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プヲタJKとアラサー俺、プロレス部をつくる  作者: 遊星


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17/31

17話 JKW部長・桂木小鞠


「センセやっぱりおかしいです。

なにか小鞠に隠してませんか。

オンナの勘は鋭いんですよ」



どうする、適当に誤魔化すか。

いや、俺は気の利いた嘘をつけるほど器用な人間じゃない。

合宿の夜のことをありのままに伝えるか。

でも優羽たちに断りも無しに伝えるのはマズいよな。

そもそも俺は何もしていないよな、なんでこんなに追い詰められているんだ。


『男は常に間違っているんだ草野』


あぁ、瀬尾さんの幻影が見えてきた。

どうせ何やっても間違えるなら、全部言ってしまうか。

瀬尾さん、俺はどうしたらいいですか……


『大概のことは謝ればなんとかなる』


分かりましたっ!

会場の壁を場外乱闘でブチ破った時と同じ、90度の礼をする。



「すまん小鞠っ!優羽たちが来ないのは俺のせいなんだ

いや、正確には俺のせいでは無いんだが俺とのやり取りがきっかけなんだ」


「はい?」


「合宿の日の夜、俺が優羽にその……告白……されてな」


「こくはく?」


「その……優羽が前から俺のことを好きで……今も……好きだって……言われた」


俺と小鞠の顔がみるみる赤くなっていく。

なんだこの地獄は。


「それを美依希とすみれも見てしまっていてな、その後……その……美依希とすみれにも……好きって……言われた」


小鞠はもうふらついて、リングのエプロンを支えにして立っている状況だ。


「さ、ささ、3人から同時に告白されたってことですか」


「はい……」


「それで気まずくなって皆来てないと」


「はい……」


「……それでセンセは、3人とも抱き寄せてチューとかしたんですか」


「そんなわけないだろ」


「じゃあ誰と誰にはチューしたんですか」


「なんで複数前提なんだよ、俺は何も言えず突っ立ってただけだよ」


「誰にもチューしてないんですね」


「はい……チューしてません」


「3人から告白されたのに、なんで小鞠を起こして聞いてくれなかったんですか」


「そうはならないだろ。

3人とも俺に惚れてるから小鞠もそうかも、叩き起こして聞いてみよ、って頭イカれてるだろ


あれ、ってことは小鞠も俺のこと……」


「キェェァーー!」


小鞠のフルスイングの張り手が飛んできて、意識が飛びかけた。


「ここはロマンチックな葉山の夜じゃないんです!

汗臭い道場で、汗まみれ首元ダルンダルンTシャツなんです!

ホントにデリカシーないですね!殺しますよ!」


「ということは、あの沈黙の朝食も、八景島シーパラダイスキャンセルもその一件が原因ですか」


「はい……そうです」


「キー!小鞠のシーパラ!許せん!

絶対に仲直りして全員で行ってやる!」


仲直りって、そんな復讐心みたいな心持ちでするものなのか。

あと、シーパラはお前のじゃない。


でも小鞠絶対泣くと思ってたけど、泣いてない。

かわりにめっちゃ怒ってる。

もしこの提案が救いになれば……



「あのさ小鞠、もし3人が戻ってこなかったら、共商祭で俺とシングルマッチしないか。

2度とやらないつもりだったプロレスだけど、お前となら……」


「あ、そういうのいいんで」


俺の信条と尊厳をかけた提案は、0.5秒で却下された。


「小鞠たち4人でここまで来て、代わりなんかもう無いんですよ。


小鞠がなんとかしますから、センセは血のションベン出るまでスクワットでもして待っといてください。

用事があったら呼びます」


そう言うと小鞠は蝶野みたいに


「ガッデム!」


と悪態をつきながら出ていった。




次の日の放課後、言われたとおりスクワットをしていると


「センセ、スクワットしてる場合じゃないですよ」


と小鞠が入ってくる。そんなぁ。


「これ、カッターで切ってミシン目入れてハンコ押して、チケット200枚作っといてください」


と、チケットがびっしり印刷された画用紙を渡される。図案はおそらく小鞠の手書きだろう。


『JKW旗揚げ戦 9/19 15時ゴング

於:共商学園体育館』


なんとなく昭和を感じさせるチケットだ。


「じゃ、小鞠は放送部と新聞部に行ってきますんで、今日中にヨロシクです」


と、また慌ただしく出ていく。




そこから夏休みのあいだ、小鞠はずっとひとりで走り回っていた。

どこかに打ち合わせに行っているか、

部室に帰ってきたと思ったら、手帳とにらめっこしながら何かの書類を作っている。

頭からしっかり湯気は出ていた。


俺は時々雑用を振られるぐらいで、本当にスクワットやプッシュアップといった基礎トレーニングを久々にみっちりやるだけになってしまった。




夏休み最終日の8月31日夕方、小鞠が何かの書類を書き終えるとひとつ息を吐いてペンを置いた。


「センセ、しばらく練習できてなかったですね。

やりましょう。試合形式で」


そう言うと小鞠はTシャツを脱ぎ捨ててヴェノムのファイトショーツとスポーツブラになった。


美依希とのエキシビションマッチ以来の姿だ。


「小鞠、ちょっと待ってくれ」


コスチューム作成の時持ってきた現役の時のロングタイツを履いて上も脱ぐ。


リングシューズは持ってきていなかったのでハイカットのスニーカーだが、

試合の時と同じように、靴紐を全部靴のなかにしまう。


「お待たせ。10分ちょいで」


「小鞠が勝ちますよ」




返事はせずにシェイクハンド。

ロックアップから小鞠がヘッドロックで締め上げる。リストを取って脱出しレスリングの攻防。


俺がタックルで倒しロープへ。

ドロップダウン、リープフロッグ、ドロップキック。

女子でキレイに出来るヤツはなかなかいない。


小鞠が殴る蹴るからコブラツイスト。

いいぞ。

体格を利して腰投げで返すと、小鞠の背中にサッカーボールキックを見舞う。


中盤はじっくり首攻めするのが、草野龍哉の組立てだ。フェイスロック、首四の字、ネックブリーカードロップで攻めたてる。


とどめと、コーナーに突進する俺をかわして渾身のスクープスラ厶で反撃。


ロープに縋って立ち上がりかけたところに、側頭部へのドロップキック。

おお、容赦ない。


小鞠、引き起こしてブレーンバスター。フォール。2で返す。


「草野立てぇー!」


スピアー狙いか、小鞠が走り込んだところにカウンターのクローズライン。


コーナーへのスティンガースプラッシュ、セカンドロープからのエルボードロップ。1、2、返す。

現役時代定番にしていた追込みだ。


グロッキーの小鞠を引き起こして、フィッシャーマンズスープレックス

、3ギリギリで返す。


「うおおおぉ〜!」


俺は絶叫し2発目を狙う。

いかせまいと腰を落としてエルボーを落としまくる小鞠。


振りほどいて、俺に重いフォーアームをみまう。俺も普段使わないフォーアームで対抗する。


何発打ち合ったか分からない、小鞠が10発以上連打を仕掛けてくる。


最終盤だ、苦しいだろう。食いしばった口元から泡を吹いて、目の焦点も合わなくなっている。


終わらせるぞ、小鞠。

髪を掴んで、小鞠の首筋に渾身のエルボースマッシュ。

小鞠は腰から崩れ落ちる。


走り込んだ俺にカウンターのスピアー!両足を取ってジャックナイフ固め。美依希から取ったフィニッシュだ。


3ギリギリでクリア。慌てて立ち上がった俺の背後に素早くまわり、ジャーマンスープレックス!

3カウントが入る。


2人とも突っ伏してしばらく動けない。キツい!プロレスってこんなにキツかったか?


「し、しんどーい!エルボー連打してる時、おばあちゃんが手招きしてたよ」


「あそこ頑張ってくれたから、フィニッシュがめちゃくちゃいい流れだったよ。フィッシャーマン大丈夫だった?」


「余裕ですよ、草野龍哉に受け身習ったんですよ!」


そんな事言うな、泣きそうになるじゃないか。身体を起こして握手を求める。


小鞠も力強く握り返す。


「小鞠、難しいコト苦手だけどめいっぱい考えて、やるだけやりました。

共商祭、絶対成功させます」


「うん、役に立たない顧問でごめんな。

小鞠は最高に頼りになる部長で、俺の最高の弟子だよ」




小鞠は握手していた手を離すと、ゆっくり俺の腰に手を回し胸に顔をうずめた。


一瞬だけ考えてから、小鞠の背中に腕を回す。俺が掴んで乱れた髪を直してやる。


「センセ、2人とも汗だくですね」


「ああ」


「センセ、やめどきがわかりません」


「俺もだ」


小鞠の動悸が落ち着いていくのを感じる。

共商の森でヒグラシが鳴いている。

夏が終わる。





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