2話
どのくらい話していただろう。
フワフワした感覚が消え、涙を拭う。
意識がハッキリしてきた。
これが大嶽丸の能力。
能力をかけられた事すら気付かなかった。
だけど、俺の全てを話してしまった。
きっと大嶽丸の様な力のある者からすれば雑魚の俺に降り掛かった不幸など大したことないのだろう。
ジーッと俺を見る大嶽丸。
何処か退屈そうな彼女は「ほーん」とめちゃくちゃ興味が無さそうだった。
「事情は相分かった。じゃが...私が動く意味が分からん。何故お主の為に私が世界を壊さねばならん」
「っ!だ、だって!あ、あんたは昔妖魔の国を作る為に沢山の人を殺したんだろ!?な、なら!」
「...あーそこからかの。まぁ数千年の時が経っていては当然かの」
「な、なに?」
「私は別に妖魔の国なぞ作る気は無い。そもそもお主は勘違いをしている」
呆れた様子で告げる大嶽丸。
ど、どういうことだ?
だって、目の前のコイツは最強の鬼。
極悪非道の大嶽丸だろ?
「鬼と言うのは合っている。じゃが妖魔では無い。よく言われておったのは悪鬼とかのがわかり易いかの」
「あ、悪鬼?」
「なんじゃ、それも知らんか....まぁとにかく、私は妖魔では無い。むしろ妖魔を祓う側じゃな」
は?
何を言っているんだ?
「残念じゃな。私は別に世界が壊れてほしいとは思わん。故に世界を壊す願いは聞き入れられん」
「あ、あ...そ、そんなっ」
最後の希望だった。
極悪非道な理不尽な暴力が世界を破壊する。
その夢を抱いて死ねる事。
それが俺に残された最後の願いだったのに。
「...はぁぁ。死ぬ前の人間の目は何時も腐っておる。面倒くさいのぉ」
「お前が殺すのか?」
「はぁ!?お前みたいな、ちんちくりんを殺して何になる。死ぬつもりだったんじゃろ?見れば分かるわ」
そういうことか。
それは、確かにそうだ。
コイツを解放したら殺されるか、それとも自分で死を迎えるかどちらかだと思って此処に来たのだ。
だが、どうやら後者を選ぶ事になりそうだ。
それも、最後まで絶望して。
「話を最後まで聞け、馬鹿者」
「?」
「お主の世界とやらは随分狭い。退魔師等というちっちゃな世界に囚われておる」
「それ以外に何がある?俺には退魔師としての知識しか無い。退魔師になるしか道が無い人間に何が出来た?」
「つまらん、くだらん。私はこの手で、足で数多くの世界を見てきた。私は鬼ではあるが鬼の理から外れた道を進み、そして頂を見た。鬼では見れない世界をな」
「それは、アンタに力があったからだろ!?俺には...俺のような雑魚の気持ちが分かるのか!?」
俺に目の前の大嶽丸の様な神通力があれば。
他の退魔師の様に力があれば。
こんな人生を歩む事も無かった。
いや、そもそも退魔師なんてなりたくは無かった。
「なら力を手にすれば良いだろう?」
「どうやってだよ」
「ふふんっ!目の前にいるじゃないか。最強の師がな」
得意気な顔で俺を見る。
大嶽丸に弟子入り?
そんなの考えた事も無かった。
「それにの。他者に見せられる景色なぞつまらん...と空海も言っていたが、私も同意見だ。どうしても世界を壊したいのなら自ら壊してみよ」
「俺の手で?...俺のような雑魚に出来るわけない」
「出来る。そもそもじゃ...お主は私の封印を解いたと言うたな?私を封印出来る奴等一人しかおらん。だから分かるが、お主は力の使い方を覚えれば空海と同等の強さにはなるじゃろう」
「お、俺が空海と同じくらい?ほ、本当か?」
「すまん。少し盛って話した...とはいえ、私の目から見ても、そこまでお主が弱い退魔師には見えんのも事実じゃ」
最強の鬼が自信満々で俺を評価している。
俺に力があると。
雑魚では無いと。
「ま。どちらにせよ、封印を解いた礼くらいはしないといけないからの。それに...やることもあるでな」
スッと一瞬鬼の...伝え聞く凶悪な顔をする大嶽丸。
先程までの気さくな様子とのギャップに少し狼狽えてしまう。
「さて...そうと決まれば少し失礼するぞ」
腰を上げ立ち上がると、ズカズカと目の前に移動した大嶽丸が俺の頭に手を置く。
手から何か力が入り込む。
脳内を弄られているような不快感。
「グッ...な、なにを」
「ん?あぁ我慢せよ。何、下準備と言うやつじゃ」
ぱっと手を離すと、俺の住んでいる集落の方を見つめる。
「ふむ。あの方角...あんまり変わってないのぉ。まぁよいか」
「待っておれ」
バッと一瞬で姿を消す。
俺は、先程の不快感でそれどころでは無く、ドサリとその場で倒れ伏し意識が朦朧としていく。
これで死ぬのも悪くないかも知れない。
だって雑魚と言われ続けた俺を最強の鬼が評価してくれたのだから。
でも
願わくば....。




