7話
公園に移動した俺達。
目の前でリスみたいにケーキを食べるルイさんは目を輝かせて「美味!美味じゃ!!」と叫びながら美味そうに全てのケーキを食べつくしていた。
「これは凄いな!けぇきとやらは」
「それは良かったです」
「うむ。明日もこれを食べよう。いや、他にも美味な甘味があるかもしれんしのぉ」
うーんと悩むルイさん。
本題を忘れていないだろうか。
「あの、訓練は?」
「む?あぁそうじゃったな」
我に返った様子で立ち上がる。
「では、行くとしようか」
「あの、何処に行くんですか?」
「おぉ言ってなかったの、わしの家じゃ」
家?
え、家で訓練するの?
と言うか、ずっと疑問だったが、家は残ってるのか?
「何を不思議そうにしておる」
「いや、数千年もたってますし、多分跡形も無く消えているんじゃ」
俺の疑問は最もだと思うのだが、何故か馬鹿を見るような眼を向ける。
「お主、まさかとは思うが、この日本にあるとでも思っているのか?」
「え?」
「はぁ。そんな訳ないじゃろ。今から行くのは鬼ヶ島じゃ」
そう言って彼女の目が変わる。
神通力を発動すると、彼女の目が赤く変わる様で、得体のしれない雰囲気が漂う。
直ぐに目の前で変化が起きた。
真っ黒な渦が出現する。
「な、なんですか?これ」
「これは、鬼ヶ島に行くための扉じゃ。まっ、ついて来れば分かるぞ」
ちょいちょいと手招きするルイさん。
本当に大丈夫だろうかと不安に思いつつ、俺はルイさんに手を引かれて目を閉じて渦の中に身を通す。
一瞬の不快感の後。
目を恐る恐る開けると、そこは全くの別世界だった。
赤い空。
大地は岩肌に覆われている。
生き物の姿も、草木も見えない場所。
「どうじゃ。ここが鬼ヶ島じゃ」
「ここが?、あの、これは何処に?」
こんな場所が地球にあるとは思えない。
「ここは、異なる地。空海が言うには異なる世界らしいぞ...まぁどうでも良いがの」
「異世界?そんな馬鹿な」
いや、でも実際に今、俺は見た事も無い場所に居る。
本当に異世界なのか。
「うむ。まぁ、やはりというか...他の者はおらんの」
「ん?住んで居る人がいるんですか?」
「そりゃ、ここは鬼の住処じゃからの....まぁ数千年も時が経てば生きている者もおらんか」
少し寂し気な様子を見せる。
確かに、鬼の存在は見た事は無い。
妖魔の中に、ルイさんの様に喋る個体は居ない。
「ま、いいがの。さて、訓練じゃったな」
くるりと俺の方に向き直る。
それと同時に、どうやったのか分からないが、甲冑姿に変わった彼女。
角も隠さず、本来の彼女の姿になったルイさんが笑う。
「さて、さっそく色々教えて行こうと思うが....その前に、お主は退魔師はどうやって力を出していると思う?」
「どうやって?それは、妖気を使って魔を祓うですか?」
「やはりの...時が経てばこうも変わるもの、いや、そもそもがそっちの派閥だろうから仕方ないのかの」
派閥?
「そもそもじゃ、妖気とはなんじゃと思う?」
「え?それは退魔師に備わった力としか」
「そこが間違いじゃ」
そう言って彼女は其処ら辺に落ちていた木の棒を手に取り、地面に何かを書き始める。
「良いか?妖気とは本来は妖魔が力を行使する際に出す気の事じゃ」
「え?ど、どういう?」
「まぁ聞け。妖気は本来、退魔師にとっては毒じゃった。と言うのも、退魔師も本来の力を行使する際副作用として妖気が使える」
そんな話は聞いた事が無い。
そもそも、副作用?
「所で、昔の退魔師がどうやって妖魔を祓っていたと思う?」
「それは妖気?でも、今の説明だと使って無いですよね?」
毒って言うくらいだ。
多分、妖気は使わない方が良いと昔人は考えていたって事だ。
「そうじゃ」と言って頷くルイさん。
「本来退魔師が使うのは、私がお主に何度も見せていた『神通力』じゃ。神の御業をその身に宿す。それが、退魔師が本来使うべき力なのじゃ」
「え?でも、神通力なんて....そんなのどうやって?」
ルイさんの様な人くらいしか使えないのではないだろうか?
「まぁ、今はお主以外の退魔師は使えんの、なんせ妖気を使い過ぎておるからの」
「?」
「神通力と言うのは、他者の為に己を顧みない、義を貫く心に比例して力が増す。じゃが、それとは逆に自身の為、欲望に走った存在に神の御業は使えんのじゃ。心当たりがあるじゃろ?」
今の退魔師は選民思想に囚われている。
自分こそが選ばれた人間だと。
故に何をしても良いと言う感覚さえ持っている人間が多い、というより全てだと言える。
「じゃが、この神通力を使用して妖魔を祓うとどうしてもな....欲に走る存在がおるのじゃ。するとどうなると思う?」
「神通力が弱まる?」
「それだけでは無い。魔に近づくのじゃ....妖魔にの。分かるじゃろ?妖気を扱う妖魔とは、つまり欲に囚われ落ちた存在じゃ」
その説明を聞いて、俺は理解した。
妖気が毒だと考えていた昔の退魔師の存在。
そして、選民思想の持っていた『大嶽丸』とルイさんを呼称していた人達が何故少数派だったのか。
「わかったようじゃの。欲に囚われれば妖気が増し、神通力が弱まる。逆に義に尽くせば神通力が増し、妖気が弱まる。じゃから、昔は自分を律する為に滝行なんかを良くやっておったのじゃがの」
懐かしそうに遠くを見るルイさん。
でも、俺からすれば、問題大ありである。
「なら、俺が世界を壊そうとすればするほど妖魔に近づくと?」
「そうじゃな」
さも当然の様に告げるルイさん。
こんな情報を聞いたうえで、俺はどうやって強くなれと言うのだろうか。




