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「全艦に通達。全ての艦のエネルギー・シールドを停止せよ」
「て、提督!」
今度こそ、ミリエルは絶叫した。
こんなこと、もう博打では済まない。
ここで敵が砲撃すれば、全艦撃沈されて終わりだ。
だが、艦長は冷静に指令を発した。
「本艦のバリアを停止せよ」
「各艦へ通達、シールド停止!」
「全艦、シールド停止しました!」
「右回頭90度、敵におしりを向けろ。・・・・・・艦尾エンジンジェネレータにエネルギー注入、オーバードライブ砲準備に取り掛かれ」
「提督!」
何度目だろう、ミリエルはまた叫んだ。
「オーバードライブ砲はまだ試案段階です!まだ実戦使用には。それに」
オーバードライブ砲、その説明はミリエル少尉もレクチャーを受けていた。
エンジンの臨界点を探るため、高負荷作動させている時にクサカベ博士が思いついたものだ。
全兵装およびメインエンジンを制御する船尾ジェネレータ、これを最大負荷以上までわざと作動させ、暴発させてやれば、船体自体を一本の超巨大砲として強大なエネルギーを放つことができる、と。
だが、これはもはや自爆攻撃に近い。
メインエンジンが臨界を超える、すなわち暴発の危険性や、発射後に船体が耐えられなければそのまま爆発四散してしまう。
なおかつエネルギーチャージに60秒もの時間がかかり、その間はビームバリアも使えず、エンジンに着弾したらおしまいだ。
ふ、と提督が笑った。
「ここで使わずにいつ使うのだ?少尉。構うことはない、ここで負けたら全て終わりだ。・・・・・・大丈夫、これはあのクサカベ博士の発案だ、ちゃんと動くよ。きっとね」
「オーバードライブ砲、エネルギー注入開始!コンデンサ接続、発射まで60秒!」
「さあ、1分ほど待ってくれよ、ミディオンちゃん。おとなしく、な」
ゆっくりと、全艦が回頭する。
艦尾をミディオン艦隊へと向けて。
ミリエルは、食い入るようにスクリーンを、敵戦艦群を睨んだ。
さっきは40秒、敵がこちらのビームバリアがないことに気づき、砲撃が到達するまでにかかる時間だ。その後に砲撃が来た。
だがオーバードライブ砲を使用するとして、充填までに必要な時間は60秒。差し引き残り20秒、その時間を敵は待ってくれるのか。
いま、一斉に相手の砲撃が火を噴けば、こちらは跡形もなく消し飛ぶだろう。
果たして、敵の砲撃はピタリ、と止んでいた。
バリアを止めた艦には砲撃しても仕方ない、そう学習したからだろうか。
だが、一斉にバリアを止めた意味をどう考えているのか。
そして、こればブラフだとバレるまで、どのくらいかかるのか。待ってくれるのか。考え込んでいるのか。分からない。
ただ息をするのも憚られた。
1秒がとても長く感じた。
それはブリッジの全員も同じだろう。メイブリッジの中では、誰も言葉を発しなかった。全員が食い入るようにスクリーンを注視していた。
やがて____
目の前の敵戦艦群が、一斉に明滅した。
来た、と身構えたミリエル少尉だったが、予想されたような衝撃はやって来なかった。
代わりに、敵艦隊の群れの中にいくつもの大輪の花が咲いていた。
「敵艦隊、被弾!ABC魚雷です!」
「やった!カザマ隊による攻撃です!・・・・・・カザマ大尉より発光信号、奇襲成功。ワレ、ただちに離脱する」
「そうか。・・・・・・よくやった」
まさか、このタイミングを計算して?
ミリエルは信じられない気持ちでいた。
ABC弾頭を搭載した魚雷は強力であり、敵のバリアをも貫通する威力を持っている。その分弾速は遅く、使用するタイミングが難しい。量産も難しいため、数も各艦1発ずつ程度しか装備されていなかった。
そうか。
カザマ大尉の別働隊。
あれは小型艦を集めて別行動を取らせ、このタイミングで攻撃させたのか。
だが、どうやってこちらがオーバードライブ砲を使用するタイミングを、カザマ大尉に伝えていたのか?
あらかじめ、バリアを止めるタイミングを見計らって?
そんなもの、数秒のズレも許されないはずだ。もう神業としか思えなかった。
敵艦隊が、カザマ隊が潜伏していると思われる方角に砲身を向け、一斉砲撃を行うのが見えた。
だがもう離脱しているはずだ。着弾の光は見えなかった。
そして。
運命の、残り20秒が稼ぎ出された。
「オーバードライブ砲、エネルギー充填率150%!爆縮アンカー作動、プラズマ臨界可能限度まで充填完了!」
「照準完了。本艦は敵マザーシップへ照準。姿勢制御装置オートスタンバイ」
「全兵装収納、船内スペースのエアロック完了、隔壁閉鎖終了。機関部乗組員、全員退避。・・・・・・提督、いつでも発射できます」
「200%まで充填せよ」
「了解。・・・・・・各艦ともエネルギー充填、200%!最大出力です!」
「船体が吹き飛ぶぞ!総員、衝撃に備えろ!」
「撃て!」
アラン・ケレスの口から、この日一番の強い口調が発せられた。




