第55話 呼び出された御曹司
学校帰り、大翔は鎌足の屋敷を訪れていた。
(急に呼ばれるとはな……大体見当はついてるけど)
インターホンを押すと、祖父の執事が現れる。
「お待ちしておりました大翔様。どうぞお上がりください」
中に入り、靴を脱ぐと屋敷へ上がる。
鎌足の部屋の前に止まると、ドアをノックする。
「入れ」
「……失礼します」
ドアを開けると、部屋には鎌足と昴。そして直人がいた。
「わざわざすまないねぇ~大翔」
「いいよ別に。それで要件は?」
鎌足がチラッと昴の方を見ると、昴が話し始めた。
「大翔。お前が斎藤ホールディングスを継ぐ意思はないと聞いたが……それは本当か?」
「……本当だよ」
昴がギロッと睨みつけるが、大翔は表情を変えずに真顔で見つめる。
「なんで知ってるの?それを知ってるのはおもちちゃんと秋山さんと……」
チラッとある人物の方を見る。
「……鮭坂さんの三人だけのはずだけど」
大翔の視線に気づいた直人はフフッと微笑んでいる。
「そんなことはどうでもいいだろ。何勝手に決めているんだ」
「勝手に決めたのはごめん。でももう決めたことだ。俺は斎藤ホールディングスを継がない。自分で起業する」
「お前に起業なんてできるはず……」
「未来を知りもしない癖に勝手に決めつけるなよクソ親父」
二人が睨み合い、不穏な空気が漂うのを見計らって、鎌足がゴホン!と咳払いする。
「まぁまぁ~親子喧嘩もほどほどにな」
「しかし……」
「もう決めたことなんじゃろ?儂は大翔を無理やり後継者にしようとは思わん。じゃが……」
鎌足が大翔を、鋭い目つきで見る。
「自分で起業するとはどういうことか……分かっておるんじゃろうな?」
「……分かってる。簡単なことではないことは理解している」
「……そうかい」
鎌足がマグカップに入ったコーヒーを飲むと、再び口を開く。
「なら儂が言うことはもうない。大翔を応援するとしよう」
「……!会長……」
「昴。お前も親じゃろ。親なら子供のことを応援したらどうなんだ」
「応援してた!大翔なら安心して会社を任せられると!でも大翔が……」
「昴!」
鎌足の一喝に、周囲がビクッとなる。
「お前の気持ちは分かるが、大翔にも意思がある。その意思を自分の思うように捻じ曲げるのは親のすることか?」
「……!それは……」
「この話は終わりじゃ。大翔と二人きりにしてくれ」
昴はまだ言いたいことがあるような顔だったが、不満そうに直人と共に部屋を出た。
「さてと大翔……一つ聞きたいことがある」
「何?」
「……なぜ急に考えが変わった?」
「……それは」
「さっきも言ったように攻めているわけではない。考えが変わったきっかけがあるのなら知りたいと思ってな」
少しの間無言が続いたが、やがて大翔は口を開いた。
「……仮に僕が斎藤ホールディングスを継いだとしても、必死に努力して会社に貢献した人とかからしたら……僕はずるい人なんじゃないかなって。
御曹司だからっていう理由でいきなり社長になるのは僕は好きじゃない。それならちゃんといろんな人に……
会社に貢献してくれている人全員に認めてもらって社長になりたい」
「なら……」
「……そう思っていたんだけど、企業インターンに行った時に会社員の人たちは世の中の人々が喜ぶようなものを提供したい。どうすればもっと喜んでもらえるのか。
それを何度も話し合って形にするのを目の当たりにしたら……自分は一から作りたくなちゃったんだ。自分が一から作って……
それを僕の会社で働いてくれる人たちの意見を取り入れてさらに進化する……それを社長という視点で見るのが面白そうだから……」
「……ほぅ。大翔がそんなことを考えていたとはな」
鎌足の大翔を見る目は優しい祖父の目だった。
「儂も見れるだろうか。輝いている大翔の姿が……」
「必ず成功させる。だから長生きしてね」
「もちろん。孫の野望を見ずに死んでたまるものか」
「あと……結婚式にも参加してほしいし……」
それを聞いた鎌足が、ポカンと口を開く。
「大翔……まさか……」
「うん。無事付き合えて恋人になれた」
「おぉ!」
鎌足が喜ばしい表情になる。
「もうそんなこと考えておるのか」
「まぁ……おもちちゃん以外考えられないし……」
「そうかそうか。大切にしろよ」
鎌足が大翔の左肩に手を置く。
「愛する人に愛を注げれる人物こそ、立派な人間になれる。儂の持論じゃ」
「……うん!」
同時刻。おもちは帰宅し、部屋にあるスノードームを見つめていた。
好きな人からの最初のプレゼント……
(何だろう……見てるだけでドキドキするなぁ……)
放課後の図書室から始まった物語。それはまだまだ続く。




