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プヲタJKとアラサー俺、プロレス部をつくる  作者: 遊星


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12/31

12話 セール、化粧、昔の話

7月。1学期末テストも無事に終わった。

練習もチェーンレスリング、打撃、フライングメイヤーやボディスラムといったといった基礎的な投げ技など、順調に進めていく。


「再三言っているが、プロレスではセールが大事だ。大げさなくらいやって試合ではやっと観客に伝わるんだ」


セールは簡単に言えば受けた技を「痛がる」リアクションだが、ただの演技とは言い切れない奥深い技術だ。


「見本を見せてみようか。小鞠、軽くフォーアームを入れて適当に攻めてみて」


小鞠がフォーアームスマッシュを俺の胸にペチンと当てる。

「グワァッ!」

吹っ飛んで豪快に後ろ受け身。

息を荒げながらロープにすがってなんとか立ち上がる。

小鞠の腹に弱々しく反撃するが倒れる。

倒れた背中に小鞠、ストンピング。

悶絶しながらコーナーのほうによろける。

小鞠、トーキックを入れる。

腹を押さえながら別のコーナーに逃げる。


「と、こんな感じだな。小鞠、どうだった?」


「すごくやりやすかった!次どうやって攻めるか自然に出てきた感じ!」


「うん、今のは受けながら体勢とポジションを変えたから、攻め手が色んな攻撃をしやすいわけだ。」


「寝っ転がって『グワ!』『ギャア!』と言ってるだけだと攻め手が同じことしかできないし、無駄な手数が増える。なにより、受け手が頑張っているようにみえない」


「じゃあ1分間適当に攻めるのを順番に回していこうか。

今小鞠が攻めたから……美依希攻め、小鞠受けで」


小鞠のやられっぷりがいい。

声の出し方、表情のバランス、全身を使った感情表現。

やはり長年観ているだけあって、プロレスへの解像度が頭ひとつ抜けている。


美依希の攻めもいい。空手経験を活かしたコーナーに詰めての突き、サッカーボールキックも軸になりそうだ。固め技の出しどころもいい。


「次は優羽攻め、美依希受けだな。

優羽は体格を活かして、チョップとか踏みつけとか中心に攻めてみ。

美依希も、もう受け身問題ないだろ」


まず組み際に優羽がトーキックで止めてボディスラム。


「あー」


ん?

コーナーに詰めて体重を活かした踏みつけ。


「きゃー」


引き起こしてオーバーハンドチョップ。


「ぐー、くそー」


1分経過。エプロンで小鞠とすみれが笑いを堪えている。


「美依希、セールが棒読みだな」


堪らず小鞠とすみれが吹きだす。


「こらこら笑うな。なんでだろうな、攻めてる時は気合のこもった声出てるのにな」


「すみません、空手で攻撃の時は声出すんですけど、やられる時は何か恥ずかしくて」


と美依希は顔を真っ赤にしている。


「んー、じゃあもうセールしなくていいや」


「え?」


「プロレスの鉄則は『出来ないことはやらない』だ。

ちょうど、美依希のキャラクターも『空手をバックボーンにキックで戦う』だけじゃ弱いと思ってたんだ。

攻撃を受けても涼しい顔をしている、冷酷非情な女スナイパーでいこう」


「優羽、化粧道具持ってるよな?」


「何でもだいたいあるわよ」


「ディズニーヴィランみたいなメイクできる?アースラとかマレフィセントみたいな」


「クサリュウ、詳しいじゃん!

一度ミーちゃんメイクしたかったのよ!手下ども、連れてきな!」


「アイアイサー!」


と小鞠とすみれもノリノリだ。




「素材が良いと、えらいことになるわね〜」


優羽がため息をつくと、小鞠とすみれがうっとり頷いた。


美依希の健康的な肌は陶器のような白に、切れ長な目は黒いアイラインが吊り上げている。そして大きめに引いた黒いリップの異様さが目を引く。

ポニーテールを解いて緩く巻いた黒髪が妖しく三方を覆っている。


「これが……わたし……?」


「そうだ、お前は市川美依希じゃない、カラテヴィランだ!雑魚どもの攻撃など効かない、無慈悲な蹴りで屈伏させるんだ!

というわけでやるぞ!」



リングに上がる。

俺がエルボーを連打するが、黒い唇をニヤリと上げて笑ってみせる。

ボディスラムで投げるが、髪をかき上げて余裕の表情。

突進した俺にカウンターのトラースキック。

髪を掴んで引きずり起こし、背中にサッカーボールキック。


「キェァー!」


ドボォッと鈍い音で、美依希の足が俺の背中にめり込み頭の先まで響く。

おお、これは……いいキックだ……

グワッ、顔まで踏まれた……


「皆、どう?いい感じ?」


美依希の足の下から聞いてみる。


「美依希かっけーよ!峰不二子みたいなテカテカブラックのジャンプスーツ着せてーな!胸元が空いたやつ!」


「いやいやすみれちゃん、ミーキちゃんの長い脚を出さないのはもったいないってもんだよ」


「じゃあ、片足片腕だけ出てるジャンプスーツタイプはどうかしら。余計に露出している部分がエッチなんじゃない?」


「み、皆さん私を勝手に脱がさないでください!」


美依希が、俺の顔を踏みつけたまま抗議する。よし、美依希はこの路線でいけそうだな。




「美依希、仕度できたか」


道場の片付けをしながら、1人残った美依希を待っている。


「遅くなってすみません、お化粧がこんなに落ちないなんて……

それに、私だけいつも皆より出来なくて」


「いやいや、最後は何か乗り移ったかのようにいい動きだったぞ。美依希はコツさえ掴めば出来るタイプなんだよな」


「それにオレも、昔は同期と比べて何もかも出来なくてさ。美依希の気持ちは分かるつもりだよ」


「受け身もヘタ、力も身体も無い、グラップリングで毎日毎日極められまくって、『お前は才能が無いから田舎に帰ったほうがいい』って言われ続けてね」


「え、意外です。先生すごく才能があるのに」


「はは、センスと才能は秀の1/10だって先輩に言われてたな。あ、秀ってのは同期のやつで、センスの塊って言われててな」


「へー、同期の方は今も活躍されてるんですか?」


「う、うん……」


戸締りをしていた俺の手が止まる。


「どうしたんですか?」


美依希が俺の顔を覗き込む。

くそ、なんで俺は秀の名を出してしまったんだ。


「活躍……してない。

病院のベッドで、5年前から眠り続けている。

前に駅前のマックで会っただろ。秀の見舞に行くのが休日の日課なんだ」


美依希が息を飲んだ。


「何回もやってる、第1試合のシングルマッチで。

俺がかけた中盤のバックドロップ、

なんてことない技、落とし方もふつうだった。


それでもう秀は動かなくなって、イビキをかきはじめた。

イビキの音と、力の抜けた秀の身体の重たさが今も忘れられない」


「たまたまその日、秀の両親と弟も見に来ててな。医者に何度止められても寝てる秀に縋り付くんだよ、目を覚ませって」


「何回も何回も考えるんだ。

ああなったのが、なぜ才能が無い俺じゃなく秀だったのか。

もしかしたら俺の投げ方が悪かったのか。」


「俺はプロレスを始めた時から、自分がそうなる覚悟はしていた。

でも、対戦相手……秀の人生……覚悟が……出来てな……」


最後まで話すことができなかった。

膝をついて、地面に落ちる自分の涙を見つめ、声にならない自分の声を聞いた。


「だから私が部活紹介で頭を打ったときも、あんなに心配してくれたんですね……」


美依希は跪いた俺の頭に手を回し、優しく胸に抱えた。


「やめてくれ、やめて……」


暮れ始めた共商の森に、俺の嗚咽が低く響いた。


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