第5話 第7遊撃小隊
黒鐘の音が鳴り止んでから一時間後。
ノクティス中央修道院の地下作戦会議室に、第7遊撃小隊の面々が集まっていた。
長い楕円形のテーブルを囲む8人の戦乙女たち。
部屋の空気は張りつめつつも、どこか家族的な親密さがあった。
隊長席に座るダークシア・ノクティスが、冷たい視線で一同を見渡した。
黒髪を長く流した彼女は、まるで闇そのものを纏っているかのようだった。
「全員揃ったな。始める」
右隣に座るセリスが、軽くアリアの肩を叩いて微笑んだ。
アリアは小さく頷き返した。
ダークシアが低い声で報告を始めた。
「先ほどの廃坑の件は、アリアとセリスが処理した。よくやった。……しかし問題はそれだけではない。中央から新たな指令が下った」
テーブルに広げられた地図を指で叩く。
「ここ三日間で、エイドロンの発生数が通常の2.8倍に跳ね上がっている。
特に北方国境付近と、ノクティス東部の廃墟地帯だ。上層部はこれを『使命の揺らぎ』によるものと見ている」
そこへ、明るい声が飛び込んだ。
「えー、また北方ですか? 寒いのにー」
茶色の短髪を揺らして身を乗り出したのはエマ・シュヴァルツ(19歳)だった。斥候担当の彼女は、いつも小隊の空気を和らげてくれる。
「エマ、黙ってろ」
隣で腕を組んでいた長身の女性ガルディア・アイゼン(26歳)が低い声で窘めた。
灰色の短髪に筋肉質の体躯を持つ重装前衛は、小隊の守護壁そのものだった。
「でも本当のことじゃん。ガルディア姉さんだって寒いの苦手でしょ?」
「私は任務だと言えば耐える」
二人のやり取りに、ミア・ルヴェール(20歳)が柔らかく微笑んだ。
淡い金髪の治癒担当は、いつも穏やかな空気を纏っている。
「アリアさん、大丈夫でしたか? 先ほどの戦闘で少し無理をしていませんでしたか?」
ミアが心配そうにアリアの顔を覗き込む。アリアは赤い瞳を細めて微笑んだ。
「ええ……大丈夫です、ミア。ありがとう」
すると、向かいに座っていたライラ・ヴォルテ(22歳)が、赤みがかった茶髪を掻き上げながら口を尖らせた。
「新入りのくせに、もう中級個体を一人でぶっ倒してるんだから大したもんよ。
まあ、私の雷撃があればもっと早く終わってたけどね」
ユリア・ケイン(23歳)は無言で腕を組み、ただ静かに聞いている。
影のように静かな彼女は、ダークシアの側近として小隊の暗部を担っていた。
ダークシアが再び口を開いた。
「次の任務は明朝、ノクティス東部廃墟地帯の調査及び殲滅だ。
エイドロンの発生源に近づいている可能性がある。
全員、最大戦力で臨め。アリア」
突然名前を呼ばれ、アリアが背筋を伸ばした。
「お前は先頭を切れ。神速と先読みの組み合わせは、小隊の切り札だ。……ただし、無茶はするな。
副隊長のセリスがフォローに入る」
「はい、了解しました」
セリスが優しくアリアの背中を軽く叩いた。
「私がついているから安心しなさい」
会議が終わり、メンバーたちがそれぞれ装備の確認や休息に入ろうとしたとき、エマがアリアの隣にぴょんと寄ってきた。
「アリアちゃん、今日も顔が暗かったよ?
戦った後ってやっぱりしんどい?」
「……少しだけ。でも、みんながいてくれるから大丈夫」
ガルディアが遠くから声を掛けた。
「無理するなよ。新人」
ミアが微笑み、ライラが「頑張れよー」と手を振る。
ユリアは無言で頷いただけだった。
アリアは小隊の仲間たちを見回した。
厳しい隊長、優しい先輩、賑やかな仲間たち。
ここにいると、自分が「戦乙女」であることを、素直に受け入れられる気がした。
しかし、胸の奥底では、先ほどの廃坑で見たエイドロンの残響が、まだ静かに疼いていた。
(……本当に、私たちは正しいことをしているのだろうか)
黒鐘が、再び低く鳴り始めた。第7遊撃小隊は、明日も使命のために戦う。アリア・ルミナリスは、まだ知らない。
この小隊と共に過ごす日々が、やがて彼女の運命を大きく変えていくことを。




