ヘルト視点――共感
台所で片付けをしながら考えていた。
⋯少女、エリィの身の上話を聞いてようやく合点がいく。
───「辛い場所から、自分の力で抜け出してここに来たんだろう?
自由を掴んだじゃないか。これから自由になったんなら、自分の好きな名前を選ぶことだって出来るし、好きなところにだって行けるはずだ。」───
自分が自分として生きていける場所を求めて逃げ出した。
────私も同じだ。だから、どこか放っておけなかったのかも知れない。
人々からの羨望、尊敬の眼差しや、嫉妬。
英雄の功績の光の下で、見られない私という影。
生きる伝説としても存在しうる私の身体は、
その無駄に分厚い服を脱ぎたくなってしまったのだ。
何かにつけて、自分自身を見てくれない人々に嫌気が差していたのもある。
だからこうして山奥に居を構え、自分を知らない人々と新しく関係を築いてきた。
外部の人間とは細々とやり取りを重ね、親友や知り合いとは変わらぬ交友を続けながら、悠々自適な毎日を過ごしていたのだ。
『それで数十年隠居しているのなら、相当だと愚考する。
──少女と行動力は同等ながら、マスターの方が捻くれ度合いが深いと思われる。』
(確かに。この身体で何十年も過ごした挙句に蟄居した私と、自らが虐げられないために自由を探し求めた少女なら、純粋なのは後者だろう。)
『その少女だが、今後の衣服や寝室についての案を提示する。』
(何だ?服はいまのところ、何とかなっているだろう?)
『マスター。貴方なら必要ないが、一般的に衣服、特に肌着は毎日こまめに交換する必要がある事をお忘れでは?』
「うむ…」
『マスターの衣服に対する無頓着さは理解する。しかし、少女まで同じ構造であると認識しているなら、驚くほど見事に配慮を欠くと申告する。』
(そうだな…それにあいつと違って少女だ。至急…衣服の替えを手配しないといけないか。)
『一つ成長できたようで何より。今後も自身に必要のない分野において、デリカシーが見事に機能停止する傾向には、くれぐれも注意するように、と進言する。』
(善処しよう。幼くても少女に不遇を強いるのは本意ではない。明日辺り新しい衣服を求めに村へ降りよう)
『早急な判断、少女にとっても僥倖と判断する。』
(ぅむ……悪かった。それで寝室の件とは?)
『少女のパーソナルスペースが必要だと愚考する。マスターの部屋は使えない為、苦肉の策だが、現状ではロフトが最善だと進言する。』
(確かに、着替えは気にせず行える方がエリィにとっても良いだろう。)
頭を撫でてやった時の幸せそうな笑みを思い出す。
…服を与えてやったらまた喜んでくれるだろうか。
『マスター、少女をペット扱いしないように、警告。』
( 断じて無い。高貴な貴族様のような崇高な趣味など私には無い。ただ、当たり前のことにあれだけ嬉しそうにするならきっと服にも素直に喜ぶんだろうと思っただけだ。
だが肌着は早急に必要があるだろう。今夜本体で夕方買い出しに出よう。)
『サブ分体は、スリープモードまたは、簡易モードでワタシが主導権を行使する許可を。』
(エリィが食事と風呂の間にひとっ走り行ってこよう。今夜は夕食を早めにしてな。食事の間はスリープモードに入る事を伝えて先に寝るように促しておく。周囲の警戒と見張りだけ頼む。)
『了解。スリープモード以後、分体の主導権委託。セキュリティモードに移り待機する。』
※AIのヘルトへの呼びかけは基本マスター呼びですが、皮肉時は貴方等の別称を使い分けてます。
※ヘルトが山に籠って暮らし始めてからは30年くらいは過ぎている設定です。




