ヘルト視点②──侵入者⋯迷子?
――脳内でAIと会話しつつ、自宅の玄関へ辿り着く。
雷は相変わらずだが、だんだんと遠退いている。
今夜は雨には降られなさそうだ。
手元の鍵を開けつつ、会話相手へ質問する。
(子どもが食べられる、栄養価の高く、簡単な食事の
候補をいくつか出してくれ。自宅にある材料で頼む。)
『了解。一番手軽にあげる候補は、保存庫にあるミルクジャムと乾燥麦を煮たミルク粥を推薦する。
次に、干し肉と野菜のスープ、芋のポタージュ、レンズ豆と干し肉の煮込み、蕪の腸詰スープ、などが候補に挙げられる。』
(煮るのに時間がかからないか?)
――――ガチャリ。
バサッ、カタッ⋯
自宅へ入ると外出用の上着をハンガーラックにかける。
『干し肉を使う料理には、魔道圧力鍋を使えば問題ない。』
コツ、コツ、コツ⋯
「それ、使うの何十年ぶりだと思ってるんだ?」
――カチャリ。
玄関の鍵をかける。
外出していた際に、獣の毛にかかったホコリを軽く払う。
目視で、周りに異常がないことを確認しながら、部屋の奥へと進む。
『記録を確認。最後に使用したのは冒険者時代の野営地で。
32年前だと報告する。』
( …間違いが起きることは無いだろうが、料理は不得手だ。
サポートは頼んだぞ。)
『責任重大。指示通りに調理すれば問題ない。』
―――さて、一階から私が見える場所には居なさそうだ。
(奥の寝室や水場に侵入者の痕跡は?)
『家具の位置、扉を見ても痕跡は無し。一点、ロフト用ハシゴの位置にズレを確認。』
(⋯ロフトか⋯)
―――私の2メートル近い巨体では、出来ない事は多々ある。
分体をAIに起動させ、簡単な動作などを任せることもあれば、本体の意識を切替え、私が行動する事も多い。
つまり。⋯今の私では、ロフトに登れない。
(こういう時にあいつが泊まりにでも来て居れば、威圧せず上手く行くのだが。
…噂をすると、風来坊な奴は後日ひょっこり顔を出すのが恒例だが、今回はどうだか。)
『分体に切り替える前に食事を作ることを推奨する。』
(奇遇だな、私もそのつもりだったさ。)
台所脇の棚や、上にある棚を開け、貯蔵用の瓶などを物色してみる。
見つけた乾燥麦、ミルクジャム、小ぶりな手鍋、皿と木匙を棚に並べる。
魔道具の水栓をタッチして水を出すと、手鍋に水を半分ほど注いだ。
コンロに置くと魔道具の火を入れる。
乾燥麦を匙ですくい入れ、ミルクジャムも少量入れ、大きめの匙でゆっくりかき混ぜる。
(このまま弱火で煮込んでおく、で良かったか?)
『問題ない。過去、風邪気味のエルフに出した時と変わらない。あえて言えば少量塩を加えても良い。』
(子どもなら甘めが良いのではないか?)
『甘ければ良いと言うものではないと忠告する。』
(私は食べ物の味は分からないからな。忠告に従おう。)
鍋を混ぜながら会話し、とろ火にして蓋をする。
リビングテーブルに皿と木匙と、マグカップに水を満たして置く。
(さて、食事の準備も済んだ、ロフトのハシゴは掛けておく。)
『これからサブへと切り替えるか?』
(ああ。私では登れないだろう?分体に切替えて対応する。)
『一時停止状態を解除。起動後はサブで行動を主体とするか?』
「その方がいいだろう。私はスリープ状態に移行するため、
メンテ室に入る。」
『了解。これ以後、分体と情報共有に移る。』
暖炉横の本棚に手の平を当てる。
···ヴゥン。
柔らかな黄緑色の魔法陣が浮かび上がった。
色を確認すると、本棚に手を掛け、左に引く。
ちなみに、オレンジだと内部に誰かがいる状態となる。
⋯AIが分体を操作してこちらに寄越した時くらいだが。
ゆっくりと本棚が動き、一人分の通路が出現した。
私が通路をくぐると、魔道具のライトが点灯する。
棚の中には、代父から譲られた魔道具と、機械のメンテナンス用部品が所狭しと並んでいる。
そこを通り過ぎ、奥へ進むと自分の寝室だ。
私以外の人間からはおよそベッドだとは分からない、そこに腰掛けると、ゆっくりと被り物を取る。
獣の毛に覆われたそれを、洗浄機の中に収めると、身体を横たえた。
脳内で、スリープモードを開始し、意識の切り替えを行う。
―――ピピッ
――――――⋯ゥヴン。
※本体の身長は195cmと2m近いので、小さい子からはたいてい泣かれます(笑)




