6話
目が覚める。
昨日は色々あったなと思いつつチラリと横を見る。
....なぜ?
バッと後ろに下がりつつ体を起こす。
何でか知らないが、ルイさんが俺の横で寝ていた。
二人用のホテルだから、当然ベッドも二つ存在したし、実際、昨日は最後、ルイさんとは別々のベッドで寝た筈なのだが。
「んんっ....なんじゃ?」
俺が動いた事で目が覚めたのか眠そうに体を起こす。
寝ぼけた様子で辺りを見回し俺を見ると「おう。おはよう」と何でもない様に答える。
いや、何でそんなに普通にしてられるんだ?
一応、彼女は女で、俺は男なのだが。
「ん?何を呆けておる?」
「い、いや、何で俺の隣で寝てるんですか?」
「....?あぁ、そんな事か。何、気にするな...それとも私の体に欲情でもしたか?」
「してません!」
茶化す様に俺を見ていたので、そうは行くかとプイっとそっぽを向く。
そもそも、この人はそんなに男女のアレコレを気にしてなさそうだし。
多分、俺が慌てふためく様を見て笑うつもりだったのだろう。
「そんな事より、さっそく訓練に付き合って貰いますよ」
「むぅ。つまらんの....まぁ良いか。で?どこで訓練するつもりじゃ?」
....それもそうか。
街中で訓練なんて出来ないし。
だとすると禁忌の森に戻るのが良いか?
「ちなみにじゃが、あの森は止めといた方が良いぞ」
「え?何でですか?」
「そもそも、封印が破られたのは既にバレとるじゃろ」
「え、どうやって?」
禁忌の森は出入りが不可とされている。
どうやっても、封印が解かれたのはバレない。
一応、ルイさんが集落を襲ってはいるが、どうも記憶を弄っただけらしいし。
「気づかなんだか?あそこには封印とは別に警鐘を告げる術も施されていたぞ」
マジか。
だとすると、今頃退魔師達が探し始めているかもしれないのか。
「まぁ、見つかった所でどうとでもなるがの」
「でも、それだと訓練が」
「しょうがないの.....甘味処じゃ」
「はい?」
一体何を言っているんだ?
「じゃから甘味処じゃ。案内せよ...私が満足したら、とっておきの場所を紹介してやろうじゃないか」
胸を張って宣言する。
「案内するのは良いんですけど....そんな場所あるんですか?」
「うむ。誰にも邪魔されないとっておきの場所じゃぞ」
自信満々と言った感じだな。
なら期待しても良いのかもしれない。
「じゃあ、その、何が良いですか?甘い物と言っても、あんまり自分も街に出た事が無いので難しいですけど」
「そうじゃな....今の人気な甘味なら何でもよいぞ」
人気って言われても、分かるわけない。
それに、好き嫌いもあるだろうし。
まぁお金はあるから、何とかなるか。
「なら....あ、あそこなら良いかも」
「む?何かあるのか?」
「えぇ。確か前に見た覚えが...うん。行きますか」
確か、駅前にケーキ屋があったはず。
結構前の記憶なので不正確ではあるが、多分ある。
人気店みたいで、たしか行列が出来ていた...と思う。
ワクワクした様子のルイさん。
そんな期待されても困る....これ、美味しくないとか言われたら訓練中止とか言うんじゃ?
いや、考えるのはよそう。
首を振って美味しくなかった時の事は置いておいてルイさんを連れて外に出る事にした。
チェックアウトを済ませて外に出る。
初夏の日差しが眩しいが、暑さは例年に比べて大人しく、そこそこ涼しい。
猛暑の時は外に出るのも億劫なので助かる。
ルイさんも気持ちよさそうに外の景色を楽しみながら大人しく俺の後ろを着いてきてくれる。
正直、変な人に絡まれないかと少しドキドキしているけれど、別にそんな事は起きなかった。
記憶を頼りに駅に向かう。
ケーキ屋は確かに存在していて、開店直後だからか人も少なく並ぶ必要も無く買えそうである。
「ルイさん。あそこです」
「おおお!!あれか....して、あれはどんな甘味を売っている?」
「ケーキですね。そこそこ人気だったと思いますよ」
「けぇき?なんぞそれは?旨いのか?」
「えぇ、嫌いな人は少ないと思いますよ」
カランっと音を立て店内の扉を開ける。
空調の効いた部屋に入り店内のショーケースの前に移動する。
ルイさんは珍しそうにウインドウの中を見てキラキラと目を輝かせていた。
「ほー!中々どうして....美しいじゃないか!」
「どれが良いですか?」
「む?...お主、甲斐性がないの」
「え?な、なんで?」
「私はどれが旨いか分からん。食った事もないのじゃ。故に分かるじゃろ」
あー。
つまり、俺がルイさんが好きそうな物を選べと?
そんなの分かるわけない。
実際、俺だってケーキは食べた事無いし。
....仕方ない。
店内のレジ前に居る女性店員の方に近寄る。
俺を見て営業スマイルを浮かべる彼女に「あの。お、おすすめって何かありますか?」と尋ねた。
ぶっちゃけ、人と話すのは嫌いだ。
「おすすめですか?....あ、なるほど」
ん?
なるほどって何がだろうか?
店員さんが後ろで未だにウインドウを眺めているルイさんを見て納得した様な雰囲気を見せている。
「彼女さんへのプレゼントですかね?」
「え?あ、えーとはい」
プレゼントとは違うのだけれど。
プレゼントと言うより贄?
まぁいいか。
「でしたら、当店おすすめのこちらはどうですか?」
「ショートケーキですか...じゃあこれを二つお願いします」
まぁ、無難だし良いか。
それに、店員がおすすめしたくらいなので、味も問題ないだろう。
もし気に入らなかったら....うん、彼女のせいにしよう。
「ちょっと待つのじゃ」
「え?」
ガシっといつの間にか肩を掴んで止めるルイさん。
やっぱり、自分で決めたかったのか?
「どうしました?」
「どうしたも、こうしたも無いのじゃ。そこのお主」
「え?、あ、はい。どうされました?」
「10個じゃ」
「え?」
「じゃから、その、しょおとけぇき?を二つでは無く十個所望する!」
どうやら、二つじゃなく十個も食うらしい。
店員も引いてるけど。
というか....そんなに食うの?




