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7. 初めてのお風呂


「――本日、魔王様をお風呂に入れます」


私が宣言した瞬間、魔王軍の幹部たちが凍りついた。


「お、お風呂……!?」


「魔王様を……水に……!?」


「危険すぎる……!魔力が暴走したら城が沈むぞ!」


いや、沈まないから


私は苦笑しながら、腕の中の赤ちゃん魔王、ルシエル様を見下ろした。


「ルシエル様、お風呂入ろうね。気持ちいいよ」


「……ぁ?」


ルシエル様は、不思議そうに首をかしげる。

その仕草だけで魔族たちが悶絶した。


「か、かわいい……!」


「魔王様の首かしげ……尊い……!」


いい加減、落ち着いて……



魔王城の浴場は、黒い大理石でできた広い空間だった。


湯気がふわりと立ち上り、温泉のような香りが漂っている。


私は袖をまくり、ルシエル様の服をそっと脱がせた。


「はい、手をあげてー」


「……ぁ……」


ルシエル様はおとなしく従う。


魔族たちは壁際で震えていた。


「乳母殿……! 魔王様の裸身を……!」


「なんという神聖な儀式……!」


「目が……目が潰れる……!」


いや、赤ちゃんのお風呂だから。


私はルシエルを抱き、湯船の縁に座った。


「じゃあ、ゆっくり入るよ。怖くないからね」


ルシエルの足をお湯に浸す。


「……っ!」


小さな体がびくっと震えた。


私は優しく声をかける。


「大丈夫、大丈夫。あったかいでしょ?」


ルシエルはおそるおそる足を動かし――


「……ぁ……」


お湯の感触を確かめるように、小さな手で湯面をぺちぺち叩いた。


ぱしゃっ、ぱしゃっ。


その瞬間、魔族たちが叫んだ。


「水が……!水が魔王様に従っている……!」


「なんという神秘……!」


「乳母殿……これは奇跡……!」


ただの水遊びです。


私はそっとルシエルを湯船に入れた。


「ほら、気持ちいいね」


「……ぁ……!」


ルシエルの顔がぱっと明るくなった。


そして――


ぱしゃっ!


小さな手で水をすくって、私の顔にかけてきた。


「きゃっ……! もう、ルシエル様ったら!」


ルシエルは、声をあげて笑った。


「きゃー!」


その笑い声に、魔族たちが全員崩れ落ちた。


「魔王様が……!」


「お風呂で……笑われている……!」


「乳母殿……あなたは神か……!」


いや、ただのお風呂なんだけど。



私はルシエル様の頭を優しく洗いながら、小さな角の根元を丁寧に拭いた。


「ここは痛くない?大丈夫?」


「……ぁ……」


ルシエル様は気持ちよさそうに目を細める。


かわいすぎる……


魔族たちは涙を流しながら見守っていた。


「乳母殿……!」


「魔王様が……完全に心を許しておられる……!」


「これはもう……母君だ……!」


私は笑いながら、ルシエル様の体をそっと抱きしめた。


「ルシエル様。お風呂、好きになった?」


ルシエル様は、私の頬に自分の頬をすり寄せて――


「……みりあ……」


胸がぎゅっとなった。


うっ……

この破壊力は……やばい。


「うん。ミリアも大好きですよ」


ルシエル様は、満足そうに笑った。


その笑顔は、湯気の中で光る宝石みたいに綺麗だった。








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