14話 採寸、水浴び、セレブリティ
夏休みを直前にして、ついに全員のキャラが固まった。
小鞠はリングネーム:小鞠
王道プロレス技を使う正統派。イメージカラーは赤
美依希はリングネーム:魅依綺
切れ味鋭いキックを操る女スナイパー。イメージカラーは黒
優羽はリングネーム:橋本優羽
JKWイチの体格を誇る重戦車
イメージカラーは白/青
すみれはリングネーム:ビオレータ・リンダ
華麗なルチャ殺法を繰り出すマスクウーマン
イメージカラーは当然バイオレット
コスチュームのイメージ画は、意外と絵心がある優羽が描いたらしい。
「しかし、コスチュームはどうするんだ?俺もコスチューム職人は知ってるが、部費じゃ4人分とても足りないぞ」
「先生、何年ここでやってるんだ?ウチは実践を旨とする商業高校だぜ?」
「おー、スミレちゃん久々の生徒会長モード!」
「おう、皆ついてきな」
と、部室棟に連れてこられる。『家庭科部』と札がかかっている。
おっとりした雰囲気の部長が出迎える
「あら中嶌会長、久しぶり」
「こんちは、衣笠部長。プロレスのコスチュームを文化祭までに4着頼みたいんだけどさ」
「プロレスのコスチュームは作ったことないけどレオタードとかの生地で大丈夫なのかしら?
でもかなり丈夫に作らないといけないわよね」
「こんな感じで考えてんだけどよ」
とデザイン画を見せる。
「ふ〜む、これは材料代だけで1着5000円くらいかかりそうね〜。1着1万5000円でどう?」
「1万2000くらいにならねーかな?」
どんどん進んでいく商談にあっけに取られてしまった。結局1着1万2500円で成立したらしい。
「な?ウチは部活間での外注がOK、むしろ推奨されてるんだ。さっきのもちゃんと契約書を交わすんだぜ。」
「ちなみに共商祭は事前に内容の承認さえ取れば、外部との取引もOKだからな、夏休みも忙しいぞ」
いかん、また小鞠が頭から煙を吹いている。
「さっそく採寸してくれるらしいから、とっとと先生は出た出た」
と部室から押し出され、ぴしゃりと引き戸が閉まって鍵がかかる。
カチカチカチとメジャーの音が聞こえる。
「あら〜桂木さん着痩せするタイプね。羨ましいわ〜」
「うひゃひゃ、くすぐってー」
「市川さんバスト84、メモしてちょうだい」
「あの……すみません、もう少し小さな声で……!」
うーむ、ここに居ないほうがよさそうだな、と腰を上げた瞬間引き戸が空いて小鞠が顔だけ出す。裸の肩が見えている。
ちゃんと着てから出てこい。
「センセ、家庭科部の人がコスチュームの見本をみたいって。
明日センセが来てたやつ持ってこれますか」
翌日、ずっと使っていた青いロングタイツを持って家庭科部を訪れる。
「お〜これが草野龍哉の!」
「久々の呼び捨てだな」
「なるほど、柄はこう作ってここが二重に……参考になりました」
と衣笠部長。
「デザインは自分で決めるんですか?」
「色は団体の他の人と被らないように、デザインは、イメージだけ伝えて職人さんに任せてたな
俺は名前に龍が入ってるから、ドラゴンっぽい柄にしてください、とか」
「あの……センセ!」
小鞠が意を決したように発言する。
「着て見せて貰わないと分かりません……!」
「なんでだよ!そもそもお前が何を分かろうとしてるんだよ!衣笠部長も、今見てだいたい理解してただろうが」
「先生、聞き分けの無いことを言わないでください」
「オイ、なめてんのか?」
「クサリュウ、今さら何恥ずかしがってるのさ」
「念のため着ているところも確認させていただきましょうか」
衣笠部長まで。
こいつらメチャクチャ言いやがる。
「そもそもコスチュームってリングシューズからサポーターからテーピングまで全部トータルでセットだからタイツだけ履いても……」
と文句を言いながら足を通す。
「ほら、出来たぞ、ちょっと現役時より足細くなっちまったけどな」
「センセ、なんで上着てるんですか」
「いい加減にしてくださいね」
「やっぱり舐めてるだろ」
「往生際が悪いわね」
「腰回りが見えませんので」
これもうセクハラじゃないか?
観念してTシャツを脱ぐ。
「おお……」
「どうします?」
「し、写真撮るか」
「そうね」
「背中側もお願いします」
小鞠のインカメで集合写真を撮った。
なんの時間だこれは?
無事にコスチュームを発注し、いよいよ夏休みを迎える。
各人のキャラクターも決まった。
いよいよ試合へ向けての実戦的な練習が中心となり、より熱が入る。
「いいか、いくら技がキレイに決まってもそこに戦いがなければ、観客の感情は揺さぶられない、戦いを見せていることを忘れるな」
「締められて苦しい人間の手は、そんなところでブラブラしてないぞ!締めている相手の腕を掴む、ロープに逃げようとする、全身に仕事をさせろ!」
「技が決まってホッとした顔をするな!優羽、お前は手玉に取られて投げられたんだ、悔しいはずだろ!」
「美依希、ふだん余裕の表情を浮かべている分、大技を受けたら悪鬼のような表情だ!『こんなはずでは、許せない』目と顔で表現するんだ」
「もっと間を空けろ。プロレスでは観客に伝わらないことをやっても意味がない。どんな思いで相手を引き起こしてるか、何を狙ってるか、全部理解できるようにだ」
「ずっと早く動く必要はない。静と動のギャップ、動き出しの速さがあれば速く見える」
教えることは無限にある。
本来は試合のなかで自分で見つけていく技術だ。
道場で習得するのは大変だが、やるしかない。
冷房も無い古い倉庫は、地獄の暑さだ。
夏休みに入ってから、練習後に道場前で水浴びをするのが恒例になった。
ホースを持つのは俺の仕事だ。
適当に上を向けてシャワーにしたり、誰かを狙ったり。
「センセ、こっちかけて〜」
「オレばっか狙うんじゃねーよ!」
皆、無邪気なものだ。
アンダーウェアが透けるのも構わずはしゃいでいる。
部員たちを冷やし終わったら、中で着替えている間に俺の番だ。汗で重たくなったTシャツを脱いでホースで頭から首にかけて水をかける。
身体が濡れると、夏の熱風もいくぶん涼しく感じる。
着替え終わった部員が出てくる。
「それにしても毎日暑いわね。痩せちゃうわ」
「優羽さん細くなったらキャラが崩れちゃいます〜」
「お、出てきたな。来週のお盆1週間は練習休みにするから、しっかり体力回復させてくれよ」
「やったー!」
「あの……」
少し遅れて出てきた美依希が、皆に声をかける。
「私の親戚が葉山に別荘を持ってまして、1泊使っていいと言っていただいているので、都合があえば皆で行きませんか?」
「はやま?」
「スゲー!皇室かよ!」
「さすがお嬢様ね」
さっそく相談が始まる。親に連絡を取ったりなんやかんやして、8月13日14日の1泊に決まったようだ。
「あの……先生もぜひ」
「いや、ダメだろ」
「センセ、これは地獄の夏合宿なんだよ!猪木ならパラオ、JKWは葉山なんだよ!」
「猪木さんのパラオも、どう見ても遊びに行ってたけどな」
「ママに聞いたら『大人が付いていくなら』って条件だったわ」
「あーあ、先生がダメならキャンセルかー」
こいつら、どんどん息が合ってきていてやがる……!諦めのため息をつく。
「仕方ないな、でも届けも出してないから部外で言いふらすなよ」
ハイタッチしてるんじゃねーよ。




