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プヲタJKとアラサー俺、プロレス部をつくる  作者: 遊星


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7話 プロレスについての少し長い話

道場の四隅に盛り塩をする。


「センセ、なにしてるの?」


「盛り塩ってな、ケガしないようにおまじないだ」


「クサリュウそういうの信じるタイプ他なんだ」


「信じてない。けど俺の師匠がやっててな。お前らがもし0.1%でも安心するならやってもいいかなと思ってな」


皆が無言で見守る中、塩を置き終わる。祈る相手も作法も知らないので、マットに向かって皆の無事を願い、ひとつ息を吐いた。


「さあ、今から練習?」


少し張り詰めた空気を破るように、小鞠が明るい声をあげる。


「うーん、今日は練習は無しにして、話をさせてもらおうかなと思って」



皆が座って俺の言葉を待っている。


「まあ気軽に、飲み物でも飲みながら聞いてくれ。

まず質問1、今までプロレスを見たことがある人は?」


当然小鞠は元気よく手をあげる。

優羽も。

美依希、すみれの手は上がらない。


「美依希とすみれはこないだ連れて行ったのが初めて?テレビとかでは?」


「プロレスというものがあるのは知ってる……ぐらいですかね」

「オレもそんな感じかな」


「優羽は?」


「兄が見てたのを横でテレビ見てたぐらいね。でもけっこう好きだったわよ、飯伏とか棚橋とか」


横で小鞠の目が輝く。


「小鞠は?」


よくぞ聞いてくれました、とばかりに話しだす。

「小さい頃からパパが大好きで、毎月のように会場に連れてってもらったんです!もちろんテレビで新日本とかも観てたけど、インディーの小さな会場で観るのがいちばん好き!あとはネットとかで海外のプロレスも……」


「分かった分かった、ありがとう」


話を途中で切られて小鞠は不満顔だ。


「では質問2。

プロレスはショーであり勝敗は決まっている。知ってた人?」


今度は小鞠以外の手が上がる。


「ええ、まあ……」

「ネットとかにも書いてあるしな」

「今どき真剣勝負と思って見てる人って……」


小鞠の泣きそうな、いや涙がポロポロ溢れだした顔を見て、皆口を噤む。


「嘘でしょ……草野龍哉……」


久々に出たな呼び捨て。


「田園コロシアムのアンドレ対ハンセンも、

10.9東京ドーム武藤対高田も、

三沢対小橋の花道タイガースープレックスも、

そして草野対瀬尾の西東京王座決定戦も、

全部決まってたって言うんですかっ!」


「そのへんの伝説級と並べるとガクッと格が落ちて恥ずかしいからやめてくれ。

はっきり言って他のは知らない!

ただ俺自身と俺の周りはそういうプロレスをしてきたし、俺はそれしか教えられないってことだ」


「小鞠は今の話を聞いてプロレスを嫌いになったか?」


「全然!」

小鞠は頭を強く振って答えた。


「そうか、俺もだ。自分がやってきたプロレスが大好きだし、誇りを持っている。」


「でも友だちに聞かれても内緒にしといてほしい。人間って不思議なもんでな、分かりきったことでも本人側から聞くと没入出来なくなるんだよ」


「さて、ここからが今日本当に話したかったことなんだが」


「勝敗、筋書きが決まっているプロレスでも、生命や人生に関わる怪我をする危険がめっちゃくちゃ高い」


「そりゃもう、一般人が風邪を引くぐらいの頻度で脱臼する、骨折する、靭帯を切る、背骨が歪む」


「そして、逆に言うと生命に関わる怪我を『相手に負わせる』危険もめっちゃくちゃ高いってことだ」


「俺は5年間インディーでやっていた。プロレス業界で5年といえば駆け出しも駆け出しだ。」


「だがその短い間に俺の知ってる人が一生車イス『以上』の怪我を負っている」


「どこかの誰かじゃない、俺が会話を交わしたことがあるレベルの近い人間でだ」


「もちろん皆をプロレスに誘った責任として、怪我させないために俺が持ってる技術は全部伝える。無駄に危ないことは絶対させない。

信じてなくても塩だって盛る」


「でも試合が始まったら、練習で受け身を踏み切ったら、俺は助けてあげられない。

半歩、数ミリ間違ったら一生動けなくなるかもしれない。そういうスポーツなんだ」


「インディーでやっていると色んなレベルの選手と対戦することがあった。受け身もろくにとれない、素人以下の鍛えかたの奴も山ほどいた」


「でもいちばん対戦してて怖いのは、まさか自分が大怪我すると思ってない『覚悟が出来てない』奴だった」


「だから、本格的に練習を始める前に皆にもその覚悟を持って欲しいんだ。万が一、いやプロレスでは千が一だな。その時に少しでも後悔しないように」


「プロレスで生命を預けあうと、先で違う道を行ったとしても、魂の深いところで繫がるんだよ。まあ良くも悪くもだけどな。」


くそ、俺は何の話をしてるんだ。


「ここに集まってくれた4人が、そういう関係になってくれたら嬉しい……です」


「連休中は部活動はしません。ただ宿題として、毎日最低ひとつプロレスの試合を見てください。ネットでもテレビでも古くても新しくてもどこの国でもいいので」


「ただし切抜きとかダイジェストじゃなくて一試合まるごとね。

ネットだとfull matchとかで検索すると出てくるから」


「どんな一流選手でも、基本的にプロレスは模倣とアレンジでできているから。どんどん身体に元ネタを吸収してください」


「では連休中しっかり休んで楽しんで、また元気な顔を見せてください。今日はこれまで」


「センセ、さよなら」


小鞠はじめ、皆少し神妙な面持ちになって帰り支度をはじめる。


正直に言うと連休明けに全員が帰ってこなくて、部が続けられなくてもそれは仕方ないと思っている。


あの時の俺やアイツみたいな後悔は、あの子達には、絶対させたくないから。




川崎駅近くの病院で短い見舞いをすませてジムに行くのが、俺の休日のルーティンだ。

ジムを出てぶらついていると、プロレスのポスターが目についた。


『プロレスリング・ジェロニモ

5/3クラブ・アンダーベース大会!』


今日だな。ポスターの真ん中で大きく写っている長谷川智樹は、昔何度か試合したことがある。

別の団体だったが歳もキャリアも近かったしゴツゴツやり合って、割と評判のいいカードだった。


インディープロレスの移り変わりは早い。他の選手は知らないヤツばかりだ。長谷川も、もう団体を率いる立場か。


ライブハウスを借りてやってるのか。

音響も照明もあるし、いいアイデアだ。


そうだ、マットを地面にしっかり固定したいから強い両面テープがほしかったんだ。いや、マジックテープのほうが取り外しできて便利か?確か駅ビルにホームセンターが入ってたよな。


とか考えながら歩いて、地図アプリから顔を上げると見知った顔が並んでいる。

小鞠、美依希、優羽、すみれだ。


思わず隠れてしまった。



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