これまでのこと
含み笑いをしながら、白くまさんは焦げ茶のケトルをもつ。
「湯も湧かせていたんだが、紅茶でも飲まないか?
ミルクジャムか、貰い物のバラジャムしかないのだが。」
キョトンとしながら訊ねてみる。
「ジャムってことは甘いんですよね?それなら、なんでも嬉しいです。」
甘いのなんて。昨日のお粥だって甘くて温かかったのに…。
お茶にもなんて、なんて贅沢なんだろ⋯。
いつも使っているのか、手際良くティーポットに茶葉を入れ、ケトルからお湯を注ぎ、近くに畳んであった厚手の布巾を被せた。
「…さて、もういいだろう。」
布巾を外すと蒸らされたお茶のいい香りが漂ってくる。
静かにカップに注がれる。
ジャムはスプーンを添えて渡されたので、まずは一匙混ぜてみる。
「温かい…。」
ほんのり、甘酸っぱいようなバラジャムが紅茶の苦味を紛らわせてくれた。
一口、二口と飲んでいると、白くまさんが話かけた。
「丁度良い空き時間だ。飲みながらでいい、ここへたどり着いた理由を教えてくれないか?」
わたしは考え考え、お茶を飲みながら今までの自分のことを話した。
…両親が幼い頃に馬車の事故で死くなったこと。
自分も一緒に事故に合い、その時に脚に怪我をしたこと。
叔母が営む宿の手伝いの為に引き取られたこと。
その後、事故が原因で走れず、歩くのも遅いからと、宿の倉庫で生活していたこと。
宿が経営難になってからは奴隷商に売られて、別の店へ送られる際に逃げ出したこと。
そこで、森を進んだ先に家屋を見つけ、雨が振りそうだったので忍び込んだこと。
「屋根裏で寝ていたのはなぜだ?家主に助けを請おうとは思わなかったのか?」
その言葉に、ギュッと唇を噛む。
「…叔母さん夫婦も、奴隷商のおじさんも、ニコニコして嘘を付いたから。
もし出会った大人がお礼を期待して、わたしを奴隷商に突き返したら?
せっかく逃げたのに、酷い目に合うだろうし、あんなとこに二度と戻りたくなかったの。」
泣きそうになりながら空のカップを握りしめ、俯いた。
「そうか…。自分で自由を掴み取りたかったんだな。」
白くまさんの言葉にバッと顔を上げてしまった。
弾みでボロっと涙がこぼれた。
白くまさんは、優しく空のカップにおかわりのお茶を注いで、ミルクジャムの器をわたしへ差し出してくれた。
「私は君を奴隷商に突き返すつもりはないよ。落ち着いたら山合いの村か、街へ養子を探す手伝いをしてあげるつもりだ。
それまでは、療養するつもりでここで暮らしたらいい。
……ただ、たまに今みたいに食事の準備や、外にある栽培小屋なんかの世話を頼みたいんだが。それは構わないだろうか?」
白くまさんがまんまるの眼で見つめる。




