19話 段取り、白熊、大バズり
翌日から、共商祭に向けての追込みが始まった。
顔の広い優羽は(優羽の言葉を借りると)ビジュアル担当の美依希とともに営業。
小鞠とすみれは運営、調整担当。
俺もこちらで打合せに加わる。
会場設営、受付、売店等の分担。
進行台本、タイムスケジュールの作成。考えることは山ほどある。
「外部の客はチケット渡すからいいとして、生徒はどうする?無料だけど外部の客とごっちゃになったら収拾がつかないな」
「受付は2つに分けて、生徒はカウンターで人数を取るぐらいですかね?入場時間も分けます?」
「体育館が使える時間は1時間半だ。客入れと売店で30分カツカツだからそんな余裕はないな
すみれ、売店では現金をあつかうから信頼できる人間を当てたい。あてはないか?」
「生徒会の役員は、共商祭が始まっちゃえば手すきだから頼んでみるよ。元々、オレの試合絶対見に来るって言ってたし。あ、ギャラは出してもらうぜ」
「もちろん!役員さんなら安心ですね!」
「小鞠、幕間のミニライブは5分の時間厳守で念押しとけよ。
昔、田舎の大会で市長が30分喋ったことがあってな。客は怒るわ延長料取られるわで地獄だったんだよ」
「了解!あとは音響とリングアナのリハを……」
と相談してると、優羽と美依希が帰ってくる。
「ユウさんミーキちゃんおつかれー」
「おつかれさん、首尾はどうだ?」
優羽は深い息をはくと、どっかと腰かけた。
「みーちゃんと一緒に回ると、想定の1.5倍捌けるわね。預けも入れて今日までで150枚よ」
「ウッソだろ!?」
「知り合いに当たってみるから、っていう預けも入れてよ。20%ぐらいは返ってくると思うから、全部はあてにしないでよ」
「ポスターも足りなくなってきたのですが、まだ在庫ありますか?」
「もう心もとないから、30枚くらい追加しよう。余ったらサインを入れて当日売ってもいい」
「センセ、さすが元プロだね!」
「さあ、準備万端でも試合がショッパかったら仕方がない。時間はそんなに取れないが集中して練習しよう!」
「はい!」
「こんちはー、写真部でーす」
練習が一区切りついた頃、写真部の堀川部長が訪ねてきた。
「おー映美ちゃん、ブロマイドできた?」
「いい出来よ〜」
皆であれこれ言いながら、出来上がったブロマイドを見る。確かにいい出来だ。
と、すみれが首をかしげる。
「先生これさ、オレと美依希はキャラを変えて出てくるじゃん?ブロマイドで先に見えてたらインパクト弱くならない?」
確かに。考えてなかった。
すみれと美依希だけ試合後に売るか?いや、そんな時間は……
と悩んでいると、小鞠が手を上げる。
「プロモーションビデオ的なのを撮って、会場で流しましょう。
キャラと名前覚えてもらっといたほうが応援してもらえるし」
「それありね。iPhoneでじゅうぶん良い動画撮れるしね。すみれちゃん、SNSに上げるのは大丈夫?」
「常識的な内容なら、特に制約はないぜ」
というわけで、翌日は小鞠監督のもと急遽プロモーションビデオ撮影会になった。
「まず制服姿の立ち姿に『1年A組市川美依希』の字幕!
それから……ゲヘヘ……制服のブラウスのボタンを外すカットを挟んで
コスチュームの立ち姿を下からあおって
『深窓のカラテスナイパー 魅依綺』
そこからひと言コメント動画
という流れでいきます!ヨロシク!」
「おい小鞠、お前のなかの中年男性が漏れ出てるぞ」
まあ、でも流れは悪くない。さすがプロレスオタクだ。
「コンプライアンス上、ブラウスのボタンはブレザーを脱ぎ捨てるに変更。その他は小鞠案でいこう」
「センセ、ミーキちゃんだけでもポニーテールを解くカットをお願ぇしますだ」
「あ、それはいいな。美依希頼む」
美依希は顔を赤らめてこっくり頷く。
ファンクラブが出来るわけだ。
撮影が進んで優羽のコメント動画の番だが、何か言いたげな様子だ。
「どうしたんだ優羽、お前恥ずかしがるタイプでもないだろ」
「うん……あのね、リングネーム
『橋本サーシャ』にしていいかしら。
ハーフに生まれて嫌な思いもたくさんしたけど、今回チケットお願いに行った商店街の人たちも『サーシャちゃん、サーシャちゃん』って親切にしてくれてね。
それにプロレスって、欠点も短所もキャラやネタにして笑い飛ばすじゃん。
おかげでアタシも、少し変われたかなって思うし」
「優羽さん!すごく良いと思います。今回一緒にご挨拶にまわって、優羽さんがご家族やご近所ですごく愛されてるのが、よく分かりました!
……私もサーシャさんって呼んでいいですか?」
「あ、ずりーぞ!オレもサーシャって呼ぶ!」
「じゃあ小鞠はサーちゃんで!」
「よし!じゃあ優羽は
『共商の白熊 橋本サーシャ』
だな!」
「白熊は余分だよ、デリカシーゼロ男!」
準備と練習で走り回っているうちに、あっという間に共商祭前日になった。
「い、いくらやっても、何かを忘れてる気がするな」
「ホントですねセンセ……」
「チケットは180枚か……まあ上々だわね」
「じゅうぶんすごいですよ、サーシャさん!」
「ホントだよ……ヤベッ!これ見ろよ!」
皆ですみれのスマホを覗き込む。
『この魅依綺様の蹴りを受けて、生きて帰ろうなんて思いあがりもはだばだし……ごめんなさいもう一回お願いします!』
と美依希が真っ赤になる10秒ほどの動画だ。再生回数:70万回とある
「すっごいバズってるわね」
「コメント欄も盛り上がってるな
どれどれ、
『かわいすぎて100回リピートした』
『これを観ないと1日が終わらない』 『Japanese pretty school girl playing heel wrestler』
『どこに行けば彼女に会えるんだ』
おいおい、海外まで波及してるぞ」
「こ、これNGのやつじゃないですか!なんで流してるんですか!?」
「ごめんミーキちゃん、あまりに可愛いからショート動画で流したらこんなことに」
「背に腹は代えられん。小鞠『共商祭でもしかしたら当日券あるかも』ってコメント入れといてくれ」
「了解」
「せ、先生〜」
「みーちゃん諦めなさい。
あの2人はプロレスのことになると、モラルが欠落するのよ」
いよいよ共商祭当日。
朝からクラスやクラブの展示、出し物や模擬店が軒を連ねる。
運動部は飲食系の模擬店が多いが、ふだんあまり目立たない文化系のクラブが展示や販売で脚光を浴びるのも、毎年の恒例だ。
毎年花形の書道部のパフォーマンス書道、大トリの吹奏楽部コンサートは講堂を使うので、体育館が空いているのも幸いだった。
午前中は小鞠たちも、他の出し物を見て回ったりしている。
体育館への搬入は昼からだが、ひとりで道場のリングを解体していると
「草野さん、旗揚げおめでとう。
手伝おうか」
長谷川が顔を出してくれた。
「長谷川さん、来てくれたのか!
旗揚げなんて大層なもんじゃないが、精いっぱいやるよ。
これも長谷川さんがリングを使わせてくれたおかげだ、ありがとう」
「いや、助かってるのはこちらも同じでね。よかったら試合前に、花束贈呈させてくれないか。
まあ、うちの団体の宣伝を兼ねて、という下心100%なんだが」
「抜け目ないな。長谷川さん。
世話になってるし、もちろんOKだ。
時間がカツカツなのであまり時間は取れないが」
「もちろん、手短に終わらせるよ」
ロープを外しながら、長谷川はニヤリと笑う。




