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『魔法適性ゼロのインテリ眼鏡(元・市役所職員)、異世界ギルドの労働環境を改善して最強の「兄貴」になる。』  作者: げりっぱ


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第14話:街の最高戦力(Bランク)のカチコミと、お役所仕込みの窓口対応

第14話:街の最高戦力(Bランク)のカチコミと、お役所仕込みの窓口対応


「……よし。これで第三班の今週のシフトは完成だ。次はスラム地区の修繕工事に関する、資材の減価償却費の計算だな」


バンッ、バンッ、と。

俺は手元の書類に、確認済みの印(ドワーフの親方に彫らせた『アニキ』という事務印)をリズミカルに押していく。

グーテン街の中央通りから一本路地に入った場所にある、二階建ての空き物件。

それが、現在俺たち『アニキ一家(仮)』が家賃を払って借り上げている、新たな活動拠点――通称『現地対策本部』である。

構成員が五十名(うちCランク数名を含む)を超えたことで、もはやギルドの待合室や酒場にたむろすることは、一般市民の迷惑(営業妨害)になると判断したのだ。

一階は男たちの待機所兼、資材置き場。

そして二階の奥にある一番日当たりの良い部屋が、俺の専用の『執務室』となっていた。

俺は今日も無防備な作業着姿のまま、事務机に座り、ひたすらに五十人分の勤怠管理と給与(報酬)計算のエクセル作業(※手書き)に追われている。


(まったく。異世界に来てまで、なんで俺はこんな中間管理職みたいなデスクワークをしているんだ。俺が求めていたのは、可愛い女の子たちに囲まれる華やかなハーレム・ライフだったはずなのに)


俺が深々とため息をつき、マイ水筒の白湯を啜った、その時だった。


ドゴォォォォォォンッ!!!


一階の入り口付近から、建物全体が揺れるほどの凄まじい破壊音と、男たちの悲鳴が響き渡った。


「な、なんだてめえら! ここをアニキ一家の本部だと知って――がはぁっ!」

「おい、嘘だろ!? あの狂犬のガルドさんが、たった一撃で……!」


ただ事ではない。

俺はバインダーを片手に執務室を出て、二階の吹き抜けから一階の土間を見下ろした。

そこには、大剣ごと壁に吹き飛ばされて気絶している巨漢のガルドと、彼を庇うようにして武器を構え、全身から冷や汗を流しているザックやレオンたち(Cランク組)の姿があった。

彼らと対峙しているのは、二人の見知らぬ男だ。

一人は、燃えるような赤髪を逆立て、上半身に無数の刺青を刻んだ筋骨隆々の格闘家。

もう一人は、銀糸のような長い髪を後ろで束ね、豪奢な装飾の施された細身の剣(レイピア)を腰に帯びた、没落貴族風の魔法剣士。


「おいおい、なんだよ。最近この街でデカい顔をしてる『新興勢力』がいるって聞いて、わざわざ挨拶に来てやったのに。どいつもこいつも雑魚ばかりじゃねえか」


赤髪の格闘家が、首をボキボキと鳴らしながら獰猛な笑みを浮かべる。


「やれやれ。野蛮な真似はよせと言っただろう、ゼノ。……とはいえ、この程度の烏合の衆が我々と同じ空気を吸っていると思うと、確かに虫唾が走るがね」

銀髪の魔法剣士が、冷ややかな瞳でレオンたちを見下している。


「て、てめえら……! まさか、グーテン街の最高戦力……Bランクの『双牙(そうが)』かッ!?」

レオンが、恐怖で声を裏返らせながら叫んだ。

「戦闘狂の武闘家ゼノに、氷の魔法剣士シルヴェスター……! なんで雲の上のBランクが、俺たちのところにカチコミをかけてきやがったんだ!」

「決まってんだろ」


赤髪のゼノが、ニヤァッと口角を吊り上げた。


「最近、スラムの連中やCランクのお前らまで、どこの馬の骨ともわからねえ『アニキ』って奴を崇めてるらしいじゃねえか。この街の頂点は俺たちだ。俺たちの許可なく、勝手にデカい組織(ツラ)を作ってんじゃねえよ」

「というわけで、君たちの『ボス』の首を貰いに来た。さあ、どこに隠れている?」


二人のBランクから、すさまじい殺気と魔力が立ち上る。

それは、ゴブリンやスラムのネズミとは次元の違う、本物の『強者』だけが持つ圧倒的な威圧感(プレッシャー)だった。

レオンやザックたちでさえ、その殺気を当てられただけで呼吸が浅くなり、ガタガタと膝を震わせている。


「アニキに……アニキに指一本触れさせるかよ……っ!」


男たちが決死の覚悟で飛び掛かろうとした、まさにその瞬間。


「――騒々しいな。業務の妨げになる」


二階の踊り場から、極めて平坦で、感情の起伏が一切ない事務的な声が降ってきた。

全員の視線が、階段の上に立つ俺(作業着に眼鏡、バインダー装備)へと集中する。


「お前が……アニキか?」


ゼノとシルヴェスターが、俺を鋭く睨みつけた。


瞬間、二人のBランクから放たれる殺気が、鋭い槍のように束ねられ、俺の全身を貫こうと殺到した。並の冒険者なら、そのプレッシャーだけで泡を吹いて気絶するレベルの濃密な敵意だ。

しかし、俺の足は一歩も下がらない。顔色一つ、瞬き一つ変わらない。

当然だ。俺には女神のチートスキル『反威圧』がある。彼らの殺気は、市役所の環境部窓口で「今すぐこのゴミを不法投棄業者ごと燃やしてこい!」と日本刀(模造刀)を突きつけてきたヤバい市民のプレッシャーに比べれば、極めてマイルドで無害なそよ風でしかなかった。


「……ほう? 俺たちの気をモロに浴びて、平然と立っていられるとはな。ただのヒョロガリかと思ったが、少しは見どころがあるじゃねえか」

ゼノが嬉しそうに牙を剥き出しにする。

シルヴェスターも、細い目をさらに細めて俺を観察していた。

「なるほど。全く魔力を感じないが、完璧に気配を消す暗殺者の類か。……だが、我々を前にしてその余裕、いつまで保つかな?」


彼らは俺が『底知れぬ実力を持つからこそ余裕なのだ』と勝手に解釈しているようだが、俺の脳内は全く別の方向に回転していた。


(……やれやれ。またアポなしの厄介なクレーマーか。入り口のドアも壊されたし、ガルドも怪我をしている。これはしっかりと対応手順(マニュアル)を踏んで、法的措置も辞さない態度を見せなければな)


俺は階段をゆっくりと降り、五十人の舎弟たちが息を呑んで見守る中、二人のBランクの正面へと進み出た。

ゼノが拳を握り込み、一触即発の空気が流れる。

だが、俺は中指で眼鏡をクイッと押し上げると、おもむろにバインダーから一枚の羊皮紙を引き抜き、彼らの目の前に突き出した。


「お名前と、本日のご用件は? アポイントメント(事前予約)がないなら、まずはそこの『面会受付票』に記入し、番号札を取ってロビーでお待ちいただきたいのですが」

「…………は?」


ゼノとシルヴェスターの顔から、完全に表情が抜け落ちた。

張り詰めていた殺気が、風船がしぼむようにプシューッと霧散していく。


「面会……受付票……? お前、俺たちが誰だか分かって……」

「存じ上げておりますよ。グーテン街の最高戦力、Bランクの方々でしょう。ですが、ここはお役所……いや、我が班の対策本部です。いかに高名な方であろうと、正規の手続き(窓口の順番)を守っていただけないと、私としても対応いたしかねます」


俺は極めて事務的な『お役所スマイル』を崩さず、ボールペンをカチカチと鳴らした。


「それから、そこの入り口の木扉の損壊。および、当社の従業員(ガルド)に対する暴行。これらについては、後ほど『器物損壊』および『傷害』の被害届として、領主の治安維持局に提出させていただきます。賠償金については、示談か裁判か、どちらをご希望ですか?」

「な、なにをわけのわからない呪文を……っ!」


ゼノが顔を真っ赤にして怒鳴り、威嚇のためにすぐ横にあった木製のテーブルを、拳でドゴォォッ!と粉砕した。

木っ端が飛び散り、すさまじい風圧が俺の前髪を揺らす。


「ふざけた態度をとってると、お前の頭もこうなるぞ!!」


だが、俺は『反威圧』のおかげで、やはり一切の恐怖を感じていなかった。

俺は砕け散ったテーブルの残骸を無表情で見下ろし、バインダーの用紙にサラサラと追記した。


「……テーブル一つ、追加で損壊、と。器物損壊の賠償額に銀貨2枚を上乗せしておきますね。で、ご用件は? まさか、備品を壊して自分の強さをアピールしに来たわけではないでしょう。そんな小学生のようなメンタルでBランクが務まるとは思えませんし」


「き、貴様……ッ!!」

シルヴェスターの額に青筋が浮かび、レイピアの柄に手がかけられる。


(よし、完全に相手のペース(暴力)を崩したな。クレーム対応の基本は、相手の怒りに巻き込まれず、徹底して冷徹な『事務手続き』の土俵に引き摺り下ろすことだ)


俺の計算通り、二人のBランクは俺の『圧倒的なノーリアクション』と『未知の法術(損害賠償)』の前に、完全に調子を狂わされていた。

彼らの目には、俺が『いつ首を刎ねてくるか分からない、底知れぬ狂気を孕んだ化け物』に映っているのだろう。

だが、ただ冷たく突き放すだけでは、三流の窓口対応だ。

ソノママゾンで購入したBunkoid版『絶対にすべらない!合コンでの必勝会話術100選』の第60章には、こう書かれている。


――【怒っている相手や、プライドの高い相手には『ミラーリング(同調)』と『傾聴』が有効である。一度相手を突き放した後、ふと優しい声で相手の苦労(本音)に寄り添え。そのギャップが、相手の心を強烈に開かせるのだ】。


よし。ここからが、市役所環境部のエースと呼ばれた俺の、真の『クレーム処理(モテテク)』の始まりだ。

俺はバインダーを閉じ、彼らに向かって一つ、深く長い、同情的なため息を吐いてみせたのだった。

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