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13. 寝かしつけ


――その夜、魔王城は不穏な揺れに包まれていた。


「乳母殿……!」


「魔王様が……眠気で魔力が不安定に……!」


「このままでは城が……!」


魔族たちが青ざめて走り回る。

私は急いで、ルシエル様の部屋へ向かった。


眠いと魔力が暴走するなんて……魔王の寝かしつけ、難易度高すぎる。


扉を開けると――


「……みりあ……」


ルシエル様が、ベッドの上でぐらぐら揺れながら座っていた。


赤い瞳はとろんとして、小さな角がふにゃっと垂れている。


あ……眠いのに頑張って起きてる顔だ。


「ルシエル様、眠いですか?」


「……ねむくない……」


絶対眠いっ!


私は、そっと近づいた。


「おいで、ルシエル様」


「……や」


出た、イヤイヤ期の名残。


でも、ルシエル様は、私の服をぎゅっと掴んでいる。


本当は抱っこしてほしいんだ。


私は優しく抱き上げた。


「眠くないなら、ミリアの胸で休みましょう」


「……ん……」


ルシエル様は、私の胸に顔を埋めた。


その瞬間――


ドンッ!


黒い魔力が小さく爆ぜた。


やばい、眠気で魔力が漏れてるっ……!


魔族たちが悲鳴を上げる。


「乳母殿、危険です!!」


「魔王様の眠気は災害級!!」


「結界を――」


「結界張らないで!余計に不安になるから!」


私は、ルシエル様の背中を優しく撫でた。


「大丈夫、大丈夫。眠いの、怖くありません」


「……こわい……」


ああ……眠るのが怖いんだ。


私は耳元で囁いた。


「眠っても、ミリアはそばにいますよ」


ルシエル様の体が、びくっと震えた。


「……ほんと……?」


「本当」


私はゆっくり揺れながら、前世で覚えた子守歌を歌った。


「ねんねん、ころりよ……ルシエル様はいい子……」


ルシエル様の呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


でも――


「……みりあ……」


「はい、ここに」


「……ねたら……みりあ……いなくなる……?」


ああ……これが不安の正体か。


私は、ルシエル様の頬に手を添えた。


「いなくなったりしません。ルシエル様が眠っても、ミリアはそばにいます」


「……ほんと……?」


「本当です」


ルシエル様は、涙を浮かべた。


「……みりあ……すき……」


「ミリアも大好きです」


突然、ルシエル様の体が震えた。


「……ねむい……やだ……!」


黒い魔力が、一気に噴き上がる。


ドォォォォォン!!


部屋の壁が揺れ、窓が割れそうになる。

魔族たちが叫ぶ。


「ぎゃああああ!!」


「魔王様が眠気で暴走しておられる!!」


「乳母殿、退避を!!」


退避しないから!


私は、ルシエル様をぎゅっと抱きしめた。


「ルシエル様、大丈夫。眠いのは怖くありません」


「……こわい……!」


「怖いときは、『みりあ』って呼んで」


ルシエル様は、涙でぐしゃぐしゃの顔で叫んだ。


「みりあぁぁぁぁ!!」


その瞬間――

黒い魔力が、ふっと静まった。

空気が軽くなり、部屋の揺れが止まる。


私は、ルシエル様の背中を優しく撫でた。


「上手に呼べました。もう大丈夫」


ルシエル様は私の胸に顔を埋め、小さな声で呟いた。


「……みりあ……ねむい……」


「はい。眠っても大丈夫ですよ」


私はゆっくり揺れながら、もう一度子守歌を歌った。


ルシエル様の呼吸が深くなり、小さな手が私の服を掴んだまま――

すう……と眠りについた。


「……おやすみ、ルシエル様」


私はその小さな額に、そっとキスをした。


部屋の外では、魔族たちが涙を流していた。


「乳母殿……!」


「魔王様の眠気暴走を……抱擁だけで……!」


「これはもう……母君ではなく……聖母……!」


ゼファードさんは、震える声で言った。


「ミリア……あなたがいなければ、魔王様は眠ることすらできないだろう」


そして魔王軍の誰もが悟った。


魔王ルシエルを眠らせられるのは、世界でただひとり――ミリアだけだ。












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