カウンターの奥では、金髪の可愛い受付嬢が「ひっ」と小さな悲鳴を上げて身をすくませている。よしよし、心配をかけてしまったな。だが、仕事から帰還した男の『無傷で清潔な、頼もしい姿』を見せるには絶好のタイミングだ。


「受付嬢さん。依頼完了の報告に来た。これが指定されたヘドロ・スライムの残骸、いや、討伐証明部位だ」


俺の合図で、ガルドがカウンターに麻袋をドサリと置いた。

中からは、俺が物理的に力任せに引きちぎり、燃えるゴミとして袋詰めにしたスライムの残骸が大量に転がり出てくる。


「ひぃぃぃっ! し、信じられない……! たった二人で、あの毒沼の発生源をすべて……!?」

「ああ。少し硫化水素の滞留が酷かったが、排水経路の清掃と適切な分別作業を行えば、造作もないことだ。これで銅貨5枚、よろしく頼む」


俺がスマートに微笑みかけると、受付嬢は顔を真っ赤(俺にはそう見えたが、実際は恐怖による紅潮である)にして、震える手で銅貨5枚を差し出してきた。

よし、これで今日の夕飯代は確保した。あとはこの『清潔感のあるデキる男』のオーラを持続させたまま、彼女を食事に誘う口実を作れば完璧――。


「ふ、ふざけんじゃねえぞ!!」


その時、隣のカウンターから、またしても聞き苦しい怒声が響いた。

見れば、第2話で俺が論破したあの胡散臭いギルド職員が、二人のみすぼらしい冒険者を相手に唾を飛ばして怒鳴り散らしている。

一人は、栄養失調のようにガリガリに痩せ細った、ネズミのような顔つきの若者。

もう一人は、白髪交じりのヒゲを長く伸ばした、杖をつく初老の男だ。


「いいかザック! お前はギルドから借りた『指定の盗賊用ピッキングツール(粗悪品)』のローンがまだ銀貨10枚も残ってんだよ! 返せねえなら、この『オーガの巣穴への単独偵察(生還率5%)』に行ってこい!」

「そ、そんな無茶苦茶な……! あのツール、元値は銅貨3枚のガラクタじゃねえか! なんで利子で銀貨10枚に膨れ上がってんだよ!」

「うるせえ! 嫌ならギルド追放だ! ……それからそっちのジジイ! ボラン、お前はもう歳だ。魔法の発動も遅えし、ギルドの規定年齢を超えてるから今日でクビだ! 退職金? そんなもんFランクの落ちこぼれに出るわけねえだろ!」

「ゴホッ、ゲホッ……わしからギルド証を取り上げたら、路頭に迷って野垂れ死ぬしか……」


若きシーフのザックと、初老の魔術師ボラン。二人は絶望の淵に立たされていた。

周囲の冒険者たちは「かわいそうに」「だがギルドの決定には逆らえねえ」と目を伏せている。

その光景を見た俺の脳裏に、Bunkoid版の『絶対にすべらない!合コンでの必勝会話術100選』の第5章の一節が閃妻のように駆け巡った。

――【女性は『弱者を庇う正義感のある男』に弱い。不良が雨の日に捨て猫を拾う姿(ギャップ萌え)に心打たれるように、弱きを助ける姿を見せつければ、好感度は爆上がりする】。


これだ。

今の俺は、受付嬢の目には『清潔で余裕のある、底知れぬ実力者』として映っているはず。ここで『実は弱者に優しい』というギャップを披露すれば、彼女のハートは完全に俺のモノになる!

俺は中指で眼鏡をクイッと押し上げ、胡散臭い職員の背後へと音もなく忍び寄った。


「……君は、また労働基準監督署の指導が入りたいようだな」

「ひぃっ!? あ、あんたはさっきの……アニキ!?」


俺の冷ややかな声に、職員がカエルのような悲鳴を上げて飛び退いた。

俺は怯えるザック(若者)とボラン(初老)の前に立ち塞がるように歩み出ると、市役所の『無料生活・労働相談窓口』で培った知識をフル回転させた。


「まず、そこのザック君への過度な利息の押し付け。これは利息制限法を完全に超過した暴利行為であり、公序良俗に反するため契約自体が無効です。元値が銅貨3枚なら、返済義務はすでに消失していると見なせます」

「な、なんだって……!? 契約が無効……?」

「次にボランさん。年齢のみを理由とした一方的な解雇通告は、雇用対策法に基づく『年齢制限の禁止』に抵触する不当解雇です。少なくとも30日前の解雇予告、あるいは解雇予告手当の支払い義務がギルド側には発生します」

「り、りそくせいげんほう? ふとうかいこ? な、なんだその恐ろしい古代の法術は……!」


職員は完全に腰を抜かし、カウンターの陰でガタガタと震えている。

俺はトドメとばかりに、環境部職員としての最も冷酷な『お役所スマイル』を浮かべて職員を見下ろした。


「それに、このギルドの換気システムと衛生管理はどうなっていますか? 先ほどのヘドロの処理といい、労働安全衛生法違反のオンパレードです。これ以上不当な扱いを続けるなら、領主(県知事)の監査局に直接『告発状』を提出しますが……どうしますか?」

「ひぃぃぃぃっ! わ、わかった! ザックの借金はチャラだ! ボランの退職金も銀貨5枚出す! だからその『コーク・ハツジョウ』っていう恐ろしい魔法だけは撃たないでくれぇぇぇっ!!」


職員は泣き叫びながら銀貨をカウンターに叩きつけ、文字通り脱兎のごとく奥の部屋へと逃げ去っていった。

ギルド内に、再び静寂が落ちる。


「……解決したな」


俺は振り返り、呆然とへたり込んでいるザックとボランに向かって、モテ指南書通りに『優しく、包み込むような笑顔』を向けた。


「立てるか、二人とも。理不尽なシステムに搾取される必要はない。自己破産や労働審判など、君たちには正当な権利(法的措置)がある。これからは一人で抱え込まず、俺のところへ相談に来るといい」


完璧だ。

弱者を救い、法的知識(彼らには未知の魔法に見えているだろうが)で悪を退け、優しく手を差し伸べる。

チラリと受付嬢の方を見ると、彼女は両手を口に当て、顔を真っ赤にして信じられないものを見るような目をしている。よし、完全にオチた。あとはこの感動的な空気のまま、彼女を――。


「あ、兄貴ィィィィィィィィィッ!!!」

「お、お館様ァァァァァァァッ!!!」


突如、地鳴りのような二つの咆哮が上がり、俺の両足に凄まじい衝撃が走った。

見れば、ガリガリの若手シーフであるザックと、白髪の魔術師ボランが、俺の左右の足に泣きながらすがりついているではないか。


「俺の、俺の絶対絶命の借金地獄を……あんな呪文(利息制限法)の一撃で吹き飛ばしてくれるなんて! 一生、一生この命を賭けて兄貴にお仕えしやす!!」(ザック)

「この老いぼれの命を救ってくださったばかりか、銀貨5枚もの大金まで……! アニキ様、いや、お館様! このボランの残り僅かな魔力、すべてあなた様のために使い果たさせてくだされぇぇっ!!」(ボラン)

「えっ。いや、離して。足に縋り付かないで。重い」


俺の冷静なツッコミは、背後からやってきた巨漢のガルドの号泣によってかき消された。


「うぉぉぉぉん! やっぱり兄貴は最高だぜ! 強ぇだけじゃなく、俺たちみてえな底辺のゴミクズにも慈悲を与えてくださる! おいお前ら、今日から俺たちはアニキ一家(ファミリー)の義兄弟だ!!」

「おうさ! 若頭と呼ばせてくだせえ、ガルドの兄貴!」

「おお、なんという熱き漢の絆……! わしは爺やとして、一家の参謀を務めさせていただきましょうぞ……!」

「勝手に組織図を作らないでくれるかな!?」


俺の悲痛な叫びも虚しく、むさ苦しい男三人の熱い抱擁(俺を中心に)がギルド内で始まってしまった。

周囲の冒険者たちは、「たった半日で、あの狂犬ガルド、韋駄天のザック、古参のボランを傘下に収めたぞ……」「グーテン街に、とんでもねえ巨大派閥(ファミリー)が誕生した瞬間だ……」と、畏敬と恐怖の入り混じった目で俺たちを見つめている。


違う。俺はただ、服を清潔に保って、可愛い受付嬢にモテたかっただけなのに。

こうして、異世界生活1日目の夕暮れ時。俺の意図とは全く無関係に、異世界ギルドの労働環境改善を目的(?)とした武闘派組織『アニキ一家』が、ここに産声を上げてしまったのだった。

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