真っ暗闇の森の中で
目の前は、ただただ闇が広がっていた。
たまに、木々の葉の切れ間から月が顔を覗かせ、星々が煌めくのが見える。
もう後ろを振り向いても、男達がくべていた火の明かりは見えなくなっていた。
足元のでこぼこした木々の根に躓かないよう、目を凝らして前に進む。
――いつ、わたしが逃げた事に気づいて、追いかけてくるだろう。
荒くなりつつある息を、懸命に殺しながら、一心に足を動かす。
引き攣れるように痛む足を叱咤して、ジメジメした方へ。
――たしか、なるべく下の方、地面がぬかるむ方向に水場がある、って。
いつか小屋の中の誰かと、森で水場を探す方法について話していたのを思い出す。
軍人上がりで、足を怪我して失って。家族を食わすため小屋に自分を売ったんだ、と話していた。
その男が誰かと話していた。
―――森に迷ったら、まず闇雲に動かず、周りに水音がないか耳を澄ませるんだ。
そして、地面が乾いているか湿っているかを見る。
なるべく泥濘んだり湿った方向へ進め。
そこが坂なら、下った方に水場があるはずだ。
さっき、逃げながらも周りに耳をすませたが、水音は聞こえなかった。
今までどれだけ食事が少なくても、水さえあれば何とかなった。
荷馬車を出る時に、パンも二つ手に入れてる。
―――きっと、なんとかなる。
―――まず、水は見つけておかないと。
そして、なるべく早く安全なところに。
少女は、望みを託して足を動かし続けた。
森の葉の間から日がうっすら差し込むようになると、今度は人目につかない、寝床にできそうなところを探し始める。
―――ここは寒そう。
―――ここは雨が降ったら濡れちゃうかも。
森には何故か動物の影すらなく、日が昇った筈なのに、ひんやりと薄暗いまま湿った空気が漂っている。
だんだんと足も引きずるようになり、痛みも我慢できなくなってきた。
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そしてようやく見つけたのは、少し大きめの朽ち果てかけた木。
幹が少女の頭の位置くらいから、雷で打たれたようにぱっくり割れている。
――あそこまでたどり着ければ、横になれるかも。
震える脚を持ち上げ、何度となくひっくり返りそうになりながらそこまでたどり着いた。
息が上がる。ゼェゼェと息をしながら見ると、自分の体が入るくらいの隙間があった。
中を窺うと、都合よく中には枯葉も溜まっていた。
リスの寝床だったのか、木の実なんかも転がっている。
一番広いとこから屈んで体をねじ込む。
――痛っ、いけど⋯何とか入れた。
ここなら大人は入って来られない、はず。
枯葉の上に縮こまる。転がる木の実を集め、布で包んでいた硬いパンをようやく齧る。
二口、三口と食べたところで、緊張の糸が切れたのか途端に瞼が重くなって来た。
うつらうつら、しながらパンを飲み下す。
そうして少女は、ぱたりと意識を手放した。




