息を殺した家の中には
―――カチャリ―――
扉の閉まる音が部屋に響く。
詰めていた息を吐き出すと、ゆっくり部屋を見渡してみた。
裏口だけあって、こちらは勝手口みたいだ。
―――人が住んでいるなら、もうすぐ夕食の支度を始めるはず。
ここへ戻ってくるかもしれない。
そう思って左右へ目をやったが、右側にあった台所にも、奥にあるテーブルの上にも、食事の用意はしていないようだ。
―――そもそも。
「こんなに大きな家なのに、⋯家具が、これだけ?」
つい、口からすべり落ちた。
入ってすぐ目に入ったのは、およそ飾り気の無い内装だった。
目の前にあるダイニングテーブルには、地味な生成のテーブルクロスがひかれ、端には大きめのバスケットが置いてある。
片手にパンを持つと、パンを包んでいた服で自分の足を拭い、ダイニングテーブルに近寄ってみた。
バスケットの中を覗いてみるが、パンや果物が入っている訳でもなく。
畳んだ布巾や食器がカゴの横に置かれ、磨かれたナイフやフォーク、大小の皿がカゴの中に重ねられていた。
ホコリよけなのか、大きめの布巾までかかっている。
だいたい、食器棚何てものが見当たらない。
隣の小さな戸棚には瓶詰めがいくつかと、テーブルにあるようなバスケットが二、三個並んでいて、それが全て。
後ろを振り向いて台所を見ても、小さなコンロが二つ並んだ下に、鉄扉のオーブンがあるだけの簡素な台所だった。
おまけに、目に見える場所には鍋やヤカンなんかは見当たらない。
ちゃんと上に戸棚はあるけど、あまり使っていないように感じるのは気のせいだろうか。
―――生活している感じがない?
もしかして本当に鍵をかけ忘れていたとか?
目線の先にソファらしきものはあれど、こちらにもカバーが掛けられている。
座った形跡もないし、後ろにある台所だって、たくさんの料理を作るようなスペースは無い。
何となくモヤモヤしながらも、なるべく音を立てずに部屋の奥へ進んでゆく。
リビングの奥には大きめの暖炉があったが、こちらも火を使ったあとは無かった。
もう秋の空気も感じる朝晩に、薪もわずかで、灰も何も無い。
――外の小屋に薪があるのかな?
暖炉の横の壁には、本棚が二つ並んでいた。
右から左までぎっしり。
背の高い本棚には、高そうな背表紙の重そうな本や、糸で閉じたようなものまで様々並んでいる。
つい、一つ一つをしげしげと眺めてしまった。
―――――ゴロゴロゴロ⋯――――
遠くの雷鳴にハッと意識が戻った。
―――ぼーっと見てないで、寝られそうなとこ探さなきゃ。
住人が近くにいれば、雨が降ったらきっと帰ってくる。
その前に隠れないといけない。
本棚の隣の廊下へ目をやると、扉が続いていた。
扉の前の棚には、タオルや籠が置いてある。
それを見て、何となくお手洗いとお風呂があるのでは、と感じる。
以前住んでいた叔母夫婦の宿にも、共同風呂があった。
そうして、廊下の棚に替えのタオルや洗顔用の石鹸を置く仕事をしていた。
その奥は行き止まりで、窓が見える。
―――ここまで来ても、人の気配が感じられない。
⋯って事は、今は誰もここにはいないってことでいいんじゃない入った痕跡は残っていない。
ふと見ると、台所を仕切っている壁に、ハシゴが立てかけてあった。
―――なんでこんな所に?
そういえば、外からは分からなかったけど、この家の天井はだいぶ高い。
「⋯っあ。」
見上げると、ハシゴを立てかけられるように、一部だけ手すりが開いた二階部分があった。
―――ここなら、すぐには見つからないかも。
パンは、片手に持ったままだった。
流石にハシゴは、片手じゃ重くて簡単には持ち上げられない。
パンを口に咥え、両手でゆっくり引きずった。
―――幸い、手すりの直ぐ横の壁が引っ掛ける場所だったので、上からハシゴを戻す時も何とかなりそうだ。
ハシゴを苦労して持ち上げると、手すりにかける。
少しだけ揺すれば、カタリ、としっかりとはまった感覚がした。




