3話
音がする。
意識が戻って来た。
どうも、不快感に耐え切れず意識を失っていたらしい。
のそりと起き上がる。
「ん?起きたか」
「...あっ!」
忘れていた!
大嶽丸を復活させてそれから...ん?
なんでおにぎり食ってるんだ?
大嶽丸は胡座をかいて美味そうにおにぎりを食べていた。
握ってもらったの?
え?誰に?というか...何処に行ってたんだ?
「あの?なんでおにぎり食ってるんだ?」
「ん?腹が減ったからの」
「いや、誰に握ってもらったんですか?というか何処に行ってたんだ?」
「誰かは知らんの。家に置いてあったのを適当に持ってきたからのぉ。それと、お主の住んでいた集落に行っておった」
!?
最強の鬼が退魔師の集落に?
それはつまり。
「勘違いしているようじゃから言っておくが、別に退魔師共は殺しておらん。殺そうとは思ったが」
「は?ど、どうして」
「言ったじゃろ?お主が自分で成せと。じゃからお主を虐げた奴らは全員ピンピンしておる」
そう言えば、そんな事を言っていたか。
でも、ピンピンしてる?
「戦わなかった?」
「?あー、あんな馬糞共が、私と戦闘出来るわけ無いだろ」
「え?じゃ、じゃあなんで集落に?」
「下準備じゃ」
「下準備?」
ペロリとおにぎりを平らげた大嶽丸がポンと膝を打つ。
気の良さそうに笑う彼女だが、これが伝説の悪鬼だとは誰も分からないだろうな。
「うむ。簡単に言うと、お主を強くするのに、あの集落の人間は邪魔じゃと思うての...じゃから一人残らず全員『お主に関する記憶を消した』」
俺に関する記憶を消した?
そんな事出来るのか?
いや、そうか大嶽丸の神通力は最強だと言われていた。
それくらいはできるのかもしれない。
でも、記憶を消す意味があるのか?
「記憶を消した意図が分からんみたいな表情じゃの。よー考えてみろ。お主を鍛えれば、恐らく数日で結果が出始める、そうなると直ぐに疑われるぞ?」
「数日...確かにそうなったら疑われるし面倒かも知れないけど、もし大嶽丸の存在がバレたらアンタなら殺せるしどうとでも出来るんじゃ?」
「めんどくさい。それに、言ったじゃろ?他者に見せてもらう景色はつまらんと。私はお主を強くはするが、それ以外はする気がないのでな...それに別の事も」
「別の事も?」
首を振って「何でもないわ」と言う大嶽丸。
少しだけ険しい顔をしていたが直ぐに元の調子に戻った。
「兎に角じゃ。あの集落に住んでいると厄介事が多すぎる。お互いにの、じゃから記憶を消した」
「じゃあこの後は?」
「うむ。下界に降りるぞ!集落を捨て新天地に向かうのじゃ」
「勿論、師である私も着いていく」と言い切る大嶽丸だが、色々ツッコミどころ満載である。
「あの?良いですか?」
「なんじゃ?」
「住む場所は?」
「私の家でよかろう」
???
何をわけわからん事を言っているんだろうか。
「家?えっと...大嶽丸の封印から既に数千年経ってますけど、家なんて消えてるんじゃ」
「消える?...そうか、本当に何も知らなんだな。まぁそうか、安心せい私の家はちゃんと残っている」
一体どう言う事なのだろうか。
家が残っている訳が無いと思うのだが。
「まぁ、少し問題もあるがの...直ぐには行けんが、あぁそうだ。これも掻っ払って来たぞ」
ドサッと俺の前に札束を置く大嶽丸。
かなりの額で多分数百万くらいはありそうだ。
マジで集落に行ってたんだな。
あそこには優秀な退魔師が多かった。
なのに、目の前の大嶽丸には傷どころか汚れすら付いてない。
あの集落を無傷で落とせる。
その気になれば全滅させることすら出来る。
でも、それをしない。
残虐非道の大嶽丸とは似ても似つかない。
だけど、実力は最強。
わけがわからない。
「どうした?私の顔をジロジロと...惚れたか?」
「い、いや、何でもない。それより、どうしてこれが通貨だと?」
「ん?お主の記憶の中を見たからの。これを巻き上げている退魔師共が...大事なものだと思ったが、通貨とはの」
どうも、大嶽丸は俺の記憶を読み取ったらしい。
暗く、後ろ暗い過去を。
「それにしても、お主、かなり立派じゃのぉ中々見たこと無い物であったわ」
「...ど、どうも」
「うむ。あれを女狐が見たら喜んで襲ってくるだろうな。はっはっはっ」
女狐?
誰の事だろうか。
「それにしても、随分落ち着いたみたいじゃな。よい兆しじゃ」
「落ち着いた、というか何かよく分からな過ぎて冷静になったというか...えっと、それでこれからどうするんですか?大嶽丸...さん」
今更ながら、大嶽丸と呼び捨てしていた事に申し訳なさを感じてしまう。
此処まで常識人だとは思わなかった。
少なくとも集落の退魔師よりは数百倍まともな人だ。
「その大嶽丸と言うのはやめい」
「えっとなんて呼べば?」
「うむ...あ、いや流と呼べ」
ルイ?
「えっと、じゃあルイさん?」
「うむ。それでよい、それで、この後じゃったな。一先ず宿を探すかの。明日から本格的に鍛えてやろう」
宿?
家じゃなく?
いや、そもそも家は無いと思うので俺も多分ホテルになるだろうなとは思ってたけど。
「宿、ですか?」
「ん?そうじゃ、本当はさっさと家に行きたいのじゃが少し問題があっての。宿は近くに無いのか?」
「えっとあるにはあるけど...その、大嶽..じゃなかった、ルイさんの姿が」
「ん?何が問題じゃ?」
問題大有りである。
現代で刀を持ってる甲冑姿の鬼等いないのだ。
普通、妖魔は一般人には見えないけれど、彼女の説明では妖魔では無いと言い張っていたし、普通におにぎりを食べていた。
だとすると一般人にもハッキリ見えてしまう。
「えっと...説明が難しいんですけど、今の現代だと、そもそも鬼や妖魔は退魔師しか知りません。しかも刀は持っているだけで逮捕...だと伝わないか、罪人として捕まりますよ?」
「なんと!?持っているだけで!?斬る訳でも無いのにか?」
「えぇ。それに甲冑姿というのも...多分見られたら捕まりますね」
めちゃくちゃ驚いているな。
まぁ、昔は刀を持つのは普通の事だったんだろうし分からなくもない。
でも、甲冑姿...特にルイさんの甲冑は、その際どいのだ。
女性と言うのも相まって、冷静に見ると普通に魅力的だ。




