森の終わりに着いた先
当てどもなく歩き回って茂みを抜けると、そこだけぽつりと森から抜け出したかのようだった。
―――けもの道⋯?
でもここまでまともな生き物に会えた試しがない。
そもそもこの森に動物なんているんだろうか。
―――だけど、もしかしたら。
生き物の巣があるなら雨に打たれなくて済む寝ぐらがあるかもしれない。
疲れた足を鞭打って、けもの道を辿っていくと開けた場所へ出た。
「⋯っ⋯!?」
――見たものが信じられず目を擦り二度見してしまった。
「⋯こんなとこに、家があるなんて⋯。」
深い森の奥、崖に沿うように立った平屋の丸太小屋と、井戸に倉庫が二つ。
しっかりした造りで、最近出来たばかりでは無い年季も感じる。
―――もしかすると、狩猟小屋なのかも。
良くは知らないけど、狩りをする際に、獲物を捌いたり処理したりする小屋があるそうだ。
そうした小屋は冬の時期、狩りが出来ないから人里に近い住まいへ戻るらしい。
―――それなら、人と鉢合わせない。
男たちが小屋を見つけるかもしれないが、中で見つからないように隠れていれば、しばらくは雨も水も何とかしのげる。
中はどうなってるか分からないけど、鍵をかけるかすれば、入っては来られないはず。
「⋯誰もいないといいんだけど⋯。」
独りごちると、雨が降る前にとなるべく早足で小屋へ向かった。
けもの道からは、目と鼻の先のように見えていたのに、疲れた足はそんな距離すら悲鳴を上げ続けた。
足を動かす度に引き攣れるように痛む。
引きずった足跡が見つからないように、痕跡を消すのは忘れない。
けもの道から出たあとは、地面が比較的整地されていたのもあって、茂った葉が付いた枝で歩いた跡を消して行っている。
―――もしかしたら、まだわたしを探しているかも知れないし。念には念を、だ。
後ろ向きで、歩きながら消しながら進んでいると、トンッと背中に当たる感触がした。
振り向くと、ようやくたどり着いた小屋の、柱が背中に当たっていた。
枝を近くの目立たない場所へ投げ捨てると、その場から小屋だと思っていた建物を見上げる。
「⋯思ったよりずっと大っきい。」
――狩猟小屋だと思ったの、間違いかもしれない。
小屋と言うにはそこそこ大きく、昔住んでいた叔母夫婦の宿屋くらいありそうだ。
――あそこは二階建てだったけど、幅は同じくらいありそう。
あまりいい思い出があるわけもなく、頭を振り払って入口を探す。
どうやら目の前にある扉が入口みたいだが、鍵がかかっているように見えた。
――他にも入口がないかな…。
手すりを掴んでまっすぐ進むと、井戸の近くに来た。
丁度角になった手すりを辿ると、その先に扉を見つける。
さっきの木の洞といい、水といい、何とかなっている事実に少しだけ自信が付く。
―――昔から、運はいい方だったから。
⋯あの時だって、私だけ生き残った。
扉まで来て、おそるおそる手をかけ引いてみると、少しの力で難なく開いた。
「鍵、ついてる。」
―――鍵があるのに開いてるということは、中に居るか、近くに居るか。
でも、近くに人の気配は無い。中にもだ。
意を決して、中へするりと忍び込む。
音がしないように、そっと扉を閉めた。




