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8月5日 15:00 (1時間後)

地球艦隊旗艦 「フォーマルハウト」艦内、戦闘ブリッジ


「提督、全艦の艦長が揃いました」

「うむ」


敬礼するミリエル少尉に、こちらもアラン提督が敬礼で返す。

さっきのアンニュイなバスローブ姿とは違い、ちゃんと軍服を着こなしている。

顔を洗い、髪を整えると、俳優ばりの長身にハンサムである。それが少尉にはまたちょっと憎い。


ずらり、と並んだ20名の艦長。

勲章を付けた軍服姿が一堂に会すと、やはり圧巻である。ミリエル少尉は誇らしく感じた。

これが今、地球人の持てる戦力のほぼすべてである。


「みんな、よく集まってくれた。礼を言う」


明るく緊張感に欠けた声で、提督が言葉を発した。

まるで、学生のピクニックで引率をしているかのようだ。


「提督、何か作戦が?」


ずい、と前に進み出た男。

さほど身長はない、むしろ低い方だが、並び立つ男達の中では最も存在感があった。


戦艦「ペテルギウス」艦長、ナドル大佐。

ミディオンとの戦いが始まってから、ずっと一線で指揮をとり続けている猛将である。その肩幅は広く、格闘家のような目つきも鋭い。

が、ナドル大佐に睨みつけられても、アラン提督は涼しげな顔を崩さなかった。


「ん、まあ、作戦といえは作戦だけどね。・・・・・・僕の命令はただひとつ、全艦、どんな指令が出ても、必ず僕の指示に従ってもらいたい」

「それはまあ、当然のことでありますが」


ナドル大佐だけでなく、他の艦長たちも互いを目を合わせた。

軍事に於いて上官の指令は絶対であり、それはこの寄せ集めの地球防衛軍艦隊においても例外ではなかった。


だが、あえて念を押す、ということは。


「・・・・・・よほど奇抜なことを、お考えで?」

「んー、どうかな。・・・・・・少なくとも、僕はこの作戦が最もうまくいく、と思っている。だが戸惑いはあるだろうし、一糸乱れぬ行動を示さなければ、勝利する確率は下がるだろう。確固たる意志を示さなければ、無用の動揺が広がりかねない。君たちにはそれをうまく制御してもらいたい」

「必ずや、提督の指示に従うことをお約束しましょう」


敬礼と共にそう答えたのは、艦長達の中でも最年少、19歳の士官であるナガモリ大尉だ。

彼が乗る戦艦「ベガ」は最も小さいが、同時に最も新しく整備された最新鋭戦艦でもある。


ナガモリ大尉に続いて、全員が敬礼した。


「それから、もし本艦が撃沈、あるいはわたしが戦死した場合、その後の指揮は「アルデバラン」艦長、ミキル少将へ引き継ぐ。・・・・・・ミキル、よろしく頼む」

「ええ」


細面に長い銀髪の男、ミキル少将が笑顔を浮かべた。

提督の元副官であり、手の内はだいたい知られている。彼ならきっと、何も言わなくても提督の「作戦」の概要がわかってしまうだろう、そう少尉は思った。


再び全員に向き直る。


「偵察衛星の情報から、本艦隊は約4時間後に敵ミディオン艦隊の主力と遭遇する。・・・・・・兵力差はこちらがA級、B級戦艦合わせて21隻に対し、あちらはA級戦艦だけでも127隻と推測される」


ごくり。

誰かの喉の音が、少尉にも聞こえてきた。

ここにいる全員が分かっていた。人類とミディオンとでは、圧倒的な差があることを。そしてその一隻一隻もまた、ミディオン艦の方が高性能であることも。


何せ、自前で宇宙戦艦を建造する技術も設備もないのが地球人なのだ。ミディオン艦を拿捕、撃沈、あるいは故障して漂流しているのを回収・改修したもの、それらをかき集め、継ぎ合わせたり改装したりして、ようやく集めたのがこの21隻なのだ。この艦隊を失えば、もう人類に未来はない。


ミディオン。

未知なる宇宙から来訪した、地球人類の敵。


彼らに関して、人類が知り得る情報は驚くほど少ない。

分かっていることは、彼らが高度な技術を有する機械文明であり、地球を侵略していること、人類を害することを何ら躊躇しないということ、木星から土星付近を拠点にしていること、そして資源を欲している、ということだ。


少尉は人類とミディオンの攻防の歴史を思い浮かべた。

今から8年前、2025年、地球に「使者」が訪れた。

それは宇宙から大気圏内へ降下する、巨大な円盤状の物体であった。


SFでしか語られることのなかった宇宙からの訪問者に、地球人たちは狂喜乱舞した。あちこちでお祭り騒ぎが起こり、あらゆる言語でメッセージが送信された。人文字や音声などでも、歓迎の意向を伝えた。

3日ほどかけて「UFO」は地球を一周し、宇宙へと消えていった。

UFOが消えても、地球人たちの熱狂は収まらなかった。急速に宇宙熱が高まり、各国がしのぎを削って宇宙計画を発表し、天文学者たちが望遠鏡を覗き込んだ。


あれは宇宙からの侵略者、その偵察部隊だ、そう唱える陰謀論者たちもいたが、多くは笑われるか呆れられるか、あるいは無視された。

警告をまともに信じ、戦う準備を始めた者はごく僅かだった。

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