第6話 戦乙女の組織図
黒を基調とした隊長服に身を包んだダークシアは、テーブルの最奥に腰を下ろし、細い指でホログラムを操作した。
「基礎の再確認をする。
アリア、お前はまだ正式配属して間もない。
ちゃんと頭に入れておきなさい」
アリア・ルミナリスは黒のロングパーカーを羽織ったまま、背筋を伸ばして座っていた。
隣に座るセリスが小さく微笑みながら頷く。
ホログラムが展開され、巨大な組織図が空中に浮かび上がった。
【聖導院国家アルマ=セラ 戦乙女(Val’Luthia)
総組織図】頂点:機械神〈ルシア〉
└ 神託管理機構「エリュシオン・コア」(中央浮遊都市)
├ 第1~第3聖導院正規軍(主力)
│ ・白銀聖騎士団(重装・正面突破)
│ ・聖詠唱師団(広域支援・浄化)
│ ・神託執行部隊
├ 第4~第6遊撃聖導隊(専門特化)
│ ・第4:山岳・森林戦特化
│ ・第5:海上・霧海戦特化
│ ・第6:都市内鎮圧・対人戦特化 └ 第7~第12遊撃小隊(独立機動部隊)
※各小隊定員6~8名。全員女性。
※最前線でのエイドロン核破壊を主眼とした高速遊撃専門
現在の第7遊撃小隊「ノクティス・レイヴン」
所属人員
隊長:ダークシア・ノクティス(24)
能力:闇属性広域制圧+指揮統制。戦場全体を「影の網」で覆うことができると言われる。
副隊長:セリス・ヴァルハイト(21)
能力:光属性支援魔法+近接剣技。隊の精神的な支柱。
主力戦闘員:アリア・ルミナリス(18)
能力:神速+先読み。現時点で小隊内最高機動値。
重装前衛:ガルディア・アイゼン(26)
火力支援:ライラ・ヴォルテ(22)
治癒師:ミア・ルヴェール(20)
斥候:エマ・シュヴァルツ(19)
偵察・分析:ユリア・ケイン(23)
ホログラムが回転し、各隊員の顔写真と簡易能力値が表示される。エマが手を挙げて明るく言った。
「ねえ隊長! アリアってすでに『切り札』扱いされてるよね? 神速値が測定史上トップクラスなんだって!」
「そうね」
ダークシアはわずかに口元を緩めた。
「ただし、まだ経験が浅い。……アリア、質問はある?」
アリアはホログラムを見つめながら静かに口を開いた。
「……第7小隊より上の、第1~第3聖導院正規軍とは、どれくらい実力差があるんですか?」
部屋の空気がわずかに張りつめた。セリスが穏やかに答える。
「正規軍は人数も装備も段違いよ。
でも、彼らは『正面の戦争』をする。
私たちは『エイドロンの心臓を抉る』ために存在する。
……使命が与えられたとき、私たちはそのためにしか生きられない」
その言葉に、アリアの胸の奥が疼いた。
(兄さん……カイも、こんな組織の中で戦っていたの? それとも、使命に逆らったから凍結されたの?)
ダークシアがホログラムを切り替えた。
「次に、明後日の作戦について。砂海帝国ヴァル=アザルとの境界付近で、中級エイドロン『悲嘆の蜘蛛姫』の反応を確認。複数個体確認されているわ」
ライラがため息をついた。
「また蜘蛛かよ……胸の赤い核が気持ち悪いんだよね」
ガルディアが豪快に笑う。
「私が正面で受け止める。お前らは好きに暴れてこい」
ユリアが冷静に補足した。
「ただし、今回は通常の遊撃ではなく、聖導院正規軍第2師団との共同作戦です。……上層部が何を考えているのか、注意が必要かと」
アリアは無意識にロングブレード「エクス・ルミナ」の柄に触れた。
(使命……正義……本当にそれが正しいのか)
そのとき、部屋のルシア紋章が強く光った。
【神託更新】
第7遊撃小隊へ。
境界領域にて「悲嘆の蜘蛛姫」3体を確認。
速やかに殲滅せよ。
失敗は許されぬ。
逆らう者は凍結の刑に処す。
沈黙が落ちた。ダークシアが立ち上がり、冷たい笑みを浮かべた。
「さて、諸君。組織図は頭に入ったわね?
私たちは歯車じゃない。……でも、歯車であることを拒否すれば、すべてが凍りつく。
覚悟はいい?」
アリアは赤い瞳を細め、静かに頷いた。
「はい、隊長。
……私は、まだ、自分の意志で戦いたいと思っています」
セリスが驚いたようにアリアを見た。
ダークシアの目が、わずかに細まる。
ホログラムの組織図がゆっくりと回転し続け、ルシアの冷たい光が少女たちの顔を照らしていた。




