1話
日本には妖魔がいる。
人知れず、誰にも賞賛されないが妖魔を祓うものがいる。
退魔師として育った鴨田悠馬。
彼は退魔師として未熟だった。
同期は立派に妖魔を屠る、悠馬は祓えない。
ビビリな悠馬を他の退魔師は嘲笑う。
自身が妖魔を祓うために使う力を悠馬に浴びせ重傷を負わせた退魔師もいた。
悠馬を全裸にさせて土下座させ、それを使って脅し、悠馬から搾取する退魔師もいた。
普段表舞台には決して出ない、賞賛されない彼らからしたら悠馬は玩具だった。
自分のストレスの吐け口にする為の都合のいい玩具だった。
大人の退魔師も差別思想は強かった。
雑魚の悠馬には何をしても良い、何故なら自分達は日本の脅威である妖魔を祓う英雄だから。
何処か、そんな選民思想が根付いていた。
結果。
悠馬は両親にも見捨てられる。
「自分の息子ではない」
「こんな奴はさっさと死んでくれ」
実の父親にそう言われた悠馬が限界に達したのは必然だった。
ガサッと茂みをかき分け一人で森の奥へと歩く。
退魔師にとって禁忌の森と言われているこの場所を歩く悠馬は、全てに絶望していた。
英雄なら何をしてもいいのか?
俺が一体何をしたんだ。
ここに来る前に父親に殴られた頬がズキズキと痛む。
「ふ、ふざけるな....こ、壊してやる。ぜ、全部」
....あった!
ポツンと怪しげに佇む奇妙な古い祠。
古い昔の文字で詩が刻まれたそれは退魔師にとって、決して触れてはいけない禁忌の封印。
近付く事さえ許されない。
悪鬼。
その昔、妖魔の中に最強の鬼がいた。
その鬼は数多の退魔師を屠り、妖魔の国を作ろうとした。
当時日本最強と言われた退魔師によって封印されたソイツは祓え無かった。
故に、決して封印を解くべからず...と退魔師は代々口伝で伝えていた。
悪鬼『大嶽丸』
その封印を解く。
「死ねばいいんだろ?死んでやるよ...お前らも道連れにして」
壊れたように笑いながら祠に手を置く。
俺の力は大したことない。
そこらの一般的な妖魔を祓う力も無い。
でも
封印に関して。
特に封印を解く力に関しては得意なんだ。
バチバチと祠から火花が飛び散る。
刻まれている詩がグニャリと歪み、動き出す。
ざまぁみろ。
俺はこれから世界を壊す悪鬼を呼び出す。
悪鬼に殺されても構わないのだ。
だって、俺は既に退魔師として死んでいるのだから。
バチッ!!!と一際大きく火花が飛び、ボロボロと祠が崩れ風化していく。
それと同時に、怪しげな光が包み込む。
鬼が出る。
口伝で聞いた、ドス黒い軽装の甲冑を身にまとい二対の刀を持った白髪。
頭部に鬼の特徴である角を生やした...女。
女?
「口伝だと男だったんだが....まぁそんな事どうでもいいか」
これで俺の願いは叶うのだから。
「くぁあっ。よー寝たわ...うん?なんじゃお主」
グイッと胸を強調させながら伸びをしてキョトンと俺を見つめる大嶽丸。
一先ず、その場で殺される事は無さそうだ。
「お、俺が、あああんたの封印を解いた」
「ん?封印じゃと?...ふむ。何を言っているかよー分からん...それに、なんじゃ?その珍妙な服装は?」
封印されていた事を知らない?
いや、それより『極悪非道、問答無用』と言われている大嶽丸が、退魔師を見ても殺しに来ない?
「あ、あんた大嶽丸だろ?」
「あーん?その呼び名...そうかお主、馬糞な方の退魔師か。うん?まて...お主封印と言っていたな?」
「そ、そうだ...あ、あんたの封印を解いてやったんだ!あ、あんたは最強の悪鬼なんだろ!?だ、だからあんたにこの世界をぶっ壊してほしいっ!俺の願いを叶えてくれっ!!」
バッとその場に土下座する。
土下座くらい安い物だ。
何度も、あの退魔師共に土下座した、恥辱にまみれた無意味な土下座とは訳が違う。
俺の願いの為ならばこの首すら惜しくない。
「綺麗な土下座じゃのぉ...まぁよい。少し聞きたいことがある。それ次第じゃな」
ドサッとその場で胡座をかいて座る大嶽丸。
「聞きたい事?」
「うむ。先ず、封印と言っていたな?それはなんじゃ」
「?いや、あんたは封印されたんだろ?日本最強の退魔師『空海』に封印されて此処に」
「空海?...はっはっはっ!!そんな訳ないじゃろ!!あ奴は封印だけは下手くそじゃからな、それにそもそも空海とは親友じゃ!アヤツが封印するなぞ天地がひっくり返っても無いわ」
は?と、友達!?
何を言っているんだ???
「...ふむ。その様子を見るに嘘は言っておらなんだ、とすると...今何年じゃ?」
「え?今は、にせん...じゃなかった令和20年」
「れ、れい?何じゃ?」
「あー、えっと、口伝出聞いた封印日からだと1200年以上経ってる」
キョトンと目をまんまるにする大嶽丸。
俺が嘘を言っていないと分かったのか「そうか、では空海も既に」と言って目を閉じる。
「...な、なぁ?」
「うむ?あぁすまんの。少し耽っておったわ...」
「あ、あんた本当に大嶽丸か?き、聞いてた話と」
「まぁそうじゃろな。なんせ私の事を『大嶽丸』とさっきから言っているからの。恐らくお主は奴の...まぁよいか、で?なんでお主は私に『世界を壊してほしい』と願う」
ジッと見つめる大嶽丸。
白い美しい目の色が赤く染まる。
伝え聞く大嶽丸の神通力。
その力が何なのか俺は身を持って体感した。
大嶽丸の能力に『心を操る』力があるのは聞いていた。
フワフワと心地良い感覚の中、俺はポロポロと今までの事を話していく。
話したくない事も。
全て洗い浚い。
そして、全てを吐ききった俺は泣いていた。




