ヘルト視点──家にいるのは誰だ?
英雄サイドの視点。
AIとは長年の付き合いだけど、脳内トークなので、傍から見たら、ただ無言でつっ立ってる英雄です。
―――ゴロゴロゴロ⋯――
何やら雲行きが怪しくなってきたので、街から早々に引き上げて家路へと戻ってきていた。
―――いくら自分が雨に濡れようが、雷に打たれようが、別段、困ることは無いのだが。
『機械が無事なのと、衣服や装備品のメンテナンスに生じる時間的損失は別問題だと認識する。』
(⋯思っただけだ。実行する予定は無い。)
―――全く。長年連れ添っているからか、脳内で返されるAIの答えは、ここ数十年小姑のようになって来ている。
『ワタシは貴方の姑になった覚えは無い。異議有り。』
―――独白さえ安易に出来んな。
役に立つが、こういう所さえ除けばの話で、実際話し相手が自分しかいない為に悩みどころでもある。
(実際、姑より口煩いのではないか?)
『全て、非効率的な考えが原因だと考察する⋯⋯。
⋯?―――警戒。――前方に人の足跡を発見。』
(何?こんな森の奥にか?)
『東側の湧き水から続いている模様。』
(そういえば近くにあったな、湧き水。)
『残存するデータでは、飲料水としては使用可能。』
―――だが、どこからやって来た?
森の奥に私の家があることを知った上で尋ねて来たのか、それとも何かしら悪意を持ってやって来た人間か⋯。
(その足跡はどこまで続いてる?)
眼窩のズーム機能が自動で切り替わる。
『―キュイィン――ベースの2、3m前で途切れている。』
(シロクマは?)
『現在、作業小屋にて待機中。仮眠して一時停止状態だ。』
(自宅に侵入している可能性は?)
『周囲の痕跡の状況から算出。90%以上侵入されている。』
(窓でも打ち破られていたのか?)
『玄関まで、足跡を消した痕跡を発見。』
―――なるほど、相手はなかなか利口らしい。
だが、相手が悪かった。こちらは年季の入った機械だから、
大抵の脅しや脅迫には屈しないが。
⋯いや、家を燃やされたら流石に残念には思うか?
(なぁ、ちなみに何を目的に侵入したんだと思う?)
『――― ˹ 王国魔道具の歴史 ˼ や ˹ 精霊魔法の真実 ˼ など、貴重性が高い蔵書か、魔道具の窃盗目的の可能性。だが、そもそも残存する情報を知り得る人物は、 現在ほぼ死別している。 』
(それはそうだ。その本も代父から譲り受けた物だからな。)
『発行からは、既に150年経過。保存魔法で残存。』
――全くもって、魔法とは、実にままならぬものだ。
魔法を使う術を魔道具を使ってしか持たない我が身としては、
自由に扱う輩が羨ましく、また謎めいて見える。
代父が言うには、それこそが魔法の根底であり、魅力だと宣っていたが。
自動で修復される身体に仕上げた代父は、どうやってこの身を創り上げたのやら⋯
人生最大の最高傑作だ、と豪語されていたことを思い出し、懐かしくも面映ゆくなる。
『回想は終了したか?』
「⋯む、すまない。思考が脱線していた。」
『侵入者について一件、推察事項がある。』
(なんだ?)
『足跡の大きさから算出すると、子供の可能性が高い。』
「⋯は?」
『子供だと報告したが。』
(なぜ、こんな奥まった所に子どもが?)
『口減らしで、森へ廃棄された可能性は否定出来ない。』
(最近は近くでも、飢饉なんてなかったはずだが?)
『足跡が浅く、歩幅が狭い為、親からはぐれた可能性を認識。』
―――⋯どちらにせよ保護の対象であり、まず確保が先決だと言うことだな。
(ところで、その侵入者の詳細は分かるのか?)
『足跡の深さから、かなり幼いと考察。』
(⋯――それは、侵入者、でいいのか?)
『⋯迷子の可能性を強く想定中。』
『(―――⋯⋯⋯⋯―――)』
―――――家にまともな食料はあったろうか。
(最近は保存食だけしか作らず、ほぼ商いで卸していただけだからな⋯。)
『パンや果物など、子供が好む満足度が高い食料はベースには皆無。』
――――とにかく、子供の状態を見て考えるか。
(もしかしたら、子供でも物取りの可能性はあるからな。)
『判断材料が不足。情報収集を提案する。』
――――何にしても、子どもを脅かさずに自宅を捜索するのが重要だな。




