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プヲタJKとアラサー俺、プロレス部をつくる  作者: 遊星


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24話 西東京プロレス

「草野龍哉選手にも、所属選手として活躍いただきたいと考えています」


その次は瀬尾さんが言葉を継いだ。


「草野、ギャラは相場ぐらいしか出せないが契約金は600万出せるよう話しといた」


部員たちからは驚嘆の声があがったが、俺は全身の血が逆流する感覚に襲われて立ち上がる。


「お前ら、突然来て勝手なことばかり言いやがって!バカにするのもいい加減にしろ!帰れ!」


俺の怒気も涼しい顔で受け流して、瀬尾さんが返す。


「……お前がプロレスをやる気が無いなら別にいい。

俺が興味があるのは、プロレスする奴だけだ」


「お嬢さん方、ご家族とも相談いただいて、11月中に返事を聞かせていただけますか。

草野さんも」


「俺は……!」


「じゃあな草野、また来る」


話が終わった途端、瀬尾さんがおもむろに席を立つと振り向きもせず、手を上げてそのまま去っていく。



瀬尾さんたちが去った後、5人とも風穴を開けられたように立ち尽くしていたが、ややあって優羽が口を開く。


「クサリュウ、なんでさっきあんなに怒ったのよ。アンタらしくもない。

何か理由があるんでしょ?」


「……そうだな。面白くもない話だが、皆聞いてくれるか」




「俺が入門した西東京プロレスは、瀬尾さんが作った団体でな。


俺は大学進学で上京した時に入門した、っていうかプロレス団体に潜り込むために東京の大学を選んだんだけどな。我ながら親不孝だよ。


とにかく、瀬尾さんは入門した俺にプロレスはもちろん、団体運営まで手取り足取り教えてくれた。俺の師匠なんだ」


「瀬尾さんはどこが気に入ったのか、俺をかわいがってくれてな。今来てた月岡みたいに右腕みたいなポジションをやってたんだ


大学卒業したら、副社長なんてポジションをくれてな。でもインディー団体なんて10年持つところは殆ど無い世界だ」


「案の定、内情は借金まみれでな。

しかも俺はその頃、試合で相手に……大怪我を負わせてしまって、思い切り殴ったり投げたり出来なくなってしまったんだ」


美依希の表情が、ほかの誰よりも曇った。


「忘れもしない。

12月6日、結果的に西東京プロレス最後になった大会で、瀬尾さんは俺の左足首を折った。わざとだ」


全員が息を飲む。


「しかも、副社長になる時にいつの間にか、団体の借金の保証人になっていてな。瀬尾さんと俺が1000万ずつ借金を背負って団体は解散。


風のうわさでは、瀬尾さんはスポンサーに借金を肩代わりしてもらってバトルゲートに移籍。

俺は引退して現在に至る、ってわけだ」


「ひでー!グレート瀬尾って極悪人じゃねーか!」


「はは、借金押し付けられたり、売上持ち逃げされたりは業界でしょっちゅうある話でな。俺が世間知らずの甘ちゃんだっただけだよ」


「なんでそんなめに遭わされたのに、あんなに普通に喋れるんですか?向こうもです、酷い仕打ちをしたのに!」


「……そりゃあ、向こうが大先輩で世話になった人だからな」


「アンタがお人好しなのは知ってたし、度を越してるね」


優羽が深いため息をつく。


確かに、俺は瀬尾さんを恨んだり憎んだりしてない。それは今、優羽たちに説明しても分からないだろうから言わなかった。


瀬尾さんは、プロレスにしか興味が無いんだ。

あの時は、俺が秀に怪我を負わせてプロレスがまともに出来なくなったから切り離された。


賭けてもいい。

あの時、俺と瀬尾さんが逆の立場でも瀬尾さんは同じ選択をしたはずだ。


瀬尾さんは、プロレスにしか興味が無いんだ。プロレスのためなら、他人も自分も平等に差し出すほどに。



「じゃあなんで、さっきはあんなに怒ったのよ?」


「……センセ、小鞠分かりましたよ。

さっきの契約金600万って、借金の残りの金額……」


「さすが小鞠、プロレスについては勘が良いな!」


「ひと言余計ですー」


と、小鞠が唇を尖らせる。


「バトルゲートにどんなスポンサーがいるか知らないが、俺ごときに契約金600万なんて絶対ありえない。

あれは瀬尾さんが嘘をついてるんだ」


「あれ?ってことはグレート瀬尾が払ってくれるってこと?じゃあ実はいいヤツ?オレもう分かんねー」


「はは、俺にも分かんねーよ、すみれ。

ただ、俺はなんだかバカにされた気がしたから頭に血がのぼった。

とにかく、間違いないのは『グレート瀬尾はプロレスにしか興味がない』ってことだけだ」




「さあ、明日からテスト休みだからな。ちゃんとテストに集中してくれよ。


そのあとは……

すみれ、優羽、じっくり考えて答えを出してくれ。

部の皆や家族と相談してもいいが、プロレスラーは独り独り個人商店だからな。

最後は自分で決断すべきだと、俺は思う、じゃあおつかれさん」


と立ち去ろうとした背中に、小鞠が言葉を投げる。


「センセ!センセがバトルゲートでプロレスやるとしたら、先生辞めちゃうんですか?」


「……今の話聞いてただろ?

俺は復帰するつもりなんか無いよ」


俺は振り返らず答える。

小鞠が、美依希が、優羽が、すみれがどんな顔をしているか見る勇気が無かった。




瀬尾さんたちの訪問から1週間ほど経った日曜、月岡から電話が入った。


「返答する期日はもう少し先だっただろ?」


「草野さん、今日は個人的にお話がありまして。川崎駅の辺りまでお越しいただけませんか?」


何を考えているか知らんが、秀の見舞にも行こうと思っていたところだ、ちょうどいい。


「構わないよ、どこに行けばいい?」




川崎駅前に着くと雨だった。傘を差して月岡の先導で歩く。


「どこへ行くんだよ。話があるなら、雨だしそのへんの喫茶店とかでいいだろ」


「いい場所があるんです、お付き合いください」


10分ほど歩くと、秀が入院している病院の前に着いた。月岡は迷いなく病院の中を進んでいき、秀の病室に入る。

秀はいつものように眠り、バイタルの音だけが鳴り続けている。


「どういうことだ?なんで秀のことをお前が?」


「鈍感な人ですね、よく言われませんか?」


まあ、言われるな。


「私は、若田部秀の弟です。

母が再婚して父親が違うので、あまり似ていないでしょうが」


「草野さんにも、あの日会っているんですよ。病室で兄に縋って泣いたあの日から、背は20cm近く伸びました」


俺は丸椅子に力なく腰かけた。

なぜ気づかなかったんだ。あの顔つき、体格、そして『才能の塊』。


「……瀬尾さんは知ってるのか」


「言ったことも聞かれたこともありません。

まあ、草野さんもご存じのとおりの人ですからね。どちらだとしても不思議はありませんね」


「兄はあの日から、死ぬより辛い日々を送っています。私はあなたをリングで殺してやろうと思って、プロレス業界に入りました」


「……俺を殺したいなら、他に方法はいくらでもあっただろう」


「何故でしょうね。

リングで殺さないと意味がないと思ってましたし、兄が人生を賭けたプロレスってやつを、一応知っておきたかったのかもしれませんね」


「……でも、入門してみたら瀬尾はプロレスのことしか考えてないクソボケ野郎だし、草野テメエはとっとと辞めて女子高生にのほほんとプロレス教えてるし。


なにより、嫌々始めたプロレスは楽しくて楽しくて堪らないし!


オイ草野!俺はいったいどうしたらいいんだよ!何とか言えよ!」


月岡は普段の慇懃な若者の仮面を脱いで、口汚く罵った。


なんてことだ。こいつも、リングの煌めきに魅入られたひとりか。俺がかけた呪いに苦しんで、熨斗をつけて4年越しに返しに来たっていうのか。


思い返せば、小鞠が2階から落ちてきたあの日から時計の針が動き出したのか。

あの時小鞠を受け止めてなければ、秀の弟とこうして対峙することもなかったのか?

あいつは天使か悪魔かの使いか何かか?


と、病室の入り口でバサ、と何かが落ちる音がする。振り向くと涙顔の美依希が傘を取り落としていた。


「そんな、なんてこと……」


「美依希、なんでここに?」


「先生からあの話を聞いてから、私も時々お見舞いに伺ってるんです……

そしたら……まさか」


「お嬢さん、あまり他人の事情に立ち入らないほうがいい」


月岡は冷徹に言い放つと、足早に病室を出ていく。構わず美依希が追いかける。



俺と秀だけになった病室で、秀の乾いた頬に触れてみる。


「なあおい秀。俺のせいだけどお前のせいだぞ。早く目を覚まして丸く収めてくれよ。

俺にはムリだよ」


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