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『魔法適性ゼロのインテリ眼鏡(元・市役所職員)、異世界ギルドの労働環境を改善して最強の「兄貴」になる。』  作者: げりっぱ


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第12話:アニキ一家の凱旋と、女子会で下された『恋愛対象外』の烙印

第12話:アニキ一家の凱旋と、女子会で下された『恋愛対象外』の烙印


東の廃鉱山でのゴブリン討伐プロジェクトを『定時(無傷)』で終わらせた俺たちは、夕暮れのグーテン街へと凱旋していた。


「道を開けろ! アニキの御帰還だァッ!!」

「アニキ一家(ファミリー)のお通りだぜ!」


街のメインストリートを、総勢五十名を超える男たちの野太い声が響き渡る。

先頭を歩くのは、作業着姿の俺。その背後には、初期メンバーのガルドたちに加え、スラムの顔役ドノバン率いる三十人の荒くれ者たち(インフラ整備の資材買い出しに来ていたところを合流した)、そして完全に俺の軍略(ただのシフト管理)に心酔しきったCランク冒険者のレオンたちまでが、親衛隊のように目を光らせて付き従っている。

すれ違う市民たちは、「ひぃっ!」「スラムの裏ボスに、Cランクの『銀の隼』まで傘下に収めてるぞ……!」「もうこの街の裏社会は、あの眼鏡の男(アニキ)の完全支配下だ……」と震え上がり、道端の壁にへばりつくようにして道を譲っていく。


(ふふっ。どうやら俺の『圧倒的なカリスマ性』が、街の住人にも浸透してきたようだな)


俺の腕に光るチープ〇シオの腕時計が、定時退庁の時刻を指し示している。

完璧なタイムマネジメント。そして、部下たちを無傷で帰還させたプロジェクトリーダーとしての実績。

俺の脳内ライブラリには、ソノママゾンの電子書籍Bunkoid版で熟読したモテ指南書の金言が踊っていた。


――【女性は、集団の頂点に立つ『アルファオス』に本能的な魅力を感じる。多くの部下を従え、しかし決して驕らず、部下を労わる優しさを見せることで、そのギャップが致命的な『モテ』を生み出すのだ】。

よし。ギルドに戻ったら、この圧倒的な集団の長としての威厳を見せつけつつ、受付嬢やエララちゃんに『部下思いの優しい上司』をアピールしてやろう。これで俺の好感度はストップ高間違いなしだ。



*

冒険者ギルドの扉を蹴り開けると、喧騒に包まれていた室内は、またしても水を打ったように静まり返った。

五十人のむさ苦しい男たちが、俺がカウンターに進み出るための道をサァァッと空ける。


「た、ただいま戻りました! アニキ様のご指導により、ゴブリンの集落は一匹残らず殲滅いたしました!」


Cランクのリーダーであるレオンが、金髪の可愛い受付嬢(クロエという名前らしい)の前に進み出て、直立不動の姿勢で報告を上げた。

かつてはギルドでも一目置かれていたイケメン剣士のレオンが、作業着の男を「アニキ様」と呼び、完全に組織の末端のような態度を取っている。その異常な光景に、クロエは「ひっ……!」と小さな悲鳴を上げて後ずさった。

チャンスだ。

俺は中指で眼鏡をクイッと押し上げ、静かにレオンの肩に手を置いた。


「レオン。報告は簡潔でいい。それよりも、お前たちはよく戦った。まずは体を休めろ」


そう言って俺は、ドワーフの親方に作らせておいた『携帯用おしぼり(蒸気魔法で温めた湿った布)』を懐から取り出し、レオンやガルドたちの汚れた顔に押し当てた。


「ほら、血と泥を拭け。そのままにしておくと破傷風などの感染症にかかる。今日は俺のポケットマネー(2万円)から経費を落とすから、大浴場のある宿を手配して全員で湯に浸かれ。傷がある者は先に消毒液を――」

「うぉぉぉぉん!! ア、アニキィィィッ!! 俺たちみたいな下っ端の顔の汚れまで、アニキ自ら拭いてくださるなんてぇぇっ!!」

「一生ついていきやす!!」


またしても五十人の男たちが、その場で土下座してむせび泣きを始めてしまった。

俺は困ったように肩をすくめ、カウンターの奥で震えているクロエと、背後で様子を見ていた魔法使いのエララちゃんに向かって、フッと『大人の微笑み』を向けた。


「……困った連中だ。少し目を離すと、すぐに自分の体のケアを怠る。まあ、俺が面倒を見てやるしかないさ。君たちも、今日の仕事で疲れただろう。温かい白湯でも飲んで、ゆっくり休むといい」


完璧だ。

『圧倒的な組織のトップ』でありながら、『部下の顔を拭いてやる家庭的な優しさ』。この二面性(ギャップ)こそが、女心を狂わせる劇薬となるはずだ。

俺はスマートに報告書(討伐証明)を提出し、男たちを引き連れてギルドを後にした。明日はついに、クロエかエララちゃんを食事に誘う決行の日である。



*

――しかし、アニキの知らないところで。

その夜、グーテン街の裏路地にある、女性客しかいない静かなカフェの一角で、極秘の『女子会』が開かれていた。

参加者は、ギルドの受付嬢クロエと、Cランクパーティの魔法使いエララ。そして数名の女性冒険者たちである。


「……ねえ、エララちゃん。今日の合同討伐、どうだったの?」


クロエが、怯えた声で身を乗り出した。


「あのアニキさん……たった数日でスラムを制圧して、今日はついにレオンさんたちまで完全に服従させちゃったじゃない。やっぱり、戦場でも血も涙もない、恐ろしいマフィアのボスだったの……?」


エララは両手で持った温かいハーブティーのカップを震わせながら、深く、重い溜息を吐いた。


「それが……戦場での采配は、本当に恐ろしかったわ。高い丘の上からメガホンで指示を出すだけで、あのゴブリンの大群がまるで工場のゴミ処理みたいに消えていったの。レオンなんて、完全に心が折れて忠犬になってたわ……」

「ひぃっ! やっぱり……!」

「でもね、クロエちゃん。それだけじゃないの。私、あのアニキさんの『本質』を見てしまったかもしれない……」


エララは遠い目をしながら、今日の戦場での異常な光景を語り始めた。


「あの方……私が魔力切れで倒れそうになった時、ポーションをガルドに飲ませろって冷酷に言い放ったの。それはいいわ。でも、戦闘が終わった後……私に、ご自身の水筒から『温かい白湯』を注いで、すごく優しい顔で渡してくれたのよ」

「えっ? さ、白湯(さゆ)……?」

「そう。お酒でもなく、冷たい水でもなく、胃腸に優しい白湯。しかも、メガホンで指示を出してる時も『疲労度が労〇基準法を超えてるから交代しろ』とか、部下の体調を異常なまでに気にしてたのよ」


クロエもハッとして手を打った。


「そ、そういえば! ギルドから帰る時も、ガルドさんたち五十人のむさ苦しい男たちに、一つ一つ『温かいおしぼり』を渡して顔を拭いてあげてたわ! スラムの人たちにも『ご飯を食べる時は野菜から食べなさい(ベジファースト)』って指導してるらしいし……!」


女性陣の間に、奇妙な沈黙が落ちた。

裏社会の冷酷なボス。血も涙もない軍略の天才。

それにしては、やっている行動が……あまりにも、あまりにも『家庭的(オカン)』すぎないか?


「……ねえ、みんな」

エララが、ゴクリと唾を飲み込んで結論を口にした。


「あのアニキさん……裏社会のボスっていうより、出来の悪い五十人の息子を、男手一つで必死に育ててる『シングルファザー』か『保育園の先生』にしか見えなくない……?」


「「「あーーーーーっ!!」」」


その瞬間、カフェに集まった女性陣全員の心の中で、点と点が線で繋がった。

狂犬ガルドは、アニキに褒められたくて暴れる『長男』。

スラムのドノバンは、泣き虫の『次男』。

レオンは、反抗期を終えて素直になった『三男』。

アニキは彼らに「服を汚すな」「野菜を食え」「白湯を飲め」と世話を焼き、彼らが泣いてすがりつくのを「はいはい、しょうがないな」と面倒を見ているだけの――巨大な『パパ(現場監督)』なのである!


「わ、わかる! あのピシッとした清潔な作業着も、子供たちが汚した部屋をすぐに片付けられるようにしてるお母さんみたい……!」

「冷酷な目つきだと思ってたけど、あれは『またうちの子が喧嘩して……』っていう、育児ノイローゼ気味の親の目だったのね!」

「なんだ……アニキさん、ただのめっちゃくちゃ面倒見のいい『現場のオヤジさん』じゃない!」


女性陣の恐怖は、一瞬にして氷解した。

代わりに湧き上がってきたのは、五十人の巨大な赤ん坊(※筋骨隆々のならず者たち)の世話を一身に背負うアニキに対する、深い同情と『尊敬の念』だった。


「すごいわ、アニキさん……。あんな猛獣みたいな男たちを、あんなに優しく管理してるなんて。人間として本当に尊敬する」


クロエが感動に目を潤ませて頷いた。

だが、隣にいた先輩の女性冒険者が、冷静なツッコミを入れた。


「でもさ。人間として尊敬はするけど……あんたたち、あの人の『彼女』になりたいと思う?」


ピタッ。

女性陣の動きが、完全に停止した。

あのアニキと付き合うということは。

デートの最中に、顔に刀傷のあるガルドが「アニキィ! 野菜食べましたぜ!」と報告にきたり。

スラムのゴロツキ三十人が「姉さん(姐さん)! 俺たちの新しいママになってくだせえ!」と土下座してきたり。

五十人のむさ苦しい男たちの『健康管理(胃腸の調子など)』を、彼と一緒にチェックする生活が待っているということだ。


「……絶対無理」

「無理ね。私、あんな重い男たちの『母親(義母)』になる覚悟なんてないわ」

「というか、あの男たちの『アニキへの熱すぎる絆』の中に入る隙間なんて、1ミリもないわよ。私たちが近づいたら、ガルドさんたちに『俺たちのアニキを奪う気か!』って絶対ジェラシー燃やされるわ……!」


女性陣は全員で、深く、強く、首を縦に振った。


「アニキさんは、永遠にあのむさ苦しい男たちの『パパ』でいてほしい」

「ええ。私たちは、それを遠くから見守る『モブ(通行人)』で十分よ」


満場一致。

ここに、アニキに対する女性陣の評価は、

【人間としては最高の聖人(パパ)。しかし、恋愛対象としては1000%あり得ない(対象外)】

という、最も残酷な形で完全に固定されてしまったのである。



*

「……くしゅんっ!」


同じ頃。大浴場のある安宿の一室で、俺は盛大なクシャミをした。


「アニキ! 風邪ですか!? 今すぐポーションを!」

「馬鹿野郎、アニキは病気にかからねえんだよ! きっとどこかの組織が、アニキの命を狙って噂してるんでさぁ!」

「よし、俺が今すぐ街を見回って、不穏な奴らを斬ってきやす!」


「やめろお前ら。ただ鼻がムズムズしただけだ。座って大人しく白湯を飲め」


俺は騒ぎ立てるガルドたちを事務的に座らせながら、窓の外の夜空を見上げた。

誰かが噂をしている……?

ふふっ。きっと、ギルドのクロエやエララちゃんが、「今日のアニキさん、素敵だったわね」なんて女子会で盛り上がっているに違いない。

明日はどちらをデートに誘うべきか。

俺はソノママゾンのBunkoid版を思い出し、モテ指南書の『第50章:女性を確実にオトす、完璧なディナーへの誘い方』のページを、ニヤニヤしながら脳内熟読をし始めるのだった。

自分の好感度が、地殻を突き破ってマントル(恋愛対象外のさらに下)まで到達していることなど、知る由もなしに

皆様からのご意見・ご感想をお聞かせください。

誤字脱字もあればお知らせ頂くと嬉しいです。

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