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アラン・ケレス。
彼は最初、軍人ですらなかった。
ミディオンに占領された地球上において、希少な「運び屋」であった。
軌道上から地上を監視されていた人類は、ほとんど国家間の流通というものがなかった。船でも飛行機でも、ミディオン兵に捕捉されるか、あるいは大気圏外の母船からの攻撃にさらされ、目的地へたどり着けるのはごく僅かだった。
そんな中、ミディオンのレーダーに引っかからないよう、地表や海面スレスレを超高速飛行し、日本、台湾、インドネシア、ニュージーランドを行き来する者たちがいた。それが「運び屋」だ。
アラン・ケレスはニュージーランド航空の航空機パイロットであった。ミディオン侵攻後、軍に依頼され、偶然合同訓練中であったため置いてあった他国のステルス戦闘機を運用し、ごく少量ながらも物資や技術、兵器、時には各国の要人も運んでみせた。
人類が宇宙へ進出後は、いち早く月面基地と地表を往復する運搬船の運用にあたった。
ある時、彼とその仲間は、運悪くスペース・デブリに衝突し航行不能となっていたミディオン小型艦を拿捕、地球防衛軍月面基地へと運び込んだ。半ば強引にこの艦を私物とし、地球防衛軍と交戦後のミディオン戦艦を追撃・拿捕したり、撃破されたパーツを集めたりして資金を集めた。
だが、彼の名前を知らしめたのは、「海賊」としてであった。
鹵獲艦を用いて、アラン・ケレスと仲間たちは、ミディオンが火星から物資を木星や土星へ運んでいるルートを探った。
警備がないのをいいことに、彼らは輸送船を攻撃・拿捕し、護衛していたミディオン兵多数を荷電粒子砲で撃破した。彼らが月面基地へ「獲物」を大量に持ち込んだ時には、地球人全員から拍手喝采が起きた。
間もなくミディオン側も警備が厳重となったが、彼はそれを翻弄するように輸送船を襲撃して回った。この功績により、一気に地球防衛軍の陣容が整うこととなった。
ある時、アランの巡洋艦はミディオン戦艦に追われることとなった。度重なる襲撃で、ミディオン側も警戒を強めていたのだ。
巨大な戦艦の主砲が迫る中、彼は「トリック」によって敵戦艦を拿捕してみせた。
「単純なトリックさ」
彼は後、英雄譚を聞こうと集まってきたブン屋たちに向かって言った。
「敵の砲撃に合わせて、大量のデブリをばら撒き、そこへ砲撃して爆発させてみせたのさ。相手のレーダーからすれば、爆発四散したように見えたんじゃないかな。あ、でももう二度とは通じないだろうよ。何せ相手はコンピューター文明、だからな」
こんな程度の低いトリックに引っかかるものか、という議論はあったが、結果的にアラン・ケレスは敵を騙し、エンジンを止めて漂流させ、背を向けたところをエンジンを撃ち抜いてみせた。
こんなペテン師まがい、あるいはただの博打打ちに艦隊を任せるなど断固反対、という声も多数あった。ミリエル少尉もその一人だ。
だが、他に誰に任せる?と言われて適任者は誰にも思いつかなかった。どんなペテンであっても、間近に敵戦艦が迫った時にそれを行う度胸がないものには成功しない。
「俺に任せるだって?全く、正気かい?」
アラン・ケレス自身、そう言ったが、正式に地球防衛軍から身分と任命状が贈られると、慎んで拝領した。
艦長の中には露骨に嫌っている者もいるが、表だって反抗するものはいまのところいない。
「面白い男だ。むしろ、ああいう輩のほうがいいんじゃないか」
最も反対すると思われていた叩き上げの軍人、ナドル大佐などは人選を聞くと、そう破顔した。
ミリエル少尉としては歯噛みする想いであったが、これは軍の正式な決定である。表立って反抗は許されない。心の中でどう思っているかはともかく。
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「各艦の乗組員、及びスタッフに告ぐ。・・・・・・私はアラン・ケレスだ」
会議を終え、各艦長が集まった前で、提督はマイクを手にした。
戦闘宙域では無線封鎖が基本だが、敢えて行いたい、と希望したのだ。ミリエル少尉としては極力反対したのだが、どうしても、と押し切られてしまった。
「あと6時間ほどで、我々は敵本隊と遭遇する。正直、あっちの方が強い」
ニヤリ。
その正直さと笑みに、何人かの艦長もつられて笑い出さずにいられなかった。
「諸君らの中には、わたしの経歴を知って気が進まない者もいるだろう。絶対に勝つ、などとは言えない。だが、精々できることはやってみるつもりだ」
また笑いが起こる。
「我々が負けたって、地球が滅びるわけじゃない。精々、人類が滅びるだけさ。ミディオンの連中は、なぜか人類だけを目の敵にしている。あいつらがきて、キリンやクジラが絶滅したってのは聞かないな。まあ、地球は大丈夫だ。もちろん、我々は我々の家族や友人を守るために戦う。そのために、諸君らの協力が必要だ。ちょっと驚くようなことがあるかもしれないが、私を信じて従って欲しい。よろしく頼む。以上だ」
ふう、と提督がマイクを口から離した。
「正直、こういう演説ってのは慣れないね。ガラじゃない」
「そんなことないですよ。戦いが終わったら、大統領にでも立候補してはどうです?」
ミキル少将が差し出した飲み物を、提督は笑顔で口にした。
「なるほど、それも悪くないな。もっといい女が寄って来てくれるかもしれない」
「品行方正に欠ける、とただちに失職しますね」
ミリエル少尉が憮然としてつぶやくと、違いない、と提督も周囲の艦長たちも笑った。
「提督。我々も出発します」
背後に控えていた一人の士官が進み出て敬礼した。
彼は艦長クラスではない。だが艦長たちよりも重要な人物である。
提督も敬礼を返した。
「カザマ大尉。健闘を祈るよ」
「はっ」
「任務が終わったら、手筈通りに。くれぐれも、間違った方向へ進まないようにな」
「心得ております」
カザマ大尉が退室すると、各艦の艦長たちも三々五々に自艦へと戻っていった。
「提督。ご武運を」
「ああ。君もな」
最年少のナガモリ大尉が敬礼し、退室した。
20人を超える男たちが去り、ミリエル少尉は少し寂しさを感じた。
「さて、少尉。君も少し休み給え。開戦まで、あと6時間ほどある」
「いえ、結構です」
「緊張していては、実力も出せないよ。どうかな、僕の部屋で少し」
「お断りします!」




