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プヲタJKとアラサー俺、プロレス部をつくる  作者: 遊星


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25話 クリスマス会

2学期期末テスト最終日の11月27日放課後、道場に4人が並んでいる。


「先生、オレと優羽はバトルゲートに参戦することに決めました」


「分かった。

瀬尾さんには俺から伝える。バイトも許可されているから問題ないだろうが、学校にもひと声かけるから週明け一緒に行こう」


「学業優先なのは念を押しておくが、活動の仕方で悩むことがあれば、いつでも相談してくれ」


緊張した面持ちで頷く。


「部活だが、週末は試合や練習ですみれと優羽が抜けることは多くなってしまうだろうな。

試合は2月に『卒業生を送る会』でプロレスをやらせてもらえないか交渉中なので……」


小鞠が遠慮がちに手を上げる。


「どうした?小鞠」


「……JKWクリスマス会をやりましょう」


「小鞠さん、クリスマスのプロレスイベントですか?でも急にはなかなか……」


「ミーキちゃん違うよ。クリスマス会だよ。ケーキ食べてプレゼント交換するの」


「い、いいですね、やりましょう!」


優羽とすみれだけがバトルゲートに参戦することになって、悔しさも寂しさもあるだろう。

それを紛らわす方法がクリスマス会なのは、いかにも小鞠らしい。


「場所はどうしようかしら?さすがにこの道場じゃ、あまりにむさ苦しいわね」


「外食だと高くつくし、センセは借金まみれですもんねー」


おい。


「美依希の家って、パーティーが出来る部屋とかねーの?」


「そうですね……蔵ならちょうどいいかもしれません。母に聞いてみます」


と言って美依希は席を外して小声で電話を始め、俺を含めた残りの庶民は頭を寄せてこれまた小声で相談する。


「クラってなんだ?」「倉庫の蔵なんだろうけどパーティー?」「正倉院みたいなのがあるのかも」


美依希の電話が終わる。にっこりと微笑んで


「いつでも大歓迎とのことです」


と救いのひと声。



「持つべきものは富豪の後輩ね〜」


と盛り上がっている中、再度小鞠が遠慮がちに手を上げる。


「ミーキちゃん、クラって何?」


「門の脇に使っていない小さな蔵があるんですけど、改装してお客様の応接室兼ピアノの練習室にしているんです」


「すごすぎー!グランドピアノとかあんの?」


「蔵は小さいので、アップライトピアノですね。グランドピアノは別の部屋に……」


「もうやめてくれー!」


「すみれちゃん、アンタが聞いたんじゃない」




そんなわけで、クリスマス会は12月23日市川家に決定し解散となった。


さて、瀬尾さんに電話しなければ。

……ワンコールが鳴り終わる前に太い声で応答がある。こういう人なのだ。


「おつかれさまです、草野です。うちの2人、お世話になります。宜しくお願いします」


「おう、宜しく。で、もう1人は?」


ちょっといたずら心を出して、生意気な口をきいてみる。


「瀬尾さんなら分かってるんじゃないですか?」


「草野、言うようになったな。まあ分かった。じゃあな」


あいさつを返す間もなく電話が切れる。つくづくこういう人なのだ。




12月23日、終業式終わりに20年落ちマーチで市川邸へ向かう。


「5人で車に乗るの、夏合宿以来だね!」


小鞠は無邪気に言うが、強烈なトラウマを残している4人は曖昧な返事をする。


「初めて乗ったのはオレが先生に抱えられて拉致された時だったよな!」


その節は色々すみませんでした。


新百合ヶ丘のモダンな住宅が並ぶなかに、武家屋敷のような土壁が見えてくる。


「美依希、もしかしてアレか?」


「はい、先生。

手前の空き地に停めてください。

お客様の車用に借りている土地ですので」


車4〜5台はゆうに停められる空き地を指して言う。この空き地のひと月の家賃だけで、俺のアパート1年分くらいありそうだ。


門をくぐると、隙なく手入れされた日本庭園が広がっている。門の脇にある蔵へ入ると、蔵の土壁を活かした塗壁と大理石の床、装飾の施された応接ソファとピアノ、楽譜を納めた本棚に、控えめなクリスマスツリーが見事に調和している。


「さ、おかけください」


圧倒されながら腰かけ、皆で持ち寄った料理を広げる。俺の持ってきたケンタッキーも居心地が悪そうだ。


ひとしきり食べてプレゼント交換。

くじ引きで誰のプレゼントかは内緒にしたが、赤い闘魂タオルが小鞠なのは明らかだった。


「ミーちゃん、ピアノ弾いていい?」


「サーシャさん弾けるんですか?」


「小学生の時に少しだけね」


「では、連弾しましょう!」


優羽と美依希のピアノを伴奏に俺と小鞠がクリスマスソングを歌う。すみれは裸足になって、即興のバレエを踊りだした。


一曲歌い終えて、誰からともなくケラケラと笑いだして全員に伝染していく。すみれは大理石の床を転がりまわって笑っている。


「優羽、すみれ」


笑いが収まった頃合いに声をかける。


「プロの世界は想像以上に厳しいぞ。

これから大変だと思うが、お前たちは俺の誇りだ。お前たちなら絶対成功する」


俺の胸につけた2人の頭をひと撫でしてやった時、すみれの電話がなった。

困惑した表情で電話を切る。


「どうしたんだ」


「瀬尾さんが、今から所属選手との顔合わせをするからすぐ横浜の道場に来いって……」


俺は天を仰いでソファに座る


「瀬尾さんがそういうなら、直ぐに行かないとダメだ。行かなかったら、選手全員連れてここに押しかけてくるな」


「大変!すぐに駅まで送らせます!」


と言って美依希が壁にかかっている内線電話をとる。話しながら美依希が通知の来た携帯画面を見ていると、みるみる表情が変わる。


「すみません、つき……知り合いが道で拾った仔犬を鶴見川に投げ捨てたくて仕方ないらしくて、行って止めてきます!」


「なんだよ、その意味の分からない状況。なんで拾ったのに捨てるんだよ。美依希どんなヤツと友達なんだよ」


すみれが突っ込むが……月岡だな。あいつも相当やさぐれてるな。美依希と連絡先交換してたのか。病院で追いかけっこしてたもんな。




バタバタと3人が消え、小鞠と2人になった。食べ終わった皿を片付けていると、小鞠が口を開く。


「実はね、センセに別のプレゼントがあるの」


俯いて差し出された包みを開けると、紺色の手編みのマフラーだ。


「……ママに教わりながら頑張って作ったから、だいじにつけてね」


「あ、ありがとう。着けてみていいか?」


と着けようとするが巻き方が分からない。考えてみると、今までネックウォーマーしかしたことがない。


戸惑っている俺を見かねて、小鞠が巻いてくれる。小鞠の首すじが顔に近づいて、いい匂いがする。プロレスの練習で毎日のように組み合っているが、初めて嗅いだ香りだった。


「あと、センセ。この手紙はあとで読んでください」


と、かわいらしい封筒を受け取った。

ありがとう、といった後この返事は合っていたのか少し悩んだ。


「センセ、今日は楽しかったですね」


「ああ、本当に。こんなに笑ったのは久しぶりだ」


「来年のクリスマスも絶対やりましょうね」


来年、か……ああ、絶対今じゃない。今じゃないのは分かっているけど、今じゃないと言い出せない。それだけは分かる。



「小鞠、すまない。本当にすまない。

俺、3月で教師を辞めてバトルゲートに行こうと思ってるんだ」


「え?」


小鞠の顔から表情が消えていく。


「じゃあJKWはどうなるんですか?たった1年で私たちを放ったらかして、自分のやりたいことするんですか?

前に『復帰する気はない』って言ってたじゃないですか。小鞠たちを騙してたんですか?」


「小鞠、聞いてくれ。俺は西東京プロレスの時に同期を再起不能にする怪我を負わせてしまって」


「知ってますよ、若田部秀選手ですよね。あの試合見ましたよ。なんなら会場にいました」


「DVDでも繰り返し見たけど、落とし方も普通だったしセンセ悪くないですよ」


小鞠は事も無げに言う。しばらく呆気に取られたが言葉を絞り出す。


「それで瀬尾さんと一緒にいた月岡が秀の弟だって最近わかって」


「あ、やっぱりそうだったんですね。面影もあるし、串刺しニールキックからハーフハッチって若田部と同じコンビネーションだから、もしかしてと思ってたんです」


ますます呆気に取られて、次の言葉を絞り出すのにさらに時間がかかった。


「月岡は俺を殺すつもりでプロレスラーになったんだ、それを知ったからには……」


「罪滅ぼしだって言うつもりですか?どれだけ自分が可愛いんですか?

違いますよ、センセは若くセンスに溢れた月岡さんと戦いたいだけなんですよ!

自分がそうだったグレート瀬尾の右腕のポジションに、月岡さんが座っているのが妬ましいだけなんですよ!」


「それを認めたくないから、宿命だ罪滅ぼしだってカッコつけた言い訳して。

小鞠達を放っといてプロレスしたいなら、好きにしたらいいんですよ!

ただ、それを周りのせいにしてるセンセがダサくてムカつくだけです!」


全く返す言葉がなかった。俺も気づかないふりをしていた、本当の俺の気持ち。小鞠はいとも簡単に俺の心を丸裸にして、ナイフでメッタ刺しにしてきた。


小鞠が、俺の手から手紙をひったくり破り捨てる。


「さよなら」


「お、送って帰ろ……」


「歩いて帰ります」




市川邸の外に出ると、夕暮れの街は冷え込んでいた。

着け慣れないマフラーの暖かさと、それ以上の心の寒々しさを感じながら、車に乗り込んだ。


周りの住宅街の庭に設えたイルミネーションが、デリバリーピザのサンタクロースが、俺の視界を上滑りして流れていった。






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