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少女は世界の英雄と共に歩む  作者: 浅見 英理
自由を掴むために
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1/19

荷馬車にゆられるわたし


少女は、うつらうつらとしながら、ガタゴトと揺れる荷馬車に載せられていた。

自分と、幾人かの同じような存在と共に幌の隙間から覗く景色を見るともなく眺めていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――



野営が終わり、大人たちがやってきた。


わたしたちに薄いスープの皿と、硬いパンを乱暴に荷馬車へ置いていった。


もそもそと食べていると、何やら賑やかになって来る。

酒を飲み出したのか、歌を歌っているものまでいるようだ。


空腹を紛らわせるため、与えられた食事とも言えない食事を、良く良く噛んで薄いスープで飲み下す。



飢えを凌ぐと、何をすることも出来ないわたしたちはただ眠るだけだ。


ふと目覚めると、周りは至極静かだった。


時折、パキッ、パチパチ、と焚き火の薪が爆ぜる音がするだけ。


幌馬車の荷台で、ゆっくりと起き上がって、幌の穴から外を覘く。


周りの子達は、皆それぞれ膝を抱えて息を潜めるように眠っていた。


外から聞こえてくる音は、少し前に比べると殆ど聞こえない。


食事を終え、酒を飲み始めた頃には大声で笑って騒いでいた。


何を話しているのかまでは聞こうともしなかったので分からなかったけど。


ただ、時々自分たちのことを指して笑ったり、品定めをするような会話をしているのだけは分かった。


それも、今は聞こえない。


代わりに聞こえるのは、火の音と、馬が草を食む音。


⋯そして、男たちの大小様々ないびき。


そっと顔を上げた。


荷台には自分以外にも何人かいた。


だいたいは膝をかかえ眠っている。


一人、二人は起きているのに、何も見ていないような目をして、目の前の食事すら手を出さずにいる。


誰も動かない。


そっと、幌の隙間から外を覗いた。


焚き火のそばに男が三人。


一人は酒瓶を抱えたまま横になっている。もう一人は木にもたれ、顎を上げて眠っていた。


最後の一人も、火のそばでうつらうつらしている。


――。


怖々と、幾人かの手のつけていないままの硬いパンを服の中へ捻り込む。


ジリジリと荷馬車の外側へ移動した。

胸が、痛いほど鳴っている。



―――行けるか。



限界まで躙り寄った時に、クンッ、と足が引っぱられた。

⋯そう言えば。麻紐があったんだった。


小屋の時には無かったから、忘れかけていた。


小屋では、周りより動けないのがわかっていたから鎖には繋がれていなかった、けど。


今回は万が一と麻縄で足を繋げられていたのだ。


引っ張ったら解けるかなと、淡い期待を抱いて見ると、丁度拳ひとつ先の紐が馬車の揺れで解れたのか、一部だけ擦り切れたようになっている。


空になった、欠けた皿を持ってきて、ゆっくり擦ってみた。


ギッ、ギッ、ギッ、、、


僅かながら擦り切れた縄が解れてきた。


そのまま、ゆっくり指でほつれを広げてみると、粗悪な麻縄はブツリ、と呆気なく切れた。


見つかったらどうなるのかは、小屋で見ていたから知っている。


それでも、ゆっくり身体を動かした。


床板が鳴らないよう、這うようにして。


足に力を入れると痛んだ。


いつものことだ。


荷台の端の端まで来れた。


もう、そこに。地面が。



一度、後ろを振り返った。


誰もこちらを見ていない。


「……」


声にはしなかった。


荷台の縁に腹ばいになり、両手で縁にしがみつく。

短い足を震えながら下へ伸ばして、それから――手を離した。


トサッ


思ったより音は出なかった。


震える息を止めた。


焚き火の方を見る。


男の一人が寝返りを打った。


「……む……」


緊張で身体が固まる。


だけど、そのまま。


やがて、またいびきが聞こえはじめた。


震えながら、地面に手を付き立ち上がった。


―――逃げなきゃ。


どこへ?


分からない。


森の向こうに何があるのかも知らない。


道も知らない。


それでも、ここに残っていたら。

きっと、二度とこんな機会はない。


一歩踏み出した。


足が痛む。


もう一歩。


引き攣るように足が動かない。


だけど。できるだけ、早く足を動かした。


焚き火から、


馬車から、


男たちから、


離れていった。



挿絵(By みてみん)



暗い森が目の前に迫る。


枝が揺れるたび、何かがいるように見えた。


怖い。


それでも、もう後ろは振り返らなかった。


木々の間へ身体を滑り込ませる。


一歩。


また一歩。



―――――――――――――――――――――――――――――



艶のない金色の髪が、やがて夜の森の中へ消えていった。


少女はまだ知らない。


その先にあるものが、自分を売ろうとした人間たちよりもずっと大きく、恐ろしい姿をしていることを。


そして――その場所が、生まれて初めて自分の安寧の場所になることも。

視点を変えて少女主体へと修正しました。

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― 新着の感想 ―
作品読ませていただきました。 少女の視点で描かれる情景がありありと目に浮かぶようでした。 少女の動作ひとつが丁寧に描写されていてとても臨場感のある素晴らしい作品です! 執筆活動頑張ってください。応援し…
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