4話
何度か押し問答の後
「こんなのが現代では一般的な服装なのか?」
「えぇ。あの、我慢してください」
むぅと不機嫌そうにスウェット姿になっているルイ。
どうも、甲冑と角は仕舞えるらしい。
俺からすれば、どうやってそんな事出来るんだろうか?と疑問だが、簡単にやってのけたので、深く考える事は止めた。
スウェットに関しては、再度集落に突撃してルイさんが盗ってきている。
相変わらず無傷で集落から戻ってきていて、流石最強と感心した。
「よし、全は急げじゃ。さっさと宿へ案内せよ」
「え、あ、はい」
なし崩しにこんな状況になってしまったが、果たして本当に良いのだろうか。
俺が強くなって世界を壊すと言うのは...本当に可能なのだろうか。
悶々とそんな事を考えながら、森を抜け、街に向かう。
集落と街はかなり離れている。
実際、俺もそんなに街に頻繁に訪れている訳では無いので、記憶を頼りにゆっくり向かう。
その後ろをキョロキョロと珍しそうに周囲を観察しながら付いてくるルイ。
「お、そうじゃ、お主、空海がどうなったか知っておるか?」
「え?空海ですか?」
「そうじゃ。友の最後くらいは知っておきたくての」
友ね。
本当に聞いてた話と全く違う。
大嶽丸は空海と何度も争った敵同士だと俺達は聞いている。
でも、実際には友達。
一体、どちらが本当なのだろうか。
「良く分かってないですね」
「なに?」
「いや、本当に、口伝では大嶽丸を封印した際に力を失ったとありますが、その後はどうなったかは伝えられてません」
「ただ」
「ただ?なんじゃ」
口伝が間違っている可能性はある。
実際、大嶽丸は空海を友と言っているし。
それに、昔聞いた事があるのだ。
「これは嘘かもしれませんが、最後はどこかの山に籠っていたと聞いた事があります」
あの集落で苛めを受けていた際に俺を無視して井戸端会議に花を咲かせていた女共が言っていたのを覚えている。
その時は気にも出来ない状況だったけど、確かそんな事を言っていた。
「山に?籠る?あいつがか?」
「えぇ。まぁ噂ですけど」
首を傾げるルイ。
そんなに不自然な事だろうか。
「あの、腕っぷしだけが取り柄のあの女が?....なんかありえんだろうに」
「そうなんですか?」
「うむ。少なくとも山に籠っても数刻も立たずに暇で暴れる」
どんな人だったんだ?
俺の中のイメージと全く違うのだが。
「まぁよい。どうせ、お主を鍛えてる間、暇じゃから適当に昔馴染みの痕跡でも探そうかの」
「どんな人がいたんですか?」
「む?そうじゃの、例えば....男を見たら直ぐに目会う女狐とか...戦闘狂いの馬鹿?とかかの」
どんな人たちなのだろうか。
いや、とういうか、俺からしたら、ルイさんの方が戦闘狂いだと思っていたのだけれど。
「ちなみにどんな関係だったんですか?」
「友じゃ。共に妖魔を祓い、共に笑い、共に世を駆けた。掛け替えのない友じゃな」
遠い目をしながら話す。
もう会えない。
数千年も時が経っている以上既に死んでしまっているだろう。
「あの、ごめんなさい」
「何がじゃ?」
「いや....その封印を解いたから」
「気にしておらん。それに、むしろ感謝しておる」
「感謝ですか?」
「うむ。封印と言うのは固定じゃ。老いも、死も、全てを等しく固定する。それは私達生きる者にとって必要な者を他者に奪われる事なのじゃ。故に、奪われた物を取り返してくれたお主に謝罪される必要は無いの」
達観している...と思った。
この鬼は何処までも達観していて、今の現状から、過去、その全てを冷静に見つめている。
だからこそ、彼女は最強になれたのだろうか。
「お!!あれは何じゃ?」
タタっと駆けだして遠くを指さすルイさん。
陽気な彼女の視線の先には街が見えた。
「あれが、街ですよ。あそこに人が住んでるんですよ」
「ほうほう。随分高い建物ばかりじゃな」
「えぇ。と言っても、ここは田舎の方なので、都心だともっと凄いと思いますよ」
実際、東京の街はこれ以上だと思う。
行った事は無いが、妖魔退治で同期が何度か東京に行っていた。
帰りは何時も、俺以外の人達にお土産を配ってたな。
「ほう。都か...京も栄えているのだな」
「えぇ。あ、ここから見えるあの建物がホテル..じゃなくて、宿ですよ」
一際大きい建物を指さす。
「おおおお!!デカい!!これは楽しみじゃな!!」
今にも駆けだしそうなルイさん。
そうだ。
言っとかないと。
「あの、街に着いたらむやみに人は殺さないでくださいね」
「おん?なんじゃ、お主は私に、世界を壊してほしかったんじゃろ?」
確かにそうだ。
何を常識的な事を言ったんだ。
むしろ、彼女に暴れてくれれば儲けもんじゃないのか?
「え、あ」
「はっはっは。いいのう。悩め悩め!存外、お主にはまだ可能性がある」
二カっと笑うと俺の頭をグリグリと撫でまわす。
力が強いので少し痛い。
「悪に落ちるも、善を貫くのも...存外難しい者じゃ。中途半場は死を招く」
「....じゃあ、ルイさんは?」
ジッとルイを見る。
この人はどちらの存在なのだろうか?
パッと手を離したルイさん。
「私は私じゃ」
ニッと笑う。
この陽気な彼女は果たして
口伝通りの悪鬼なのか。
それとも。




