第6話
「いつまで辛気臭い顔してるつもりだ?」
古賀はペペロンチーノを音を立てて啜りながら、呆れるように言った。
「……今回も、何もできませんでした。威勢のいいことばかり言って、結局いつも失敗ばかりなんです。古賀様の力になりたいのに、『ジャシン』ひとつ見つけることもできずに、お勤め先を潰してしまうかもしれない」
「仮にバンディが潰れるとして、それは天羽のせいじゃねぇだろ」
古賀は家の中でも、天使のことを天羽と呼ぶことにした。呼び名が固有名詞の方が何かと便利だし、うっかり外で言い間違えることもなくなる。
その天羽はすっかり意気消沈した様子で、コーヒーを一口飲んではため息をつき、また飲んではため息をつく、といった始末。最初は無視していた古賀も、とうとう耐え切れなくなって話しかけてしまった。
「そうかもしれないですけど。でも、私が役立たずなのは事実です」
「……パスタ、悪くないぞ」
「それはどうも」
古賀は人を慰めたことがなかった。母親が荒れた時は、余計なことを言わず、嵐が過ぎ去るまで部屋の隅でじっとしているのが一番だった。だから、目の前で天羽が泣きそうな顔をしていても、肩をすくめることしかできない。
「まぁ、役に立ってるかと言われたら、今んとこあんまり役には立ってないな。面倒ごとが増えるばっかりだ」
天羽は横目でちらりと古賀を見る。
「でも、だからってそうやっていじけてるのは、らしくないんじゃないのか?いや、お前のことはよく知らないけど」
「……そうですか?」
「あぁ。俺の知ってるお前は、底抜けに明るくて、空回りしてでも人のために何かしようとするような、そんな奴だった気がするが」
「……確かに、私もそんな気がしてきました」
天羽はそう言うと、いきなりすっくと立ちあがった。
「そうと決まれば、デザート作っちゃいますか!このやっすいコーヒーにも合うような、甘ったるいやつを」
「一言余計だし、甘いのは苦手だ」
「私は得意です、任せてください!」
制止を振り切ってキッチンに入り、いつの間に買ってきたのやら、オレンジやりんごを冷蔵庫から取り出す。料理した方が食費は安くなるという触れ込みだったはずだが、この数日間の食費だけで言えばこれまでを遥かにオーバーしている。古賀はまた肩をすくめながら、ぼそりと呟いた。
「……それに、万引きの方もだいたい見当はついてるしな」
「えっ?」
「ジャシン」……すなわち人の悪意が、介在しない犯罪。
考えられる可能性は、それほど多くない。




