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『魔法適性ゼロのインテリ眼鏡(元・市役所職員)、異世界ギルドの労働環境を改善して最強の「兄貴」になる。』  作者: げりっぱ


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第13話:ソノママゾンの必勝デート術と、偉大なるパパ(恋愛対象外)への昇華

第13話:ソノママゾンの必勝デート術と、偉大なるパパ(恋愛対象外)への昇華


異世界生活、数日目のよく晴れた午後。

俺はグーテン街のメインストリートを、かつてないほどの高揚感と共に歩いていた。

今日の俺の身なりは完璧だ。

環境部の作業着は、女神の『病気にかからない身体(バリア機能)』によって相変わらずクリーニングしたてのようにパリッとしている。ドワーフの親方に依頼して、胸ポケットにはチーフ代わりに新品の軍手(白)を折りたたんで挿してある。フォーマルと現場の融合(スマートカジュアル)である。

そして何より、俺の脳内には昨晩から徹夜でインプットした完璧なデート・プランが構築されていた。


(ソノママゾンでポチったBunkoid版『絶対にすべらない!合コンでの必勝会話術100選』。その第50章にはこう書かれていたな)


――【女性を確実にオトすディナーへの誘い方。それは『非日常の特別感』と『断る理由を与えないスマートな口実』である。「相談に乗ってほしい」などの大義名分を用意し、相手にプレッシャーを与えずに高級店へエスコートせよ】。

俺の手持ち資金は、スラムのネズミ討伐で得た銀貨20枚と、ゴブリン討伐の報酬である銀貨30枚。合わせて銀貨50枚(約5万円)。

今日のデート代(交際費)として、俺はそのうちの銀貨10枚(約1万円)を財布に忍ばせている。この街で一番お洒落だと評判の、オープンテラスのあるカフェレストラン『木漏れ日の妖精亭』に目星もつけてある。


ターゲットは、Cランクパーティの魔法使い、エララちゃんだ。

昨日のゴブリン討伐で、俺は彼女に『戦場の指揮官としての冷徹さ』と『温かい白湯を渡す優しさ』の強烈なギャップを見せつけた。

彼女は俺の采配に圧倒され、震える手で白湯を受け取っていた。あれは完全に、俺の『底知れぬ大人の魅力』にオチた女の反応だった(と、俺は確信している)。


(決まりだな。今日のプロジェクト目標は、エララ君とのアフターファイブの確約。そして、ゆくゆくは彼女を『アニキ一家』の紅一点として迎え入れ、俺の理想のハーレム(職場環境)を築き上げる……!)


俺は中指で眼鏡をクイッと押し上げ、自信に満ちた足取りで冒険者ギルドの扉を開けた。



*

ギルド内は、相変わらず冒険者たちでごった返していたが、俺の姿を見るなりモーゼの十戒のようにサァァッと道が空いた。

俺は周囲の畏怖の視線を『モテオーラへの熱い眼差し』と脳内変換しながら、カウンターの端で受付嬢のクロエと談笑しているエララちゃんを発見した。

チャンスだ。

ガルドたち五十人のむさ苦しい舎弟たちは、現在スラム街のバラック修繕(土木作業)に行かせている。完全に俺一人。邪魔者はいない。

俺は足音を殺して彼女たちの背後に近づき、Bunkoid版の指南書通り、ワントーン低くした『甘く渋い声』で話しかけた。


「……こんにちは、エララ君。クロエ君も、お疲れ様」

「「ひゃうっ!?」」


二人は肩をビクッと跳ねさせ、振り返った。

しかし、俺の顔を見た二人の反応は、これまでの『裏社会のヤバいボスを見る怯えた目』とは明らかに違っていた。

大きく目を見開き、そしてどこかホッとしたような、あるいは『慈愛』に満ちたような、極めて温かい瞳で俺を見つめ返してきたのだ。


(よし! 怯えが消えた! 俺の『優しい大人の男』アピールが完全に浸透している証拠だ!)


俺は心の中でガッツポーズを決め、スマートに切り出した。


「エララ君。昨日のゴブリン討伐では世話になったね。君の魔法のサポート(フラッシュ等)があったおかげで、無事に業務を完了できた。……どうだろう、もし今日の夕方、君の時間が空いているなら。これからの『合同プロジェクトの連携強化』について、少し静かな店で意見交換(ミーティング)をしないか?」

「えっ……? 意見交換、ですか?」

「ああ。メインストリートにある『木漏れ日の妖精亭』のテラス席を予約しようと思う。もちろん、経費(お代)はこちらで持つ。君の負担にはさせないよ」


完璧だ。

『意見交換』という断る理由を与えない大義名分。

高級店へのスマートなエスコート。

一切の隙がない、大人の男の完璧なデートの誘いである。これで断る女性など、この世に存在するはずが――。


「ア、アニキィィィィィィッ!!」


その時。

ギルドの扉がバーン!と勢いよく開き、泥だらけの巨体が弾丸のように飛び込んできた。

俺の筆頭舎弟、狂犬のガルドである。その後ろからは、ザックやボラン、ドノバンをはじめとするスラムの男たち(総勢五十名)が、ゾロゾロとギルドになだれ込んできた。


「おい、どうした。定時(17時)までは現場の修繕作業のシフトだったはずだが」


俺が不機嫌に振り返ると、ガルドはまるで『お使いを褒めてほしい大型犬』のように、満面の笑みで駆け寄ってきた。


「へへっ! アニキの完璧な『工程表』のおかげで、予定より二時間も巻きで作業が終わったんでさぁ! 見てくだせえ、スラムのバラックの屋根、俺たちで全部ピカピカに直しやしたぜ!」

「おお、そうか。工程の短縮は素晴らしい。だがガルド、お前、また手洗いうがいをせずにギルドに入ってきたな。爪の間に泥が詰まっているぞ。その手で物を食ったら食中毒になる。ザック、お前もだ。服の裾が破れているじゃないか」

「す、すいやせん、アニキ! 資材を運ぶ時にちょっと引っ掛けちまって……」

「後で裁縫箱を出してやる。まったく、少し目を離すとすぐこれだ」


俺はため息をつき、懐からドワーフ親方特製の『除菌用おしぼり』を取り出すと、ガルドたちのゴツい手をゴシゴシと拭いてやった。五十人の荒くれ者たちは、俺の小言を有難そうに聞きながら「へへっ」「すいやせん、アニキ」と照れ笑いを浮かべている。

ふと気づくと。

俺の目の前で、エララちゃんとクロエの二人が、両手を口元に当てて『感動の涙』をボロボロと流していた。


「えっ? どうしたんだ、エララ君、クロエ君。なぜ泣いている?」


俺が不思議に思って尋ねると、エララちゃんは大きく首を横に振り、女神のような神々しい微笑みを浮かべて、俺の手を両手で優しく包み込んだ。


「アニキさん……。私、あなたのこと、誤解していました」

「誤解?」

「はい。戦場であんなに冷酷に指示を出すから、血の通っていない恐ろしい方だと思ってた……。でも、違ったんですね。アニキさんは、この五十人の不器用な男たち(家族)の命と健康を、誰よりも深く、誰よりも温かく愛している……!」

「は? 愛?」

「もう、無理しないでください。ご自身の水筒の白湯を私に分けてくださったのも、きっと『子供たち』の世話でご自分が飲む分を後回しにするのが癖になっているからなんですね……っ!」


何を言っているんだこの子は。俺はただ、モテ指南書通りに優しさをアピールしただけで――。


「だから……っ!」

エララちゃんは、ボロボロと涙をこぼしながら、最も残酷な決定打(フィニッシュブロー)を放った。


「私なんかとの『意見交換(お食事)』に、あなたの大切な時間やお金を使わないでください! そんなお金があるなら、ガルドさんたちの破れたお洋服を新調してあげてください! 私みたいな小娘が、あなたたち一家の『神聖な家族の絆』の間に割り込むなんて……そんなおこがましいこと、絶対にできませんっ!!」


「えっ」


「アニキさん……ううん、偉大なる『パパ』! これからもどうか、この子たち(※平均年齢30代のならず者)を立派に育て上げてくださいね! 私たち、ずっと応援していますから!!」


クロエも一緒になって涙を拭い、「素敵な家族愛を見せてくれて、ありがとうございます!」と深く頭を下げた。

俺の脳内で、何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちていくのがわかった。

『パパ』?

俺が? この、五十人のむさ苦しいオッサンたちの、パパ?


「……待ってくれ、エララ君。俺は別にこいつらの親じゃないし、ただの現場監督というか、プロジェクトの――」

「謙遜なさらないで! わかっています! 男手一つで五十人を育てるのが、どれだけ大変か……! もし『育児』に疲れた時は、いつでもギルドに愚痴を言いに来てくださいね!」


満面の、一点の曇りもない笑顔。

そこにあるのは、100%純粋な『人間としての尊敬』と『子育て奮闘中のシングルファザーへの温かいエール』だった。

男と女の、あの甘く危険な駆け引きの匂い(フラグ)など、1ミリたりとも存在していない。絶対の『恋愛対象外』の烙印である。


「うぉぉぉぉん! エララの姉ちゃん、わかってくれるか! うちのアニキ(パパ)は最高に優しくて強ぇんだ!!」

「アニキィ! 俺たち、絶対アニキを楽にさせてやりやすからね!」


ガルドたち五十人の男が、感動のあまり「アニキ! アニキ!」と俺に向かって群がり、暑苦しい胴上げを始めようとする。

俺はむさ苦しい男たちの筋肉と汗の匂いに揉まれながら、天を仰いだ。


(……ソノママゾンのレビューに書いておこう。この『Bunkoid版・絶対にすべらない!合コンでの必勝会話術100選』は、詐欺商品である、と)


いくら読んでも、いくら実践しても。

手に入るのは、女性の連絡先ではなく、屈強な男たちの激重な忠誠心だけ。

俺の輝かしい『モテ・異世界ハーレムライフ』の夢は、ここに完全に潰えた。

残されたのは、手元にある五十人分の膨大な『勤怠管理』と『健康診断(食育)』のタスクのみ。


「やめろ、胴上げは労働災害のリスクが高いからやめろ……俺を降ろせ……」


ギルドの天井に向かって虚しく響く俺の抗議は、男たちの歓声と、エララちゃんたちの温かい拍手によって完全に掻き消されていた。

こうして、魔法適性ゼロのインテリ眼鏡は、本人の意図とは全く裏腹に、グーテン街の裏社会を束ねる『最強で最も慈悲深い現場監督(パパ)』として、その名を轟かせていくことになるのであった。

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